第四十三話 色々省いて二ヶ月後

あれから二ヶ月経った。


いやぁ、時が過ぎるのは早いねぇ。


毎晩特訓はしているが、あの日以降の進展は一つもない。他の魔法なんか使えもしない。そんな事が続いたため、案の定、一ヶ月過ぎたぐらいで実技を止められた。唱えても何も発動しないし、前回の様なことが万が一でも起こったら水仙さんにどやされるとのことで、鎌風さんから直々のストップがかけられた。悲しくなるよね。


風牙とはあれからずっと一緒に暮らしてる。期間が延長したどころの話じゃなくね?まぁ、一緒に魔法について話すのは楽しかったしいいんだけどさ。まさか水仙さんから提案されるとは思ってなかった。


曰く、家で籠もるより俺と話してたほうがずっといいだろうから、だそうだ。


そう思ってもらえて嬉しかった。風牙も期間のほぼ無期限延長に対して嬉しそうだったしな。


ただ、籠もるって、何だ?意味は分かるけど理由が分からん。風牙の身に起きたことについては聞けそうにないし、無理やり聞くつもりもない。でも、気になるんだよなぁ。


さて、回想するのはここまでにしておいて、現実いまに戻ろうか。


今、家で魔法に勤しむ最中に強烈な義務感と共に花を摘みに行った帰りなのだが、目の前には白いお花が3本、いや3匹が立ちふさがっていた。おかしいな、誰とも待ち合わせした記憶はないんだが。


「へっ、魔法が使えない人間種かくしたくんよぉ、お前、いつまでここに居るんだよ?」


「.................」


「黙ってんじゃねぇよ。」


「あ、俺の事言ってたの?」


「お前以外の誰がいんだよ。」


「いや、かくしたくんって名前の誰かが居るんじゃないかって思って。」


「はぁ?格下なんてテメェ以外誰が居るんだよ。」


「え?お前。」


「あ?」


「ちょっ、本題行きましょうよ。」


「........ふぅ、そうだな。んで、テメェはいつまでここに居るんだよ。」


おーおー、体毛の下が真っ赤だぁ。相当堪えてるなこれ。


「いつまでって、そりゃあ、許される期間まで?」


「なぁ、本気でそう思ってんのか?甘えんのも大概にしろよ。そもそもさぁ、俺等誇り高き牙狼族様と同じ場所にいることが間違いなんだよ。」


「えーと、つまり?君達が言いたいのは?」


「あ?ここまで言っても分かんねぇのか?なら、言ってやるよ。」


一つ一つの振る舞いが誰から見ても鼻につくが声高らかに言う。


「早くここから出てけよ、無能がッ!!」


まぁ、十中八九そうだよな。当初から気に食わなさそうに見てたし、何やら他からも嫌われているらしいので、そういう奴らだとは思ってはいた。


「はぁ。何故?」


「俺等はよぉ、テメェみたいな足手まといを村に置けるほどヤワな存在じゃねぇんだよ。」


「え、お前らも同じじゃん。足手まといなの。」


「は?本気で言ってんのか?」


「うん。狩りにも参加できない奴らがどうして足手まといじゃないと言える?」


「いや、俺達牙狼族の子どもは最初から戦力になれる。つまりはお前とは違って足手まといじゃねぇんだよ。」


「誰しもが最初は足手まといなんだよ。何も知らないから。だけど、練習して、慣れて、ようやく前線に立てるようになるんだ。だから、俺等は全員足手まといなんだよ。現に、お前等も狩りに参加させてもらえないだろ?まだ未熟だは、言い換えれば足手まといなんだよ。わかる?」


「なら、テメェはその練習すら出来ないような雑魚じゃねぇか。」


ひゃひゃひゃと取り巻きが笑う。


そう、そこをつかれると反撃できないんよなぁ。


「まぁ、事実だね。」


「だからよ、雑魚のお前を置いとく意義も利益もなんもないんだよ。そんな奴がのうのうとここで生きてていいわけねぇよなぁ?」


「とっとと森から出てけ劣等種!」


「魔法も使えないゴミが!」


よ、幼稚すぎる。


いくら言われ慣れてるとはいえここまで幼稚な台詞を吐かれるとは思ってなかったぞ。


うーん、どうすっかな。風牙の件を言うわけにもいかないし、と頬をポリポリしてたらいい案が浮かんだ。


「じゃあさ、鎌風に聞いてきてよ。それか村長でもいいからさ。」


「はぁ?こんなくだらねぇこと鎌風先生や長に聞く意味がないだろ。」


「いや、俺がここに居るのは鎌風と王餓さんの許可があってのことで、ちゃんとここに住んでいいよって言ってもらってるから。俺が出ていかないといけないならどうぞまずはあの二人に許可を求めてもろて。」


「な..........」


いや、お前あの違法酒飲み祭りに参加しとらんかったんかい。あの紹介の仕方からなんとなく察せるだろ。俺がここに住ませてほしいなんて願った場合、出てけって知らせはコイツ達からじゃなくて鎌風か水仙さん、もしくは王餓さんかま直接伝えるか、何も伝えずに勝手に放り出されるかだし。


コイツ達にとやかく言われる筋合いはない。


「ほんじゃ。」


「待てよ!」


「あ?」


言葉だけで待つと思うのか?なんて考えながらもちゃんと待ってやることにする。待てって言われたしね。


「認めねぇ.........認めねぇぞ。俺はお前の存在を認めない!」


「あぁ、どうぞご勝手に。」


いや、まじで思うなら勝手だから。とにかく帰らせてくれ。こっちは風牙を待たせてんだよ。


「決闘だ!」


「はぁ?」


遂に戦闘面の異世界らしい言葉を聞いたぞ。決闘だ?そんなシステムがこの村にあんの?


「明後日の昼、闘技場でお前に決闘を申し込む。お前が負けたらこの村から出てけ!」


「ひゅー!やっちゃうんですね!」


「終わったな、お前。」


なんか勝手に盛り上がってる。あの、申し訳ないんだけど。


「それ、受ける必要ある?」


「は?受けないといけないんだよ。お前は。」


「いや、まず勝ってもメリット俺にないし、しかもそれが合法かどうかも知らんし。まずは鎌風辺りに聞かないといけないし。そもそもそれに強制力ないし。」


「はぁ!?俺が言ったからお前は受けないといけないんだよ!」


「はぁ?それがどれだけ自分勝手な発言だってわかってる?その発言が許されるのは絶対的強者、団体をまとめ上げる長、つまり、ここで言えば王餓さんだけなんだよ。お前は王餓さんと同等の権力を持ってるのか?」


「うっ」


所詮は脳に筋肉のつまった、力が全てと思ってる馬鹿か。本当に講習受けてるのかって心配になるが、そういやコイツは真面目に受けてなかったな。


さてさて、めんどいし早いとこ風牙のところに戻って魔法の研究でも........





「これより、試験を行う。」


「な、何でぇ?」


ど う し て こ う な っ た?


約十メートル先には誰か知らない狼が立っている。そして取り囲むようにそれを狼達がお座りしながら見ている............あの、なにこれ?


何故俺がこの脳筋狼とタメで戦わなきゃならなくなった?



/////////////////////


『ふむ、どうやら困り事のようだな。』


『ゲッ、鎌風。』


あ、やべっ、思ったことが口から漏れちまった。


『............ところで豪災、先程の会話は何だ?』


『いや、その、先生.........これは』


流石に先生の前だと大人しくなるか。


『あぁ、そうだよ!こいつ、なんもやってないのにどうしてここに居られるんだよ!無能のくせに、役立たずのくせに!』


マジかこいつ。堂々と言い切りやがった。自分より下の前でしか威勢がよくないヤツよか多少はマシだが、どうしてそこまで俺に執着するのかね。


『ふむ、納得がいかないか。ならば、実力を確かめてやればいい。』


『は?』


いやいや待て待て、嘘だろ?


『アンタも決闘しろって言うのかよ?』


『いや、決闘ではない。あくまでも対人及び対狼訓練として処理する。勝てばそれぞれに報酬を出そう。ただし、どちらが負けても罰は発生しない。』


まぁ、それならこちらだけが不利な内容にはなってないから受けてもいいとは思うが、


『何故俺に戦わせようとする?』


『私が君に講習を辞めさせてしまったからだ。』


『はぁ。受け答えがおかしいぞ。それとこれに何の関係が?』


『風牙と何やら密かにやっていることがあるようだが、一講師として、君の成長を確認したい。それに、君も今の自分の実力がどれほどなのか知りたくはないか?』


『.................』


知りたくねぇぇぇぇ。どうでもいい。風牙とはただただ魔法について語り合ってるだけで、そこに深い意味なんてないし、あれから全く成長してないし。


『アンタ、俺に対して講師って名乗れるの?』


『.........それでも私が講師ということに変わりはない。』


『藍華さんのメンタルケアは?』


『あの件があった後迅速に行った。藍華の義母にこっぴどく叱られたよ。』


『叱られといてよくもまぁ講師面できるよな。』


『私は、私自身が少しは良い方に変わったと思っている。だから、先ずは償いをしたい。その一歩として、君の実力を測り、もう一度講習を受けれるようにしたいのだ。』


『ほう?どうやって?』


『この試験において君に足りないものを魔法以外の点で探し、君だけの講習科目と実技科目の割り当てを決める。そうすれば、魔法が使えなくとも前線で戦えるようになるはずだ。』


『.........なぁるほど。』


なんか家庭教師に鎌風がランクアップしたんだが。


そうか、コイツはコイツなりに考えたか。いや、俺は大人に対して強く出れるほど偉い存在じゃないから、今までとってきた態度からして悪ガキ認定されてもおかしくはなかったんだが、それでも俺の事を考えていてくれたのか。


それに、ちゃんと謝りに行ったんだな。講師であることを盾に自分は正しいと言い張るやつじゃなくてよかった。


でも、うーん。うれしいんだけど、何故わざわざコイツと戦わないといけないのか。


『あー、良かったよ。藍華さんとの件が終わったなら、俺はそれでいい。戦う条件も鎌風.....さんの提示するやつならいいんだけど、どうしてもコイツと戦わないといけないのか?』


『.........あぁ、できればそうしてもらえると助かる。そもそも決闘を仕掛けたのは豪災だからな。対戦相手が変わったら意味もないだろう。』


じっ、と俺を見る鎌風......さん。ん?目線がちらちらと別の方を向いている。あの方向は...........俺等の住居?まさか..........


『まあそうだろうが、その内容だと俺はコイツと戦う意味がないと思うんだが?』


そう言いながら、俺は鎌風さんの目を見ながら頷く。


『講習では同年代同士での模擬戦闘訓練が行われる。君は今講習生ではないためそれが受けられない。だから、その代わりになればいいと思っている。』


向こうもそれを理解したようで頷き返しながら喋る。


『えぇ、それでも俺は―』

『うるせぇ!鎌風先生もそう言ってんだから素直に受けろや!ぅっ』


鎌風さんからの話もあって調子づいた豪災がおれに噛みつくが鎌風さんに睨まれて鎮火。ざまぁねぇ。


『元はと言えばお前が余りに酷い条件で決闘を申し込んだのが悪いんだぞ。聞いていたが、自分に不利のない条件で挑む決闘など成立するわけがないだろう。私が今回、別条件でかつ試験として戦い受けないかと提案しているが、本来私はこれに口出しする必要はない。このまま流しても私は良いと思っている。それでもいいか?』


『え、あ、う........それは』


喋れば喋るだけ墓穴掘るんだからもう黙っとけ、お前は。


『それで、迅君。君は受けてくれるか?』


『..........返事は待ってほしい。流石にすぐには頷けない。』


『あぁ、分かった。ということだ、豪災。試験をするもしないも返答次第だ。断られた場合はお前がどう言おうと執り行わない。いいな?』


『ぐっ、わ、わかり、ました。っ、お前等行くぞ!』


『あっ、ちょっと!』


『待ってくださいよー!』


小走りで逃げていく3匹。小さくなっていく姿が妙に滑稽で、


『では、我々は戻るとしよう。』


そういや話あるんだった.................



/////////////////////


てな事があったんだけど、これのどこに了承の意があったんでしょうか?甚だ疑問です。


さて、現実に目を向けようか。


「ようやく、お前のそのイラつく顔を殴れるぜ。」


そう言う目の前の馬鹿狼こと豪災君。今日も今日とて威勢がいいね。


「今から対戦方式の試験を執り行う。今回は人間が参加するという異例の中行われるが、ルールは変更しない。互いの魔法や武器を使い戦う。この台から落とす、または気絶させた方が勝者とする。戦闘中、外野からの攻撃、中断などの行為を一切禁止する。また、人間の持つ武器は我らの攻撃に耐えられるよう効果付与エンチャントしてある。無論攻撃等の威力の増加の効果付与エンチャントは一切行っていない。だが、万が一この武器が破壊された場合を考慮していくつか予備を用意している。どれも彼の持つ剣と同じようになっている。」


しっかりした説明だが、俺を見る目がなにやらおかしい。なんかこう、トゲトゲしたというか。明らかに敵対してる雰囲気を醸し出してる。


「では、説明も終わったので、時亜 迅と豪災の試験を始める。」


「ソッコーで終わらせてやんよ。あぁ?」


「いや、ガン飛ばされても困るんだが。」


「試合.................」




開始ぃ!




そして、同時に駆ける。

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