第二章 学園入学試験とクラス決め
第5話 入学式I
9月。時間が迫ってくる。
9月から12月まで学園で授業を受ける事となる。そしてそれは、内申点にも影響があり、いい成績をとっていくと報酬が貰われる。
その報酬というのは、分からない。
だが、狙うのはそこじゃない。
『悪魔』と呼ばれたとしても、俺はその学園で成り上がってみせる。
刻限は直ぐそこまでやって来ている。
魔導書を片手に持ち、指輪をはめる。
私服のまま王都に存在する学園。
アルテフェア王国のほぼ中心部分に存在し、そして王宮と同等の大きさを待つ建物。
その学園の名は、“アルテフェア
名門高き場所であり、有名どころでは帝国の皇帝直々に仕えている、宮廷魔導師団のメンバーはほとんどがこのアカデミーの卒業生。
誇り高きアカデミーは、国そのものの象徴ともなりうる存在。
だが、そのライバル校も多数存在する。
西国に一校、東国に一校、天空に一校。
どれも名門高き学園、学院である。
特に天空では魔術内での誇り高き、魔術賢者の孫が学院長をやっているほどの、名高い場所。
(おそらく今年も、入学生は多いはずだ)
8月25日。試験は突破した。魔法だけで何とか審査員の前で披露し、握手喝采となり、入学許可が安易に降りた。ここまで上手く行くと後々怖い。
そんな思いでその日を終え、それからの後日。そして時間は流れて9月になったばかりある。
前日に届いた制服に着替える。資金に関しては、俺の実力を知った審査員の1人が免除をしてくれる様に頼んだ。
学園内での初めの味方。担当は飛空魔法担当らしいが、俺は扱うことは出来ない。
(……慣れん)
ネクタイ式であり、カーディガンをワイシャツの上から着る。胸元にはまだバッチがついていない様で、恐らく学園に入った時にクラス決めがあるはずだ。
それで入れるクラスが分けられる。
またもや黒い渦が心に現れる。今俺は、不安がっている。緊張しているとも過言ではないが、不安の方が大きい。
両親は何とか。俺が抗っている姿を見てくれてはいる。だが、何も言わない。
言わないでくれている方が、楽ではある。
心臓の鼓動が久々に脈を打っている。
落ち着かせるため、胸元に手を当て、息を吸ったり吐いたりを繰り返す。
交互にやっていき、自分に言い聞かせる。
———大丈夫、大丈夫だ。
と。だが、心なしか心が軽くなった様な気がする。
綺麗さっぱりとはいかないが、ある程度の不安は取り拭えたはずだ。
そして入学式の9月1日。
遅刻しないように早めに出て、両親たちに「行って来ます!」と元気よく言い、手を振る。
久々に手を振ってくれた2人に、心が温まり、先程までの緊張は無くなる。
アルテフェア王国に続く一本道を歩き、空を見上げた。曇り空ひとつない晴天。
まるで空までもが味方をしている様な、そんな気持ちとなる。
『緊張してんのか?』
「いや、別に」
嘘とも言えるし、本当とも言える。
クラスがどうなるか分からない。そして魔法を変えることはできない。
禁忌魔法を扱えば、おそらく『悪魔』だと見破られる。試験の時には、審査員たちに見破られたと思う。
一本道を歩きながら、俺はそう思った。
♢♢♢
「アデルさん。この間の少年、なぜ入学させたのですか?」
教職員たちが集う職員室。何の特徴もないアデル。穏やかそうな顔で、生徒達からの信頼も厚い彼は、学園の試験の日に禁忌を扱うロイスを、入学させたのか。それを新人の教師、ダムラーは聞く。
その問いにアデルは穏やかそうな笑みを浮かべた。
「あの子は確かに、禁忌を扱う。だから、なに。あの子なら、もしかしたら。常識を覆す事が出来るかもしれない。そう思っただけさ」
「は、はぁ」
アデルのその答えに、ダムラーは疑問を浮かべた。
アデルだけ、何かを見透かしているかの様に。
そんな彼の言葉を嘲笑う人が1人いた。
「ぷっははは! アデルさん、なにを言っているのですか? 『悪魔』がどうやってそれを出来る? 笑わせるのもやめて下さいよ!」
頭のてっぺんが禿げている男性。カーポは40代を過ぎているが、人を見下すのが好きな人物。
『聖騎士』の職業を持っており、その力を教師として教えている。だが、裏では他人を見下す。
それを至福としているカーポに、教師達は呆れていた。
「全くあの人は……」
「まぁ、いいさ。今年の入学生にはもしかしたら。彼を倒す者が現れるかもしれない。そしたら、あの性格も直るさ」
穏やかそうに見える笑顔だが、謎の威圧さも兼ね備えていた。
アデルのその言葉に、ダムラーは再び疑問を浮かべた。
(確か、名前はロイス・ハウクソン。『悪魔』に魅入られた少年)
「アデルさん、そろそろ入学式が始まります」
「あぁ、そうですか。なら、急ぎましょう」
もうすぐ入学式。講堂にて合格した入学生一同を歓迎し、そして演説。もといは学園長の挨拶だが、クラス発表と担当する教師の説明。
入学したものからしたら、最初の一大イベントなのだ。
教師達も講堂へと急ぎ、入学生達の顔を見る。
保護者同伴する者もいれば、いない者もいる。
それは殆どが来れなかった理由が多いが、13歳ともなれば他人に自分の親を見せたくない年頃。
だが、それは個人の意見に過ぎない。本来は仕事や都合が合わない者が大多数だ。
講堂へ急ぐと新規の顔立ちがずらりと並んでいる。
それを教師達は1人ずつの顔を見る。どの子が自分のクラスになる事は、既に知っている。名前と顔を一致する様に見るのも教師の務め。
(さて、ロイス・ハウクソンはどこに……)
アデルは講堂のステージの方で、入学生達を見ており、特に気になったのがロイス。
あの、短くもなく長くもない髪型、黒色の髪色で艶のある髪質。
鋭くもなく柔らかくもない瞳に、物寂しさを感じさせ、それとは裏腹に晴天な空を思わせる水色。
体格も痩せ細っているわけでもなく、太っているわけでもない健康的な体。
特徴的な声はないが、低くもなく高くもない、中性的な声質。
そんなロイスが見当たらない。
(……遅刻、か?)
「アデルさん、あの少年いませんね」
距離が遠いからか、顔をしっかりと確認できていないのが理由なのか、定かじゃないが、一応目はいい方である。
「遅刻、ですかね?」
「うーむ、何かあったか、本当に遅刻か……」
この学校では遅刻が許されない
遅刻したものは問答無用で、退学にさせられる可能性がある。
(…………思い違いか? いや、何か凄まじいものを兼ね備えている気がする……。もう少し待ってみよう……)
♢♢♢
一方、ロイスはと言うと。
(…………何で、こうなったんだっけ)
何故か、木に宙ぶらりんになっていた。
訳の分からない状況。視界が真っ逆さまとなり、頭に血が昇る感覚もしている状態。
『なにをしている? 遊んでいるのか?』
「違うわ! と言うか、お前も感じただろ?! 何か強い風が当たって、吹っ飛んだんだよ!!」
ましてや一時的に頭を強打し、気を失っていた。
13歳の体が吹っ飛ぶほどの強風。それは本当に自然的な強風なのだろうか? 台風や嵐が通ったと言う感じはない。晴天だ。晴天すぎるぐらい晴天だ。
『遅刻じゃないのか?』
「分かってる! とにかく、起き上がらないと」
地面に手がつかず、起き上がる事が出来ない。
足もまともに使えず、このままの状況じゃ遅刻となってしまうのは、安易に想像ができる。
下手したら血が昇ってしまい、視界が混濁してしまい、再び意識を失ってしまいかねない。
(ちくしょう……、誰がやったんだよ)
ロイスの中では自然的な風じゃなく、人為的に起こされた風と考えている。
理由は二つ。
・魔力が微かに残っている。
・この辺地域ではあまり嵐は起きない。
数十年の間、嵐なんて全く起こらず、大きな自然災害もないからだ。
(………よっと)
やっとの思いで起き上がることに成功したが、制服は木の葉っぱがくっつき過ぎている。
新品な制服が汚れてしまったが、休んだら折角試験を受けた甲斐が無くなる。
(あの人が入学許可を下ろしてくれたんだ。行かなきゃ!)
「キュー」
近くに小鳥が倒れていた。
地面に倒れているのを発見し、バタバタと羽を動かしている。
ロイスは近寄り、その小鳥を抱えた。
「どした? どこか痛むか?」
『……どうやら、怪我している様だな』
「え、わかるの?」
『これでもガーゴイルだ』
「いや、理由になってねぇし」
ガーゴイルの言う様に、赤色の小鳥は怪我をしていた。
ロイスにとっては一大事。治癒魔法を使えないロイスからしたら、どうすればいいのか迷うばかり。
『薬草で作った治癒薬は?』
「……! それだ!」
マジックアイテムという名の、袋を取り出し、そこからお手製の治癒薬を取り出す。
袋の中身は空間が出来ており、殆ど制限なく扱える。
コルクを外し、その薬草薬を小鳥に飲ませる。即効性が高く、すぐさま治る万能薬でもあり、森の奥に行って採った甲斐があった。
数分が経った後、小鳥は完全に飛べるようになった。ロイスは安心し、力が抜ける。
『……どうする? 学校は』
「行くさ。まぁ、遅刻だろうけど」
地面に座っていたロイスは立ち上がり、再び一本道を歩くようにした。すると、赤色の小鳥は「キュー」と鳴きながら、後を追いかけていく。
「え、一緒に行くの?」
「キュー!(もちろん!)」
どうやら懐かれたようだった。
肩に乗るぐらい小さな赤い小鳥。もふもふとした小鳥の名前を知るため、ロイスはステータス画面を表示する。
(…………不死鳥……。フェニックスの子供か)
名前が書かれておらず、ロイスは咄嗟に“キューちゃん”と言った。
キューちゃんは嬉しそうに「キュー!」と鳴いた。
ロイスに相棒が増えた。
ーーーーーーーーーーー
ロイスのステータス。
【名前】ロイス・ハウクソン
【運命】悪魔
【職業】ーー
【状態】ーー
【レベル】52
【HP(体力)】480/500
【MP(魔力)】350/350
【固有魔法】闇魔法・血魔法・毒魔法・死魔法
【相棒】キュー(不死鳥)
【称号】ーー
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