第6話 入学式II

急いでアカデミーの方へと走っていく。

息を切らしながら、不確かな足取りで、地面を蹴る勢いで走っていく。

一瞬一瞬の時間の経ちと、心臓の鼓動が焦らせてくる。

名門校のアルテフェア魔術学院アカデミー

一切の遅刻を許さず、遅刻したものは問答無用で退学と言われる。

だが、例外ありだ。それは、上の地位を持っているか持っていないかだ。

王族・貴族は例外。だが、風の噂では学園長は変わり、他国の王国の王子が学園長をやっているとのこと。

そうなれば、王族、貴族の遅刻はどうなるのか。

ロイスは知ることも出来ないが、今はそれよりも自分の心配が一番だ。


「ハァ…ハァ…ハァ…ッ、一体、誰がやったのかは、後で確かめるとして……クラスがどうか分からない以上……確かめようが……ない!」


流石に何十分も休まずに走っていれば、息も上がってくる。ロスした分は取り戻さなければならない。

そんな焦りが心臓を締め付ける。


(くそっ、全くのロスだ!)


先程の仲良くなったキューこと、不死鳥の子供に関しては、例外。一番は誰が放った魔法。という訳だ。

ロイスの頭の中では、色んな事がぐるぐると回っている。思考が現状のことを考えていたら、不安なことを考えていたりと、現状、感情が合わさりまくり、とんでもない状況となっている。


『魔法を使えばいいじゃないか』

「俺に風魔法なんて……扱えねぇよ! ましてや……転移魔法……も! 使えねぇ!」

『闇魔法で行けるぞ』

「まじ!?」


今まで知らなかった魔法の種類を、ガーゴイルから聞く。

その魔法をガーゴイルから聞き、急いでその魔法の詠唱を唱えた。


「ふぅ……『闇の海を歩くワープ』!」


ロイスはそう唱えると、体が光、禍々しい色の光が神々しく光を放つ。

瞬間的に今ある地点から、光の速さの如く消えた。

次に姿を表したのは、講堂が存在する扉の前だった。

運がいいことに入学式では、他の在校生の生徒はいない。そして、教師たちも講堂の方にいる。

だから廊下には誰もいない。


ラッキー!

ロイスの心の中ではその思いで埋め尽くされる。無論、闇魔法を使ったことにより、また激痛が体全体を走る。


「ぐぅっ!」


心臓が張り裂けそうな痛み。

だが、講堂までの距離はほんの少し。

手を伸ばせば届きそうなぐらいの、距離感。


「がぁっ! なんだ、これ!? いつもと、違う……!!」


鈍器か何かで心臓を撃ち続けられているかのような、そんな激痛がロイスの体を襲う。

今までに感じたことのない、痛み。

視界がぼやける程の、痛み。

汗が滲み出るほどの、痛み。

叫びたくなるほどの、痛み。

どれだけ、心臓部分を抑えたとしても、効果など全くなし。


ましてや、倒れそうになる程の痛み。

いくら遅刻になってしまうと言えど、方法はあれしかなかったことは、事実。


———そして。


「もう………だめ………」


力が抜けてしまい、地面に倒れ伏した。

痛みが走っているが、争うことすら出来ないほど、疲労している。


「キュー! キュー!」


不死鳥のキューがバタバタと羽を動かし、ロイスを呼び起こす。だが、ロイスは反応する事ができない。

声を出すという事に、意識を任せることも出来ず、再びこの激痛さに身を委ねてしまいそうだった。


「え、大丈夫!?」


誰かの声も既にロイスには聞こえていない。


♢♢♢


———苦しい、苦しい、苦しい!


体が蝕まれるような強い痛みが、全身を巡る。取り拭うことのできない、この激痛。

玉響とは言えど、長く感じてしまうその痛み。


———痛い、痛い、痛い!


激しく脈を打ち、心臓の鼓動が速くなる。

頬に冷たさを感じる。固い地べたに寝転んでいるのが分かる。うつ伏せに寝転んでいると言うのが、分かる。


「それがお前の運命さだめだ」


———俺の、運命さだめ…?


誰かの声が響き渡る。徐々に声が聞こえて来なくなる。意識が失いかけ、視界は混濁する。

身を委ねてしまいそうなほど、痛みは体全体を走る様になり、何か大事な事を忘れてしまっている。

忘我。何を忘れているのか。


———ぐぅっ!!


鋭利な刃物が鋭く体を貫通した様な、そんな痛みが生じる。忙し過ぎる。全身に回る痛みと、新たにやってくる痛み。

思考が追いつかないほど、色んなことがあり過ぎている。


「貴様は呪われている。ロイス・ハウクソン」


大事なところだけが聞こえない。霞んだ視界は徐々に重たくなる。

このまま眠ってしまいそうな。


そんな予感がした———。


ーーーーーーーーーーーーー


ロイス・ハウクソン。

君は死ぬのか?


♢♢♢


「はっ!?」


夢を見ていたロイスは、目を覚ます。

白色や天井がロイスの視界に現れ、あたりを見渡す。すると、見知らぬ女生徒が居た。

彼女はロイスが目を覚ますのを確認すると、心配そうに覗き込む。


「あ、起きた?」

「………誰? と言うより、ここは?」

「ここは医務室。で、私はレーアよ」


レーア———と名乗るその女生徒はそう言った。

金髪の髪色をしており、細い髪質をしてそうな髪。

吸い込まれるような緑色。エメラルドグリーンのような緑色の瞳をしており、少し低い声をしている。


「もしかして、ここまで?」

「えぇ。それで大丈夫? と言うより、私たち普通に遅刻ね」

「あ! そうじゃん……」

「まぁ、後で言い訳を考えるわ。それと、貴方の相棒に何か言わないとじゃないの?」


レーアの肩に乗っていた、ロイスの友人であるキューはバタバタと飛び、ロイスの肩に止まる。

すりすりとロイスの頬に、自分の頭を擦り付けた。


「キュー! キュー!」


目を覚ましたロイスに喜びを示した。

キューを宥めるように、ロイスはキューの頭を撫でる。


「ロイス、大丈夫かい?」


医務室の扉からアデルがやって来る。


「あ、すみません。遅刻してしまって……」

「いや、いい。本来なら退学だ。だが、学園長に直談判し、その理由を聞くようにと言われてな。で、何があったんだ?」


ロイスは経緯を話す。

風で吹き飛ばされた事。闇魔法を使ってからの事は説明しないでおいた。

それを聞いたアデルは唸り始めた。唸った後は、次にレーアの方を向いた。

レーアにも問い詰めることにしたらしい。


「それで君は?」

「私はたまたま講堂の扉に行ったら、その子が倒れてて、そのまま医務室に連れて行き、ずっと見てたわ」

「なるほど、と言う事は。遅刻した訳じゃない……」

「いえ、遅刻はしました」

「………まぁ、君が居なければもしかしたら、ロイスが大変な目にあっていたかもしれないからな。今回は免除にしておく。良かったな、前期の学園長なら問答無用で退学にしていたはずだ」


おっかな……。

ロイスはレーアにお礼を言い、そしてアデルにクラスの事を聞いた。


「あー、クラスのことか。言い忘れてたな。ロイスとレーアは同じ【黒狼プロブレム・ウルフ】だ」

「えっ!?」


その一言にロイスは驚愕。

問題児と言われるクラスに分けられた事。

遅刻で減点……いや、その前から決められていた為、何故一番落ちこぼれたクラスなのか。

何故なら、教師がわざわざ入学許可を得て、資金なんかも免除するまでの実力を持っているロイスの力を、何故大鷲じゃなく、黒狼なのか。

それが何より、ロイスとアデルの中で疑問に思っていた。


(どうして、免除をさせたのに、大鷲じゃないんだ……? 自惚れ過ぎていると思うが、この先生がわざわざ免除させた。まぁ、考え過ぎかも)


「とにかく、ほら。2人とも」


アデルから渡されたのは、狼の小さなバッチ。

すんなり受け取った2人は、その小さなバッチを制服の胸元につけた。

金色に光るバッチを身につけ、付いている明かりが反射され、その金色が煌びやかに光る。


「まぁ、わかってた事だけど……。同じクラスなのね。よろしく」

「あ、うん」


レーアとすんなり打ち解けたロイスは、期待していた分落胆していたが、そこから成り上がってみせようと思った。

ある意味、ロイスに火をつけたに過ぎない。

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