第十八話 エンカウント ゴブリン④

俺とゴブリンは、互いに睨みあっていた。

互いに武器持ち、隙を見せたら殺される。

どうすべきか、互いに考える。


見ていて思ったが、目の前のこのゴブリンはあまり複雑な考えはできないが、本能に忠実であるような気がする。


だから、命の危機とか、人間では絶対に出来ないこととかを平気でやってきそうだ。予想外の動きに対処できるほど俺は体を動かせるわけじゃない。例え自分より小さいからといって油断は出来ない。


はぁ、はぁ、はぁ


俺と、多分ゴブリンのものと思われる息の音が聞こえる。


緊迫した空気が張りつめる。


ここにいるだけでもう気絶しそうなくらいの緊張とストレスに、戦っていないのに疲れ始める。


それでも、無理やり意識をアイツに向ける。さぁ、動き出すのは、どっちだ............?





「Gyugyaaaaa!」



やはり動き出すのはゴブリンだった。

なにも考えずに突っ込んでくるゴブリンほど厄介なものはいない。


体の小ささと持前の足で、ぐんぐん加速する。く、来る!


「Gyaaa!」


 金属と金属のぶつかり合う音が森中に木霊する。


「ぐぅ!」


なんつーパワーだ。こいつより確実に体重あるはずなのに押されている。華奢な体してるのにどうなってんだよ!剣を両手で持ってないと後ろに倒れそうだ。だが、


「ここで死ぬわけには、いかねぇんだよ!」


何か守るものがあるわけではないが、パソコンヤローが何故俺をここに連れてきたのか、その理由を知るまでは絶対死ねない。


俺は叫んだのと同時にその反動を利用してゴブリンを吹っ飛ばす。


「gyagi!?」


ゴブリンも流石に学んだのか、盾で飛ばした時とは違い、バック転をして踏みとどまった。驚異的な身体能力である。


「は!?ちょっ、そんな馬鹿げたことが─」 

キィン

「─あってたまるかぁ!」


人の台詞も言わせてくれないとか、こいつ絶対必殺技の溜めを待たない奴だな。


こんなことを考えているが、実はとてつもなくピンチな状況だ。


背水の陣ってやつだな。


戦っている中、俺はまた背後に木がある場所まで誘導されている。ゴブリンの策か、はたまた偶然か、どちらにせよ、この状況を打破しなければならない。


今さらだが、命のやりとりって、こんなに考えてやるものなのか。


そう思っていると、


「gugya !?」


ゴブリンが躓いて転んだ。


所詮ゴブリンも生き物。


同じ生き物なのだから、失敗する時もある。

俺はその隙を見逃さず、またその場から逃げる。体力はとっくのとうに限界を迎えていた。今は気力だけで走っている。


この森は戦うのに不利な場所だ。


あらゆる場所にデカい木が生えているため、木の根に躓きそうになるし、追い詰められればそれだけでゲームオーバーになってしまう。さっきみたいに。


今まで逃げられたのも運が良かったからに過ぎない。走って撒くのが一番安全であるが、またエンカウントするかもしれない。


「はぁ、真正面で殺るしか.......ないっ、ふぅ。」


息切れし始めている。

もう限界が近い。だが、このままでは永遠の眠りについてしまう。戦うしかないのだ。


しかし、先ほどの戦いでも分かる通り、向こうのほうが速く、強い。普通に戦っていては勝つなんて到底できない。


ならば策を立てるほかない。


「近づかれたら終わり...なら!」


俺はまた立ち止まる。

勢いを殺せず少しスライディング気味になってしまう。


地面にまぁまぁの溝ができた。


だが、ある程度の広ささえあれば、


「存分に戦える......はずだ。」


そして俺は手に持っていた木の剣を捨て、また創造する。応えろ、俺の能力!


バチッ バチバチッ


俺に応えるように、蒼い稲妻のようなものが手のひらの間で迸る。


そして俺は、あるゲームでとてもお世話になっていた武器を創り出した。


「近づかれたら終わりなら、自分の間合いを変えて、近づけさせなければいい。さぁ、戦おうか......!」


俺は、創り出したを手に取り構える。


刀身は約一メートルほど。太刀と言うより木刀の方が合っている気がする。


太刀の方がリーチが長いし、敵が無闇に接近してくることもなくなる。


咄嗟の判断にしては良いものだ、と思っていたのだが、


「いや、おっも!?」


とてつもなく重かった。


流石某ゲームでもモーションが遅くなりやすい武器種だ。刀身が長いというのも困りものだな。


「だけどこれで楽になるはず。」


そして俺は、全力で向かってきているゴブリンに意識を向ける。

え、速い!?


とんでもないスピードでこちらに走ってきていた。背筋が少し凍る。あんなスピードで突っ込まれたら、たまったもんじゃない。


攻撃なんてされたらお終いだ。


一発勝負ではないが、この行動で命がどうなるか決まるかもしれないと思うと、やはり緊張してしまう。

............................。


「Gyaaaaaaaaaaa!」


そしてあいつは飛び掛かってきた。

そして、


「ここだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は太刀を横向きに振るった、が、


「なっ、嘘.....」


タイミングが合わず空ぶった。

まずい、終わっ....


「Gugyaa!......Gya!?」


あ、俺の作った溝


あまりのスピードに体が追いつけず、土の凹凸に足を引っ掛けて盛大にぶっ飛んでずっこけた。地面に顔から突っ込んで。


ズズズーーーー


勢いがなくなり止まったゴブリンは俺の方を向く。


その顔は、真っ赤に染まっていた。


逆ギレじゃねぇか!そんなんされても困る。


そして、ゴブリンはいきなり俺に向かって突っ込みナイフを振るう。


「まずっ!?」


そして、その剣撃は俺の左腕を少し深く切り裂いた。


「っがぁぁぁぁぁ!」


灼けるような痛みが襲う。

痛い!痛い、痛い、痛い。

洒落にならない。そして切られてからすぐ左腕の感覚が無くなり始めた。


「ふぅぅぅ、ふぅぅぅ、ふぅぅぅ。」


涙が出てしまう。

昔から怪我ばっかしていたが、切られる痛みは知らない。


こんなにも痛いものなのか、と思う。

そんなのもお構いなしにゴブリンは襲ってくる。


だが、明らかに動きが単純なものになっていた。


敵の攻撃を寸前で躱す。意識は朦朧としていた。痛い、痛い、痛い。ずっとそればかり考えていた。


意識が薄れていく。両腕には力が入らない。そして腕が完全に動かせなくなり、俺の腕は力なく垂れた。そして、俺はその場で持っていた太刀を落とした。



─ソノチニクヲクワセロ



ふと、あの時の情景が浮かんだ。




喰われてたまるか。














俺の中で、何かが繋がった。

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