第五十七話 束の間の休息はそうそう来ない

時亜迅殺戮計画レバー消費期間を経て、アタクシは身も心も綺麗になり、おニュー時亜迅になったのですわぁ!おほほほほ!


「迅が壊れちゃった。」


「ま、まァ、あのヤベェ肉を食い切ったんだし、ああなるのもおかしくはねぇよナ。」


「あら?そんなに酷かったかしら?迅君、最初の頃は美味しい美味しいって、喜んで食べてくれたのに......」


「お母さん、それ本当に最初の頃だよね?口がパサパサするとか、四六時中レバーだと流石に飽きが来るとか、最後はもう辞めてって言ってたのに、それでも口にねじ込んでたよね?一応別の部位もあったはずなのに、ずっとレバーばっかり食べさせて。それを、喜んで食べてたって言えるの?」


「.....余っていた在庫を無くしてくれる子だって思うと、つい張り切っちゃって。」


「鎌風先生、次の食事はできればゴブリン以外.....そうじゃなくてもせめてレバー以外を出してあげてほしいんですけど。」


「私も倉庫から別のものがないか探そう。流石にこれは......今回の功労者に対して行うものではないからな。」


「おーっほっほっほ!」


誰がどのセリフを言っているかはご想像できると思いますわ!.........はぁ。無駄に体力消費した。でも、漸くこの地獄の3日が報われる....!


苦節3日。毎朝毎昼毎晩味付けネイチャーのパッサパサレバーを口の中に放り込まれ、挙句の果てには天国であったはずの飲み水すら血生臭くなるほどにレバーを口にぶち込まれた俺は、地球あちらに戻れたとしてもレバーを食べれるかが分からない程に水仙さん鬼畜般若にトラウマを植え付けられていた。


お塩、タレ、ニンニク、生姜.......うぅ、文明の力の偉大さをもう一度噛み締めたい。


「飯だよなぁ、問題は。」


「そうねぇ。でも、それに関しては私達じゃどうしようもならないのよ。もっと上手い交渉ができればよかったのだけれど。」


「交渉?」


え、交渉する相手とかいるの?後、提供できるものがここにあるの?


「ええ、凰呀おーが族よ。」


「オーガ。」


おお!ここでついにゴブリンの他の異世界らしい種族の名前が挙がったぞ!


「どんな種族なんですか?」


「取り敢えず、戦闘民族って感じかしら。皆が皆戦いを好んでるわけでは無さそうだけどね。」


「へぇ。見た目は?」


「んー、とにかく真っ赤ね。」


「真っ赤。」


「身体の隅々まで真っ赤よ。あ、目は普通よ?それでね、凰呀族って皆体格がよくて大きいの。人より二回り大きいんじゃないかしら?」


実物を見ないとイメージしづらい表現のされ方だけど、でかいんだろうなぁ。


「そして一番の特徴が、額に一本の大きな角が生えていることね。」


「へぇ、角。」


鬼っぽいけど、そこんとこどうなんだろ?ここでは鬼がオーガなのか、オーガと鬼に何らかの違いがあってオーガってのがいるのか。


「その、オーガと取引して食料を手に入れていると?それにしては、その、何の緩和もしていないようですが?」


「........そこなのよ。そこが問題なのよねぇ。」


はぁ、とため息を吐く水仙さんであったが、他の皆も同様の理由で、暗い顔をしている。


「.........対等な交渉が出来ないのだ。」


「対等な交渉が出来ない?」


鎌風さんの言葉をオウム返ししてしまった。


「そうだ。言葉での交渉が意味をなさなかった。奴らの根底にあるものは支配欲と力だ。言葉でどれだけ対等に持ち込もうとも、力で負けてしまうのだ。」


「ち、力で負けるって...........」


そんなに強いの?オーガって。なんか、ゲームだと序盤ぐらいにくる低レベルモンスターだと思ってたんだが。


「.........飢餓とは恐ろしいものなのだ。無論、全力をもってすればおそらく私達が勝つことはできるのだ。ただ、ここ十数年の食糧不足、それによる慢性的な飢餓によって、以前までの力が出なくなってしまったのだ............これも、言い訳にしか過ぎないのだがな。」


「.................」


力による支配か..........クソだな。


「あ、そもそも、オーガとの交渉っていつから始まったんです?」


「そうねぇ........確か、5年前だったわよね?鎌風君。」


「ええ..........白銀達が講習を終えた頃でしたので、ちょうどそれぐらいだったかと。」


「.......思えば、私達が食料難に陥って右往左往していた時に彼等が来たわよね。まるでそうなる事を予期していたかのように。可笑しいわね。」


「確かにそうですね。飢餓状態で思考もまともにまとまらなかった当時は気付けなかったが、何故あの時期に...........」


なにやらおかしな点があったようで、二匹二人が考え込んでしまった。うーむ、食糧不足と取引、か。それが何とかなればいいけど、部外者の俺にはどうすることもできないし、取引できるほど俺は頭良くないし。何とか解決できないものかね?俺だけ怪我人とはいえレバー食わせてもらうのも申し訳ないし。



「鎌風隊長!」


「ん?何だ雄星。」


「はぁ、はぁ、で、伝令です。」


息を切らしながら部屋に一匹入ってきた。息の切らしようからどれほど急いで来たかがうかがえる。


「お、凰呀族が、はぁ、明日の午後にこちらにやってくると、伝書雷鳥ライトニング・バードにて連絡が!」


「........予定より早いな。こちらとしては食糧が早急に増えるのは嬉しいことだが、何故この時に?」


「詳細は不明です。」


「分かった。応対の準備を至急行ってくれ。長にこのことは?」


「既に伝えてあります。明日の受け渡しも長が行うと仰っていました。」


「分かった。では準備を始めてくれ。水については私が鱗葉達に伝えておく。」


「分かりました。」


そう言うと、足音が遠のいていく。首を回して見れば、既に伝達に来た狼は居なくなっていた。やっぱり走るのが速いな。


「.......さて、急用ができてしまった。私は仕事に向かう......君が無事で良かった。安静にして、怪我を早く治してくれ。では。」


そう言って鎌風さんは行ってしまった。心配してくれてたんだな。胸にじんわりと温かいものが広がる。気を抜くと目頭から熱いものが出てきてしまいそうだった。ホント、涙もろい自分に困るぜ。


「凰呀の方達が来るとなると、私も行かなくちゃいけないわ。迅君も大丈夫なようだし、私も行くわ.......午後にはまたレバーを持ってくるから、ちゃんと食べてね?」


じんわりと暖かくなった胸の熱が引いていく。それどころかカチコチに冷え切りそうだ。抜け目がねぇ。安心させておいてここぞとばかりに叩き落とす。私は絶対に水仙さんを敵には回しません。


ニコニコと笑いながら暖簾をくぐり出ていく悪魔の姿を見送りつつ、俺は首を戻し天井を見た。



豪災の追放。


ずっと彼の処遇に対する不信感が頭をぐるぐると渦巻く。鎌風さんと話して豪災の身に起こったアレをおそらく王餓さんが知っていることが分かってから、何故?という疑問がずっと頭から離れないのだ。俺を追放及び殺そうとしてきたアイツに対しての同情なんてものは無いがどうしても気になってしまう。もしかしたら、ここはそういう対処を平然と行うのが当たり前の場所なのかもしれない。でも、やはり。


「............はぁ。」


「どうしたの?ため息なんか吐いて。」


この声、風牙か。ま、こんな大きなため息吐いたら気づかれるわな。


「あぁ、その、風牙は豪災の処遇について聞いたか?」


「え?あ、うん。ここから追放されたんだってね。」


「あぁ。」


「それに関して何か思うことがあるの?」


「............まぁな。」


「気にすることなんて無いだロ?アイツがやったことを加味すれば、アレは当然の処遇だと思うゼ。」


「普通は、そうなんだがなぁ。」


「グダグダと考えたところで何にもなりゃしねぇゾ。」


「わっぷ。」


ガシガシと、乱雑に俺の頭を撫でてくる藍華さん。その顔はあの時の陰りはなく、最初に会った頃と同じ元気で快活なものに戻っていた。そうだ。藍華さんはそれが一番。


まぁ、それはいいのだが、


「イデデデデ!首!首にダメージがいっちゃってる!」


「アァ?んなわけねぇだロ。男だロ?これぐらい我慢しろっテ。」


「いや、そんな次元の痛みじゃ―イデデ!?」


俺の抵抗虚しく乱雑に頭を撫でてくる。あまり撫でられ慣れていない俺は若干の照れくささを感じるのだが、それを上回る程の痛みと脳内の緊急信号アラートで顔が苦悶の表情に染まっていく。


「ちょ、ホントに勘弁して―」

「俺達が来てもその体で無理したんダ。これはその褒美でもあり罰ダ。大人しく受けロ。」


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



なんだか無理やりつけられたオチみたいな結末だったが、それでも、俺はこの状況に安堵を覚えたのだ。







このあと、午後に来た水仙さんが首を重点的に回復してくれました。本当に助かった。あ、藍華さんが隅にて震えることになったのは言うまでもない。南無。

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