第13話 プール①

 今日は学校の友達と市民プールに遊びに来ています。

 水着はスクール水着ではなくフリルビキニです。今回のために新調したものです。


「どう似合ってる?」

 着替えた私は紗栄子に聞きます。


 しかし。


「……」

「……」


 目の前には同じフリルビキニの友人がいます。


「被ってるし!」

「被らせないでよ!」

「そっちでしょ!」

「そっち」


 私達は互いに相手のビキニを指していがみ合います。


「二人とも〜落ち着きなって〜」

 のんびりした声が背後から投げられます。


「紬はどっ……」

 振り向いて紬に尋ねた私の言葉は途中で切れます。


 なぜなら──。


『なんでスク水なのよ!』

 私と紗栄子はハマりました。


「いくら市民プールといえどスク水はおかしいでしょ?」

「てか、ぱつんぱつん!」


 第二次性徴期を迎えた紬は胸が大きくなりすぎて大変なことになっています。


 指でツンツンしてやります。


「ふえええ」

 紬は胸を両腕で守り、一歩下ります。


  ◯


 まずは流水プールで遊ぶことにしました。

 泳ぐというか流れに任されてぷかぷか歩くみたいな。


「人……多いわね」


 ギュウギュウとはいかないけど速く泳ぐのが躊躇ためらわれるくらい。


「本当ね。大人も結構いる」

 紗栄子が周りを見渡して言う。


「紬、はぐれないようにね」

「大丈夫よ」

「本当に?」

「もー」


 一周して次はどうしようかと話していた時、由香里達と出会いました。


 最初に気付いたのは紗栄子でした。


「あれ? 逢沢じゃん」


 紗栄子の声に由香里もこっちに気付いて、

「紗栄子達もプールなんだ」


 由香里は白のフリルビキニ。伊吹は黄色のワンピース型水着で純はフリルのついたピンクのワンピース型水着。


「おっ! そっちの子は彼氏か?」


 どうやら紗栄子は伊吹を男の子と認識してしまったようです。


「違うわよ。てか、これでも女の子よ」

「これでもは余計や」

「あっ、関西人」

「なんや?」


 実際には何かという意味だが、文句あんのかという風に聞こえる。


「いやいや、別に」

 紗栄子は慌てて手を振って答える。


「というより女性水着を着た男なんている?」


 確かに由香里の言う通り、女性水着を着る男なんていないだろう。


「でも男のなら着るかも」

 紬が伊吹の股間を見て言います。


「どこ見とんねん」

「付いてる?」

「付いとらんわ! 女、言うとるやろ。てか自分、初対面で失礼やな」


 と言われて紬は首を傾げます。それは最初の頃の私と同じです。


「自分というのはお前って意味だよ」

 私はきょとんとしている紬に教えます。


「あ! 方言ね。聞いたことある。関西人は相手を自分って言うんだよね」


 紬は理解したようにうんうんと頷きます。


「……伊吹、関西弁やめたら?」

「由香里、今更標準語に直せは無理やで」

「でさ、逢沢達はどういう関係?」

 紗栄子が聞きます。


「学童野球」

「野球! 逢沢って野球やってんの?」

「まあね」

「へえ。意外」


  ◯


 逢沢達と別れた後、私達は波のプールやウォータースライダーで遊んだりして、その後ちょっと休憩して、もう一度流水エリアで遊泳しました。


 お昼12時の少し前に私達は一度更衣室へお財布を取りに戻り、そしてフードエリアへ向かいました。12時以降になると混むかもと考慮して、先に昼食を済ませることにしたのです。


 フードエリアにはお祭りの屋台みたいなお店が建ち並んでいます。


 私は焼きそばを買いました。テーブル席に戻ると紗栄子が先に食事をしていました。紗栄子が食べているのはお好み焼き。


「紬は?」


 焼きそばに少し時間が掛かったので私が最後かと思ったのですが、紬の姿がありません。


 もしかして紬はもう食べ終わったとか?


「そこ」

 紗栄子が箸で私の後ろを指します。


「おっ!?」


 紬が私のすぐ後ろにいました。その手にはカップ麺を持っています。


『カップ麺!?』

 私と紗栄子は驚きました。


「そんなのまで売ってるの?」

「うん。カレー味」

「てか、お湯は?」

「普通にあるよ」

「なんでカップ麺?」

「う〜ん。何にしようかなと考えてたらカップ麺の自販機があってね。珍しいと思ったら、これにしようと決めたの」

「……カップ麺の自販機。そんなのあるんだ」


 そして私と紬も昼食を取り始める。


「紬、カレー汁飛ばさないで」


 紬が麺をすするたびにカレー汁が飛び散ります。


「ごめーん。カレーだから飛んじゃうよー」

「意味不明よ」

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