第五十八話 凰呀族
「今日は遥々我等が村に来て下さり感謝する。」
「..........」
「では、付いてきてください。」
村の入り口に最も近い家に隠れ、姿が見えないようにしながら外の様子をうかがう。
四足歩行の狼が隣にいるからか、その巨体が本来の大きさより一回りも二回りも大きく見えたのはきっと錯覚に違いない。そう、思いたい。
圧倒的なまでの体格差。裕に2メートルを超える身長と、少しボロボロな衣服から見える、岩石を彷彿とさせる筋肉は、その者達の強さを物語っていた。
衣服を着ていても目立つ深紅の肌は、色が違うだけで人間の肌と何ら違いがなかった。だが、やはりパッと見のインパクトというのは凄いもので、彼等が人間とは違うモンスターなのであるということを理解させられる。
そして、額に見える大きな角は、その種族たらしめる特徴としてありありとその存在感を放っていた。
「アレが、凰呀族.....!?」
マンガやアニメで見るものとはわけが違う、3dですら表しきれないそのリアルさを生で見ると、感動よりも先に恐怖が勝ってしまった。
「とんでもねぇ。確かに、空腹で勝てる相手じゃなさそうだ。というか、空腹じゃなくてもアレに勝てるのか?」
圧倒的強者。喰らう側が
「っ!?」
っぷねぇ!おいおいどうなってんだよ。距離もそこそこあるし、加えて家、それも窓ガラス挟んだ後ろ側に居る俺の、しかもカーテンからチラっと見る程度の視線に気付いたのか!?
咄嗟に、それも体を地面に打ち付ける勢いで俺は強引に体を伏せてバレるのを防ぐ。
「..........」
「どうかしましたか?」
「.........いや。覗き見られていたようでな。」
「やはり我々とは違う種族が気になるようで。」
「珍しいものでも無かろうに。」
「それでも気になるのですよ。」
「.............まぁいい。すぐに隠れてしまった。足を止めることでも無かったな。」
軽く土を蹴る音と体の奥に響く振動が過ぎ去っていく。マジかよ....こんだけ離れてるのに歩いた時の振動がここにまで。
「危ないよ.......!さっき気付かれてたでしょ!?」
「あぁ。まぁじで危なかったぁ。」
「子供の牙狼が見てるっていう誤魔化しが効いたから良かったけど、アレで君の存在が気付かれたらどうするつもりだったの!?」
「本気で謝るか、一旦ここから離れるかしたかな。」
「気付かれるなって話だよ!」
小声なのにうるさい。それほどさっきは危なかったってことだよな。無理言ったんだし、流石に反省。
「にしても、アレが凰呀族ねぇ。」
「強そうだったでしょ?」
「まぁ、勝てる
多分魔法どうの関係なしに素の身体能力だけ
「まぁ、対面で会うこともないんだし、戦うなんてこともないだろうよ。」
「そりゃそうだよ。というか、何で迅が戦うって状況になるの。」
「それもそうだ。」
あくまで例えばの話なのだよ風牙君。
「それで、これからどうする?このあと長達は受け渡しをするから大分時間がかかると思うんだけど。」
「その間外出禁止なんだろ?」
「そう。安全のためにね。子供達が粗相をしたりなんかすれば、何されるか分かったものじゃないから。」
「.......」
力じゃ敵わないらしいし、対等と思われてないから危険性を持った子供を予め家に入れておくのは正しい判断か。まして俺なんて
「うーん、こうなると多分魔法に関して話したり実験したりするのも無理だろ?」
「君の多種ブーストなんて使ったら魔法の気配で多分怪しまれるし、すぐ気付かれちゃうよ。流石に大人しくしよう?」
「あー、暇だー!」
「それに関しては否定できないよ。ひまだー!」
二人してぐで~っと地面に大の字になった。横を見ると
「あ、あの、流石に恥ずかしいんだけど......」
「はっ!?」
いかん、ここの狼達は俺の本能を呼び覚ます魔性を持ってやがる。ここは、我が強靭な精神力を持って.......
「........もっと撫でて」
「――」
まぁ、モフることは悪くないよねっ!
/////////////////////
「それでは、始めましょうか。」
「...........」
「食糧だ。受け取れ。」
はぁ、またか。
麻袋が乱雑に捨てられ、その中から食糧が漏れ出た。だが、
「..........」
「それでは、飲み水をいただこうか?」
声には出さないが、粘ついた嫌な視線を感じる。表側のみ隠す者や隠す気のない者等様々だ。
麻袋に入れられていた食料はどれもこれも屑ばかり。野菜の芯、葉の切れ端、こ削ぎとったであろう肉片.........およそ我々が満足に食べていける量ではない。だが、これはいつも通りであった。
「どうした?」
「...........持って来い。」
「分かりました。」
文句を言うことを許されない。文句を言えばこれが終わってしまう。主導権を持っているのは悔しいが、我々ではないのだ。
「これです。」
「ほぉ?」
「............」
数にして樽五つ分の水。凰呀族全員が一カ月干からびずに生きるのに十分すぎるほどの量だ。さらに言えば、多少植物を育むために使ったとてそうそう消費できる量ではない。
「.............オイ」
「はい?なんで―」
―ガァ?!
「量が減ってんじゃねぇかぁ!」
気付けば顔面を地面に叩きつけられていた。凰呀は化け物並みのその握力で今尚俺の顔を潰さんとしている。内部に響く軋む音と共に鋭い痛みが走る。
「.............オ―」
「止めろ。」
直後、俺は痛みから解放された。
「お、長。」
顔を上げれば、そこには怒りを押し殺し、努めて冷静を保つ長の姿が。
「............ケッ」
凰呀の一体が引いていく。流石の長が相手となると、例え我等に対してであっても強くは出られないようだ。
「こんな目にあうようなシケた事するからだろうが。文句があるなら水を持って来い。」
「.................」
「そうだな.........罰として―❛
「なっ!?」
麻袋が跡形も無く消し去られ、そこに残ったのは、ただの灰だけであった。
「今回はお前らの飯は無しな?文句ねぇよなぁ?」
気持ちの悪い笑いが上がった。
下衆共がっ!
「.............」
長.........クソッ!この交渉が無ければ我々は飢え死にしてしまう。例え相手が屑であったとしても、子供達を、牙狼族を死なさぬ為には、従うしかない。
「.............どうか、食料だけは渡して頂けないだろうか?」
「お、長っ!?」
そんな、あの屑共に伏せる等、
「はっ、
「私は、この牙狼族のためならば、
「あぁ、いいぞ?」
「グッ」
「長ァ!!」
あの屑の凰呀は、あろうことか伏せた長の顔を足で踏みつけた。
「貴様ァ!」
「おっと、❛
「ッ」
ぉ、ぁ?
「弱ぇクセに出てくんじゃねぇよ。テメェ達んとこの大将がひれ伏してんだろ?だったらテメェもひれ伏せよ。」
「............ッ!」
「やめろ、真正....」
「テメェ達の長とやらは従順だぞ?」
クソ、何故こんな下衆共に負けるのだ。飢餓さえ無ければこんな事には........
「おい、何やってんだよ。」
耳に届いた聞き慣れない声。誰しもがその言葉を耳にして振り返った。その言葉を発したのは―
ジオ異世界幻想伝 時亜 迅 @ToaJinco18
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