第6話 勝負①

 そして勝負の日がきました。


 私は西島伊吹からは土曜日ということだけしか聞いていませんでしたが、母が向こうの保護者の人から場所と日時を聞いていました。


 朝10時にサクラヤマ・ファイターズの練習場所へ私は母に連れられて向かいました。


 親と一緒に行くのは恥ずかしいと思いましたが、どうやらその日の練習は保護者も集まる日でもありました。


 練習場所は国営公園のグラウンド。今日の天気は快晴で勝負にもってこいの青空。ただ風が強いかな?


 私が着いた頃には白地にピンクのボーダーが入ったユニフォームを着た小学生の子が練習をしていました。


 その練習の中でミノさんが子供達に指導をしています。

 私と母が近付くと監督らしき女性は練習を止め、集合をかけました。


 あ!? 


 監督の顔に見覚えがありました。

 母の学生時代からの友人で何回かあったこともあります。確か岩泉さんだったはず。


「えーと、この子がスケット枠のピッチャー。ほら、自己紹介」

 岩泉さんは私の背を前に押します。


「園崎玲です。よろしくお願いします」


 私が挨拶するとメンバーのなかで伊吹だけフンッとそっぽを向きました。


「すでに知ってるとは思うけど、まだピッチャーは暫定的で、これから勝負をしてメンバー入りかをどうかを決めようと思います。ええと、皆はここでちょっと待ってて」

 と言い、監督は母と共に大人達の方へ向かいました。


「自分、逃げずによーきたな」


 子供達の中で西島伊吹が前に進んで、私に言いました。

 伊吹は急に何を言ってるの? 褒められたいの?


「うん。えらいね。あんた」

「?」


 伊吹は首を傾げます。

 何その態度。それはこっちだってのに。

 星野純が何かに気付いて、伊吹に耳打ちする。


「……え? ああ!?」


 伊吹は一度咳払いして、

「お前、逃げずに来るなんて関心やな」


 ああ。そう意味だったのか。関西弁で「自分」はお前という意味もあったんだっけ。忘れてた。


「まあね」

「で、勝てる自信はあるの?」

 と次は見知った顔が話しかけてきました。


「逢沢由香里!」

「フルネームどうも」

「なんでいるの? それにそのユニフォーム!?」


 逢沢由香里も伊吹達と同じユニフォームを着ています。


「? なんでって私もサクラヤマ・ファイターズのメンバーだからよ」

「ええ!?」

「もしかして知らなかった?」

「知らないよ。聞いてないよ。初耳。びっくりしたー」

「あー。だからか。ランニングの時、なんかおかしかったから」

「由香里、クラスメートやからって手抜いたらあかんで」

 伊吹が由香里に釘を刺します。


「言われなくても分かってるわよ」


 えー!

 手抜いてよ。


「勝負やけど、こっちはクリーンナップでいくからな」


 伊吹が私に向け、宣言します。


「は? くりーん何?」

「クリーンナップ。3番から5番や」


 何言ってるの?

 3番? 5番? ゴルフ用語?


「1番じゃないの?」

「3番や」

「なんで3番? 1番が上手い子じゃないの?」

「ああ! 玲くんは野球の知識がないんだよ」

 ミノさんが思い出したように伊吹に教える。


「はあ? せやったら何で自分、ピッチャーに選ばれんねん」


 伊吹は目を鋭くして私をめます。


「親に言いなさいよ。親に」


 知らないふりをします。

 たぶんストラックアウトの成績でなんて言うとやかましくなりそうなので黙っておきましょう。


「さすがにルールは……知ってるやろ?」

「馬鹿にしないでよ。ツーストライクでワンナウト。アウト3つでチェンジ。4ボールで……」

「フォアボール」


 私が喋ってるのに伊吹が何か言って遮ってきます。


「ええと、4ボールで……」

「せやからフォアボールや」

「は?」

「あなたの言う4ボールはフォアボールって言うのよ」

 と由香里が教えてくれる。


「あっ、そういうことね。フォアボールで一塁に行けるんでしょ」

「ホントに大丈夫なんか?」


 伊吹はすんごい値踏みするような目を向けてきます。


「うるさいわね」

「こんな奴にウチらクリーンナップが負けへん」

「はいはい」

「女子軟式野球チーム、サクラヤマ・ファイターズのちから見せたるで!」


 伊吹はチームメンバーに向けて、声を出します。それにメンバーも、『おー!』と声を合わせます。


 連帯感はすごいのかな。女子軟式野球チームか。女の子しかいなけど、力強い意志を……。


 ん?


「女子……軟式野球?」

「なんや?」

「いや、女子軟式野球って今……」

「それがなんや? サクラヤマ・ファイターズは女子軟式野球チームや」

「は? あんた男じゃん」

『…………』


 何かな? 空気が変に張り詰めたよ。伊吹はみるみる顔を真っ赤になるし、周りの子は「あっちゃあ」みたいな顔をしている。ミノさんは苦笑い。


「ウッ、ウ、ウチ……」


 どうしたのかな? ウって何? ウ◯チ?


「ウチは女や!」

 伊吹は憤慨して声を張ります。


「嘘やろ!」

 あまりの驚き関西弁になっちゃいました。


「女や」

「ええ!? どうみても、あんたチン◯ンついている顔じゃん」

「どんな顔やねん! てか、チ◯チンついてねー!」

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