第9話 因縁

「……ということがあったの」


 私はランニングから帰ってシャワーを浴び、その後、リビングで母にランニングであったことを話した。


「……まあ、そんなことが」

 母は息を吐くように言う。


「梅原町との因縁話って本当?」

「まあ……色々と尾鰭おひれは付いているけどおおむねはね。廃プラ工場の話は確証はないけどね。噂程度だと思って」

 母は額を揉みながら言います。


「そうなんだ」

「まず小中一貫校の件は食堂設計の件もあるけど、うぐいすヶ丘町側からの小中一貫校そのものの苦情が大きな原因ね」

「どういうこと?」

「鶯ヶ丘がどこかは知ってるわよね?」

「うん。あの団地のところでしょ?」


 鶯ヶ丘町は桜山町の隣町ですが、大きな川があって行くには橋を越えないといけない。


 私は土手から見たことがあるだけで行ったことはありません。

 土手からは団地が等間隔で並んでいるのが窺えます。


「そうよ。そこの鶯ヶ丘小学校が廃校されて小中一貫校に通うことになるんだけど。その小中一貫校が建てられる場所に鶯ヶ丘町側が文句を言ってきたの?」

「文句? というか鶯ヶ丘小も含まれるの?」

「そうよ。で、小中一貫校はねスーパー・フラッシュファイン近くの場所に建てられるのよ」

「それって鶯ヶ丘からしたら遠いよね」


 鶯ヶ丘町は桜山町の隣町だけど間に土手のある大きな川があり、橋を渡らないといけない。さらにフラッシュファインは桜山町の鶯ヶ丘とは反対方向の端にある。


 つまり鶯ヶ丘町に住む人は橋を渡り、町一つ分をさらに歩かなくてはいけないということ。


「そうなの。それで説明会が何度もなされて今に至るのよ。でも結局は計画通りに小中一貫校が建てられるのよね」

「へえ。で、図書館は?」

「駅名が変わったのは知ってる?」

「うん。駅舎が増築して駅名も変わったんでしょ?」

「元は桜山町に分館ができる予定だったんだけど、駅舎増築したことにより、分館は白紙になり、駅近に中央図書館が移館したの。まあ図書館の件はそんなに問題にはならなかったわ」

「ふうん。それもやっぱり市長が?」

「さあ、詳しくは知らないわ。でも、梅原町が贔屓にあってるのは事実ね」


  ◯


 あの後、私はリビングに置いているパソコンのインターネットを使って、桜山町と梅原町の因縁を調べてみると先程母から聞いた話から眉唾な話までと色々なことが書かれていた。


 その後、サクラヤマ・ファイターズや梅原ファルコンズのことも調べてみた。


 サクラヤマ・ファイターズは県の学童野球連盟ホームページに紹介が載っているだけで詳しいことは載っていない。写真は一枚。


 対して梅原ファルコンズはそこそこ活躍しているのか学童野球連盟のホームページに数枚の写真付きで活動について詳しく載っていて、さらに市のホームページにも梅原ファルコンズが特集されていた。


 これは市長が梅原出身だから優遇しているのかな?

 それにしても写真を見る限り、梅原ファルコンズは選手が多い。


「何調べてるの?」


 母が後ろからパソコン画面を覗き込みます。


「あら、敵を調べてるの? えらいわねー」

「違うよ。もう私は試合に出ないんだよ」

「……そうね。それじゃあ、何で調べているの?」

「サクラヤマ・ファイターズを調べてたら、一緒に梅原ファルコンズも調べてたのよ」

「ふうん。あのさ……ネットはそれがあるからいいんじゃないの? そんなにスマホ欲しい?」

「ネットしようにも、いちいち起動しないといけないし。それに今時、スマホは普通でしょ?」

「まあ、お母さんの時もケータイは必需品だったけどさ」

「あれ? その時ってケータイあったんだ」

「あったわよ。失礼ね」


 母が私の頬を軽くつねります。


「やーめーてー」

 と言うと母は頬を放します。


「フンッ! バリバリ現役時はガラケーが流行ってたから」

「……そ、そう。なら分かるでしょ?」

「でも、メールが主流でネットとかケータイサイトはパケット通信量がやばかったからあんまりだったわ」

 母は腕を組み、懐かしそうに言う。


「今はギガだからね。一応、一定量超えると低速化が基本だから」

「なら少しでもいいんじゃない? せいぜいメッセージアプリだし」

「違うよー! 今は動画アプリとかゲームとかネットがあるんだから!」

「今時の子は贅沢ね〜。漫画に動画にゲーム、ネットがスマホ一つで出来て、学校にも持って行けるんでしょ」

 母は溜め息を吐いた。


  ◯


 今日は早く帰宅した父と共に夕食をしていると父から、

「そういえばピッチャーやるんだって?」

「古い。それもう終わったし」

「え? 試合もう終わった?」

 父は母に聞く。


「違う違う。試合には出れなくなったってことよ」

「ん? それは……いたっ!」


 左脛ひだりすねをぶつけたのでしょうか。父は左脛をさすります。


「うるさいな」

「アハハ、ごめんよ。練習は励んでいるのだろ?」

「まあ、月謝払ったっていうからね」

「今度、キャッチボールしようか」

「えー嫌」


 嫌がると父がすんごいしょんぼりします。

 ちょっとひどかったかな?


 母が見かねて、

「玲、お父さんにどれだけ上手くなったか見せてあげなさい」

「仕方ないな」


 すると父は輝くように笑顔になります。


「そんなに上手くないからね」

「大丈夫。お父さんも学生以来だから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る