第31話 天羽 司
はっはっはっ。っと息を弾ませながら時にダッシュしたり、時にゆっくり走ったり緩急をつけながらいつものランニングコースを走り続けた。
昨晩の夢が後を引いていて、自分でも良く分からないもやもやした気持ちを吹き飛ばしたくて滅茶苦茶なペースになっていった。
「くぅ・・・はっはっはっはぁぁぁ・・・・何してるんだ俺・・・・。」
自分が何をしたいのか、どうしたいのか、変わらなきゃいけないのか、変わらなくて良いのか全く判断出来なくて体力の限界まで走り続けた。
ダンッダンッダンッっとボールを地面に打ち付ける音が聞こえて来て顔を上げた先に、司が居て綺麗なフォームで投げたボールがバスケのネットを揺らしてた。
「ナイシューっ!」
「え?・・・先輩?!」
「司、おはよう。こんな早い時間から運動か?」
俺の言葉に司は、俺の顔をじっと見つめたまま無言で近づいて来て、俺に抱きついて来た。
「え・・・?つ・・・司?!行き成りどうしたんだ?」
そんな俺の言葉に、司は答えずにぎゅぅぅぅっと抱きしめる力を強めて来た・・・。
「司?・・・・何かあったのか・・・?」
「それは私のセリフです、何があったんですか?先輩。」
とても真剣な顔で司は俺を見詰めて来て俺の心を見透かそうとしているような瞳をしてた。
「いや、何もないよ。いつも通りさ。」
「嘘ですね。」
「嘘って、何をいt「だって泣きそうな顔してますよ。」・・・っ。」
ぎゅっと俺も司を抱き締め返して、司の頭を撫でながら何時もなら隠せるのに、今回はどうしても駄目で・・・自分でも意識してないのに、涙が零れ落ちた。
「私じゃ力に成れないのも頼りないのも分かってます。でもそんな私でも先輩の話を聞く事は出来ます。それで先輩の気持ちが少しでも軽くなるなら、幾らでも私に話してください。先輩の力に成れるならどんな事でもしますよ。」
「・・・ばーか、女の子がどんな事でもとか簡単に言うんじゃない、司の事は何時も頼りにしてるんだぞ?これでも。」
司はそんな俺を見つめたまま抱きしめるのを止めて俺の手を取ってベンチまで引っ張っていった。
「ごめん、司。俺・・・・。」
「良いんです、落ち着いてからゆっくり話してくれればそれで。勿論話したくないならそれでもいいです。」
あぁ・・駄目だな俺・・・。引かれるままベンチに座らされて司に頭を抱き締められながら撫でられて、甘えようとしてる。
「何時でも、頼りになる先輩で居たいんだけどなぁ~・・・・。」
「何時でも頼りになる先輩ですよ、そんな心配はお門違いです。でも、そうですねぇ~・・・カッコいい先輩も大好きですけど、偶には可愛い先輩も見たいですね。」
そう言って、くすくすと優しく笑いながら、司は俺が落ち着くように優しく撫でてくれていた・・・。
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SIDE 司
私は先輩を見た時から、先輩が泣きそうな顔をしてる居る事に気付いた。
多分、他の人なら分からず普段通りに見えたと思う、これは私だから気付いたと自信を持って言える。
先輩は基本的に自分がきつい時でも顔にも態度にも出さない、今回みたいな事があったとしても周りの力を借りたりする事も解決に必要なら躊躇わないし、自分だけで何とか出来る事は解決してしまう。
そんな先輩が表情を、気持ちを完全に隠せない理由は私の知る限りたった一つしかない。
そう、彩音先輩絡みの事だ。
実の所、私も今日は先輩に何かがあるんじゃないかと早く目が覚めた時点で思っていた。
やっとあの問題が解決したばかりでそんな馬鹿なと思いながらもどうしても不安は消えてくれなくて、こうやって身体を動かしていた。
(そしたら、本当に先輩が現れるんだもん、びっくりしたよ。でも自分の予感が間違えてなかった事が何となく嬉しかった。だって・・・あの時からずっと私は先輩に助けられて居るんだから、先輩が大変な時は私が力になる。喩えどんな事だとしても。)
そう、何でもだ力に成れるなら汚れ仕事だってしてみせる、それが天羽 司の揺るぎ無い決意だから・・・・。
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「取り合えず、離してくれて大丈夫だ、大分落ち着いたし人に見られると司に変な噂でもたちかねない。それに何より・・こう色々と男的にきつい・・・・。」
俺の言葉に司は俺の頭を胸から離してくれて指摘されて気付いたのか赤い顔のまま俺の隣に座って手を握ってきた。
「それなら、せめてこれで・・・。駄目ですか?」
「いや・・・別に握らなくても・・・。」
「震えてます、先輩。なので駄目と言われてもこのままにします。」
「・・・全く、ありがとな、司。」
ニコリと笑顔で俺に返事をしてくれて俺が話し始めるのを待ってくれているようだった。
話さなきゃ話さないで問題は無いんだろうし司の事だから何となくでも理解はしてそうな気がするが、こうまでされて話さないって訳にも行かないよな・・・・。
「あのな・・・夢を見たんだ・・・。」
「夢ですか?どんな夢だったんですか?」
「うん・・・・。」
どう伝えるべきかと悩む俺を尻目に司はぎゅっと俺の手を大丈夫だとでも言う様に力を少し込めて握った。
「彩音がな、出て来たんだ。」
「・・・はい。」
「それで、場所がさ。前に話した事あったと思うけど、俺と彩音の関係が変わったあの公園だった。」
「・・・はい。」
「それで、色々話した。夢だけど・・・。」
「はい。彩音先輩に会ったんですね。」
「あぁ、司が追いかけて来てくれた事、雫や信也の事、美織の事、そう言うの話したんだ。」
「あれ?有希那先輩の事は話さなかったんですか?」
「話す前に時間が来たって言うか目が覚めたって言うか、彩音からは話題が出なかった。」
「それも不思議ですね、皆さんの事を把握してるなら、有希那先輩の事も分かってるはずなのに・・・。」
そう、敢えて、彩音自身が省いたかの用な・・・。美織の事まで言っておいて何故か有希那の事は出なかったのが、不思議だったのだ。
「それでな、彩音に聞かれたんだ。今は楽しい?寂しくない?ってさ。」
「それは・・・・はい・・・。何て答えたんですか?先輩。」
「楽しいよって雫が居て信也が居て司が追いかけて来てくれて、美織が有希那が増えて今は楽しいって・・・でも・・・・。」
俺が何を言うのか言おうとしてるのかを司は分かってる様子で俺を真剣な目で見つめてた。
「皆が居て、楽しいのは間違いない、でも・・・でもさ、やっぱり寂しいって答えた。」
「そうですね、私にも先輩の気持ち分かります。」
「「彩音(先輩)が居ないから、大好きな人が居ないから寂しい・・・。」」
空を見ながらそう言った俺の言葉と同時に司も同じ言葉を発した・・・。
「はは・・。司には分かるよな・・・。不思議でも何でもない。」
「当然です、先輩が今でも彩音先輩が誰よりも大好きで愛しているのを彩音先輩以外で一番知ってるのは私です。だから分かります、分からない訳無いです。」
「そう・・・だな・・・。彩音がさ、彩音もさ、俺が今でも大好きだって愛してるって今までもこれからもずっと愛し続けるって言ってくれてさ。それでも違う人を好きになって良いって悪い事じゃ無いんだから、彩音と同じくらい好きに慣れる人を作って良いって・・・さ・・・。」
「それは・・でもっ。・・・はい、彩音先輩の言う事、分かります私。」
「そうなのか?言われたからって他の人を何てさ、裏切りでしか無いだろ。」
「いえ、それは違います。彩音先輩とは私も先輩も二度と会えません、それはどうやっても変わりません。どれだけ二人が愛し合っていても(そこ)だけは変わらないんです。」
言われた事に自分でも分かる位眼つきが鋭くなってイラついてるのが理解出来たけど、それを司に当たるのは間違えてるし、何よりも(天羽 司)がこんな事を言うのにはちゃんと意味があるはずだと、俺は声を上げたいのを我慢した。
「先輩は幸せになって良いんです。他の誰かを好きになって良いんです。だって私が彩音先輩の立場なら、同じように思います。自分の好きな人、愛しい人には幸せになって欲しい、自分がその人を・・・先輩を幸せに出来ないなら他の人でも良い。幸せなって欲しい、誰かを好きになるのを愛するのを怖がらないで欲しい。・・・そう思います。」
「私は蓮夜先輩が好きです、昔から気持ちは変わりません、一人の男性として貴方が好きです。愛しいです。私が先輩を幸せに出来るなら勿論嬉しいです。でもそれが出来ないならせめて先輩には先輩が選んだ人と幸せになって欲しいです。」
「司・・・お前・・・。」
司は真剣な顔をしながらも顔を赤くして自分の気持ちをはっきりと俺に伝えて来た、俺の事を一人の男性として好きだと真剣に伝えてくれた。
昔から大好きですと、言ってくれて居たのは勿論覚えてるしドキっとさせられる事も何度もあったのは確かだけど、彩音が居たし司自身も俺と彩音が幸せそうにしてるのを見るのが好きだと言っていたから、そこまで強い思いだと思ってなかった。
「分かってます、先輩が私をそういう目で見てない事、だから今は覚えておいてください。それだけで良いんです、でも・・・忘れないでください、人を好きになるのは悪い事じゃありません。彩音先輩と同じくらい好きな人を作るのは何も間違えていません。蓮夜先輩、いえ・・・蓮夜さん、貴方は幸せになって良いんです。先に進むべきなんです。先に進んでください、貴方の背中を、大好きな先輩の背中を追わせてください。」
「司・・・・。うん、ありがとう。まだ時間は掛かると思うけど、少しずつ前を見る様にするのは約束する。何時も司には助けられるな・・・、ほんと良い女だよお前。」
「なっ・・・何言ってるんですか、この天然誑し!!!そういうところですよ!!!!」
「何だよ天然誑しって!全く・・・・ありがとな、司。」
「はいっ!」
そう言って司はとても綺麗な誰でも見惚れてしまいそうな笑顔を太陽を背に見せてくれたのだった。
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