第四十四話 ふっかけられた喧嘩①

「フっとびやがれぇぇぇ!」


何か叫びながらこっちに向かって走ってくる。凄い、本当にバトルモノのアニメのワンシーンみたいだ。


!我に集い、そして敵を穿て!“豪雷の鉄槌ライトニング・ボルト”!」


大気から弾ける音がする。目の前の狼の口周りには黄色の稲光が集う。拡散し、収束し、そして形となった雷は豪災の咆哮と共に俺に向けて放たれる。


空中をジグザグと進む雷は次第に降下し、地面をそして這うように拡散していく。


あれ当たったら不味いな。ならば取る行動は一つ!


「逃げるっ!」


ガンダ(ガンガンにダッシュ)しかない。


当たり前だろう。あんなモン常人が普通に避けるなんてできるか。万が一失敗したときの事考えたらこれが一番の正解だ。そもそも相手雷だぞ?当たったら痛いでしょうが。


「ダハハハハ、アイツ無様に逃げてやがるぞ!」


「避けることも出来ねぇのかへなちょこ!」


周りの罵倒なんざ知らん。当たりゃおしまいなんだから逃げるのは別に恥じゃねぇだろ。


ぐんぐんと俺と豪災の距離が開いていく。豪災は詠唱をしながら必死に追いかけて来るが、俺はマトモに戦う気がないのでただひたすら走る。


そして合間合間に飛んでくる魔法を上に横に移動しながら半ば感で避けきる。


観客やっかみが俺を馬鹿にしながら笑う一方、自信があったのだろう魔法を俺に簡単に避けられたためか、自分がイキっていたのに盛大に外したからか、豪災は少々離れた距離にいる俺でもわかるぐらいに顔を真っ赤にしていた。いや、まぁ強いんだろうけど、当たるかどうかは関係ないし。


「避けるな!短縮詠唱!我に集い、敵を穿て。“豪雷の鉄槌ライトニング・ボルト”!」


先程よりも気持ち範囲が広い雷撃が、命を刈り取るような恐ろしいバチバチと弾けるような音と共に迫って来るが、逃げに徹してる俺からしたら逃げ切るのは簡単なのだが、それがアイツにとっては気に食わないようで、


「くぅぅぅぅぅ!‘“豪雷の鉄槌ライトニング・ボルト”、“豪雷の鉄槌ライトニング・ボルト’‘ 、“豪雷の鉄槌ライトニング・ボルト”!」


眩く光る雷が連続で俺に襲いかかってくる。前と左右からの三箇所、しかもほぼ無詠唱。なんとなくゆっくりと見えるそれらから俺に向けた殺意をひしひしと感じる。これ試験だよね?


しかも避けにくくして逃走経路を一箇所に絞るように誘導しやがる。イキっているのも納得できる連携力だ。


まともに当たれば体が痺れて動けなくなるか最悪気絶だぞ。俺は罠だと知りつつも唯一の逃走路である後ろに走るため振り返る。


「それを待っていたぜぇぇぇ!短縮詠唱、我に集い、敵を撃て、“斬撃の風ウィンド・カッター”!」


そこに豪災は間髪を入れずに魔法を打ってきた。


俺はその魔法をくらう。鋭い空気の斬撃音と共に肩から胸にかけて服が破れ、血が流れる。骨までは切れていない切り傷。


「はっはー!まずは一発ぅ!」


「行けー豪災!早くやっちまえ!」


「かっけぇっすよ!豪災さん!」


周りが盛り上がる。主に取り巻き。だけど言葉や態度に出さないだけで、一定数はこの結果に満足しているようだ。やれやれ、排他的な考え方をする方が多いこと多いこと。


「なぁーに余裕ぶってんだよぉ!」


豪災からまた風の刃が放たれる。先程よりも勢いか強くなっていた。スパンと切り裂く音と共にまた出血した。


「早すぎて避けることすらできねぇのかぁ?」


ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる豪災はどんどん饒舌になっていくが、別にどうとも思わない。


この戦闘での違和感。それを突き止めるため、俺はただ、相手の攻撃を受ける。


逃げ続けていた間は馬鹿にする声が多かったものの、俺が攻撃を受けるよえになってからは、ヤケになったのか、諦めたのか、と明らかに戸惑うよえな声が少なからず聞こえるようになっていた。


「ちっ、なんかしらけるわ。人間ってこんなに弱いんだな。............ 所詮噂は噂か。」


俺が攻撃を喰らっていると、突然剛災の攻撃が止まった。


「なぁ、少しはやり返してこいよ。こっちもつまんねぇからな。」


そう言って、相手は無防備になる。いや、お前のつまらない、つまらなくないは全く関係ないんだが。こちとら半強制で受けさせられた戦いやぞ。


まぁ、飛び込んでみるか。やることないし、それに向かってったほうがボロが出そうだし。


てか、傷がすげぇ痛ぇ!まじで涙が出てくる。下唇かんで我慢しているがこらえれねぇ。切られた皮膚からスパッと開いた薄皮の下が外気で冷えてヒリヒリする。指先ならまだしも上半身そのものに切り傷つけられるとは思ってもなかった。よくあの時耐えれたな、俺。


俺は無言で豪災に突っ込む。


我ながら隙だらけのパンチを繰り出してるなぁなんて思いつつ、俺は殴りかかる。初心者丸出しの拳は、初心者でありながらも決して遅くはなく、防げるか防げないかギリギリぐらいの速さだった。まあまあいい線だったのではないだろうか。


だが、拳が相手の顔に触れる瞬間、


「なぁんてな。」


豪災はいとも簡単に俺のパンチを回避し、


「やっぱ、弱ぇなぁ!」


俺の顔面に向かって前足を振りかざした。


ゴンッ


鈍器で殴られたような鈍い音と共に俺は場の中心から端まで吹っ飛ばされた。砂煙が上がる毎に俺の服は破け、そこから血がにじみ出る。俺の頭は殴られたときに爪に引っ掛かれたのか額の皮が薄く裂けて血が出ていた。


「はっはぁ!どうだ、これがコイツだ!コイツは俺に負けたんだ!人間なんざ弱すぎてこの村に何の利益も生まねぇ!足手まといになるだけなんだよ!...........足手まといになる存在はここには要らねぇ!さっさとここから出てお家に帰ってテメェの親にエンエン泣きついて引き込もったらどうだ?あぁ!」


ここぞとばかりに溜め込んでいた鬱憤やらなんやらを吐き出す豪災。豪災側の狼たちもその言葉に賛成の声をあげる。


「そうだ!出ていきやがれ!」


「異物は要らねぇんだよ!」

 「長が庇ってくれるからって調子乗りやがって!」


「魔法もまともに使えないやつがしゃしゃるんじゃねぇぞ!」


エトセトラ............


いやぁ、聞き慣れてるからなんとも思わねぇ。審判の狼も俺に鋭い視線を向けてきた。この場のほとんどが俺を今否定している。


講習で仲良くなった奴らと藍華、結城は視界の端で何かをしていた。必死に抗議してくれてるんだろうな。


「なぁ、さっさとあきらめて............」


豪災は何か懐から取り出して、


「家に逃げ帰ったらどうだぁ!」


砂に塗れた袋を投げつけてきた。


俺の身体に当たってそれが落ちる。何かと思ってそれを見てみれば、


「ここに居る奴ら皆、みぃんな!テメェのことを受け入れてなかったんだよ。さぁ、出ていけ。だが、俺にも慈悲の心はある。」


その中にはボロボロの服が入っていて、


「これをお前にやるぜ。これぐらいあれば十分だろ?」


それは、更にボロボロになった俺の着ていた服だった。


「さぁ、出てけよ!」


「「「「「「「「「出ていけ!出ていけ!出ていけ!出ていけ!出ていけ!出ていけ!出ていけ!」」」」」」」」」


「アイツ等ァ!もう、我慢なんネェ!」


藍華の怒号が聞こえたが、場に乗り込むことはなかった。


「オイ!止めんじゃネェ!悔しくねぇのかヨ!」


藍華は質問するが、結城は答えない。


あぁ、なんか久しぶりかもしんねぇ。そういやこんな事昔にもあったなぁ。


あぁ、人の物を勝手に汚しやがって。






「覚悟は出来てんのかァァァァァァァァァァァ!」


俺はヤツの顔面がひしゃげる程の殴りをかまし、コイツを存分に痛めつけることに決めた。

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