第15話 プール③
ストラックアウトの後、他のイベントを一通り見たり遊んだりして、私達はプール場に向かうことにしました。けど賞状はラミネート加工されているとはいえ、持ち歩くのには邪魔なので、私はロッカーに賞状を置いておこうと一人で更衣室に向かいました。
そこで私服に着替え終えた伊吹達と鉢合わせになりました。
「あれ? もう帰り?」
「ああ。そっちは一人で何してんのや?」
「賞状を置きにきたのよ」
「賞状?」
私はラミネート加工されたポストカードサイズの賞状を伊吹達に見せます。
「13時の部、最優秀賞? なんやこれ?」
「ストラックアウトって書いてるでしょ?」
「分かっとる」
「怜、ストラックアウトやったの?」
由香里が聞きます。
「うん。見事制覇したよ。で、13時の部で最優秀賞を取ったの」
「あー、だからかー」
納得した顔をする由香里。
「ん?」
「さっき峯岸に会ってね。『とんだ隠し球を持ってたのね』って言われて、どういうことだろうと不思議だったけど、そういうことかー」
「余計なことを」
伊吹は唇を尖らせ、そっぽを向きます。
「言っておくけど仇打ちとかじゃないから。賞品が欲しかったからやったのよ」
「そうかよ」
と言い、伊吹は私の横を通ります。
その背中に「何よ」と言いかけたところで、
「ま、ありがとな」
と伊吹が感謝を述べたのです。
それに続いて由香里達も、
「ありがとね」
「ど、どうもです」
とお礼を言います。
◯
「おっ! 遅かったじゃん」
「ごめんごめん」
プール場へ戻って、紗栄子達と合流しました。
「ん? 何か良いことあった?」
「どうして?」
「顔、
「え? そう?」
ペタペタと自分の顔を触ります。
「時間差?」
たぶん紗栄子は私がストラックアウトで制覇出来て喜んでいると思ったのでしょう。
「さあ?」
◯
家に帰ると母がテーブルに突っ伏してました。
何かあったのでしょうか。
「どうしたの?」
「ちょっとね」
覇気のない声が返ってきました。
「そう」
私は深く聞くのは止め、脱衣所に向かい、プールバックからバスタオルと水着を洗濯機に入れました。
そしてリビングに戻り、
「今日ね、プールで色々あってね……」
私は賞状をテーブルに置き、母に今日あったことを話しました。紗栄子と水着で被ったこと。紬が発育良好なこと。由香里達と会ったこと。昼食で紬がカップ麺を買ったこと。ピロティエリアでイベントがあったこと。
そのイベントでストラックアウトがあり、伊吹が梅原ファルコンズの峯岸に負けたこと。そして私がストラックアウトに挑戦して完全制覇。しかも13時の部で最優秀賞を取ったことを話しました。
「マジで!?」
「え、あ、うん」
死んだ魚のような目をしていた母は私の話を聞き終えると水を得た魚のようになりました。
「良くやったわ!」
母は私の手を握ります。
「え? 何?」
私は急にテンションが上がった母に困惑気味。
「フフッ、梅原も悔しがったでしょうね」
母はいやらしく笑います。
「まあね」
「そこに私がいなかったのが残念。あっ! あいつらもいないと駄目か」
母は残念そうに言います。母の言う、あいつらとは多分梅原ファルコンズの親のことでしょうね。
「仲悪いの?」
「悪いというか。なんか癪に触るのよね」
母は目を逸らし言う。
「てか、あんたストラックアウトで完全制覇したって言うけど、やっぱり野球続けたら?」
母は続けることを勧めますが、
「まぐれだって」
私は拒否します。
「2度連続まぐれってこと? そんなわけないでしょ」
「でもコントロールが良くても打たれたら駄目でしょ?」
「まあね。けど練習してもっと上手くなれば良いんじゃない。伸び代はあると思うわよ」
「まっさかー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます