第十七話 エンカウント ゴブリン③

       ザシュッ





................................................ あれ?

なにも痛くない。なにも感じない。


いや、少しだけ手が重い。ゴブリンが俺に向かってナイフを振りかざしてきたときは、死を覚悟した。


でも、今、俺は生きている。


目をゆっくりと開けてみる。そこには、


「Gyugya!?」



驚いているゴブリンと、腕に装着され、ゴブリンの攻撃を防いだ盾があった。


ゴブリンの攻撃は、当たらなかったのである。


「な、何で?」


見に覚えのない盾の出現に驚いた。

一体何があったのかは分からないが、とにかく今は、


「うぉらぁ!」

「Gyau!?」


盾を前に突き出すようにしてゴブリンに反撃。たまらずゴブリンは吹っ飛ばされる。


距離は二メートル弱。体が痩せ細っているためだろう、結構な距離が稼げた。俺は、この隙に逃走を試みる。


なんとか立ち上がり、走ることには成功したが、


「Gyagyagyagyaaaaa!」


ゴブリンからは逃げることは出来なかった。

俺は、生き残るための策を必死に考える。

何で俺は、こんな盾を持っているのかと。


神様が与えてくれた?

答えはNO

そんなんだったら最初から貰っているはず。


じゃあたまたま降ってきた?

この答えもNO

神様と同じ様なものだし、なんせ俺の腕に装着されていたという事実と噛み合わない。

普通降ってきたら地面に刺さっているはずだ。


ということは、

「俺が.......作り出した?これが俺の能力スキル?」


答えは分からない........分からないが、一番その可能性が高い。


だが、どうやって作り出したのか、トリガーがさっぱりだ。あの時を振り返ってみても思い当たる節がない。


恐怖?ではないな。じゃあ、痛み?でもない。一番あるのは、


「死にたくないっていう、醜い生存欲求か?」


俺は走っている間に、先程のように何か作り出せるか、試してみる。


死にたくない、死にたくない、死にたくない!



ダメだ、これでもない。なんの反応も起きなかった。どうする?こんな鬼ごっこをしていてもらちが明かないし、多分先に体力がなくなるのは俺だ。


まさにジリ貧だ。


恐怖やらなんやらで、俺の息は上がっている。肩で呼吸をしている状態に近い。


どうする、どうする、どうする?






「あっ。」


そういえば、あの時、身を守るために........


俺は、自分が作り出したであろう盾に目を向ける。その盾には見覚えがあった。


「俺がアニメとかで見てたやつに柄がそっくりだな。」


............そうか。

やはりこれは俺が造り出したものであって、

そのトリガーは、


「明確なイメージ............か。」


咄嗟のことで、頭が可笑しくなったんじゃないかと思える俺の考えだったが、何故か妙な自信があった。できる、と言う根拠の無い自信が。


アイツと決着を着けるために、アイツに勝つために。


そして、俺は、走るのを止めた。


ゴブリンはそれでも俺に向かって走ってくる。


顔は、さっきまでの怒りの表情から、一番最初の気味の悪い笑みになっている。


俺が諦めたのだと思っているのだろう。



そう簡単に諦めるわけねぇだろ。


さぁ、ここで、お前との戦いを、


。」



────────────────────


青い蝶は、空高く飛んでいく。

しかし、生物には限界がある。

地を生きるもの陸を支配する者には、生きる長さに、深淵を生きるもの海を支配する者には、生きる深さに、そして、天を生きるもの空を支配する者には、生きる高さに、越えられない限界がある。

だが、その蝶は、飛ぶことをやめなかった。

そして、その蝶は、自らの限界不可能を越えるため、己が翼を

無から有を生み出し、その蝶は創り上げたその羽を広げ、また空高く飛び続けるのである。


────────────────────


バチッ


俺は、その時、何かが弾ける音が聞こえた。

次の瞬間、それは起こる。


バチバチッ


俺の腕から蒼い稲妻が発せられた。


「Gyue!?」


ゴブリンも、その異様な光景に驚いていたが、それでも俺に向かって走り続ける。


バチバチバチッ


俺の腕から発せられるそれは勢いを増していく。


バチバチバチバチバチッ


、蒼い稲妻の量が増えていく。


「Gyugya!」


ゴブリンはすぐそこまで来ていた。

そして、


      ブォン



ナイフを俺に向けて振りかざした。



が、それは甲高い金属音と共に阻まれる。



ぶっつけ本番。自分の考えていたことが正解かどうかなんて分からなかったが、それを信用することしか出来なかった。


半ば投げやりになっていたが案外そういうのも捨てもんじゃないな。



俺の手には、しっかりとが握られていた。


「さぁ、ここからだぜ?」


最初の攻撃で血を流したせいか、右腕に力が入らない。足は、恐怖でがくがくだ。


それでも.........それでも生きるために戦う。









そして、戦闘経験皆無である俺の、この世界で最初の戦闘が、始まった。

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