第十五話 エンカウント ゴブリン①
俺は、あのボタンを押した後、開いた扉に入り、歩き続けていた。扉の先の道は、少し凸凹していて歩きづらい。感覚は登山道を歩いている時のものに近い。
そんな道を数十分歩いていると、光が見え始めた。
この先ってもしかして外か!
外じゃない可能性もあるが、期待を胸に走り始める。普通、こういう訳の分からない非常事態の時、無闇に体力を消費しては行けない。だが、嬉しかったのだから仕方がない。
そして、
「っ!〜外だー!!」
俺は外に出た。
紛れもなく外の景色である。周りには以前見てきた馬鹿でかい木々が見える。
帰ってきたのだ。その事実に、俺はどうしても涙を堪えることができなかった。
「よかった.....よかったよ。」
もう出られないと思っていた。
あの神殿の中で一人で死ぬものだと思っていた。歩いていた最中、ずっと不安に襲われた............だけど、それから解放されたんだ。
すると、今まで気を張っていたからか、突然眠気が襲ってきた。不安の後は、眠気かよ。
でも、俺は抗わなかった。そして俺は、睡魔に身を任せ瞳を閉じた。
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「っ!?」
神殿の周りに彼が居ないか探し続けていた私は、不意に一つ、唐突に気配が増えたのを感じた。ここから少し離れているが、私の徘徊する範囲の中だ。気配の形からして我等ではなく人間。
「彼が戻ってきたのか。今向かえば、まだ間に合う。」
私は彼の気配のする場所へ、全速力でかけ始めた。
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「..........どこだ?ここ。」
とりあえず、今のこの状況を受け入れたくない。今、俺の目の前に広がっているのは、霧だった。え....なにここ、また転移?されたの?
えぇ、もう勘弁してくれよ。
これ何回言ったよ?疲れたよ。休憩させてくれよ。まぁ十分休憩してたけども。でもいきなりすぎやしないかい?
まぁ、もう慣れ始めているんだが。
怖いわー、こういうのに慣れ始めてる自分が怖い。にしても.....またこんな変な場所に送り込まれて、うーん、誰がこんなことしてんの?ってか、人がやってるかも分からねぇよな。もし人なら、
「一体なにが目的なのかね?」
目的がわからない。何回も場所を転々とする事でなにかできるのかな?
.......そんなことを考えていてもなにも進まない。でも、俺は本当にここに居るのか?ここに来た時から不思議な感覚に陥っている。
心ここに在らず、みたいに体ここにあらずの感覚。フワフワしているというか、ずっと落ちてるというか。なんとも不思議。でも、動かそうと思えば動かせる。
ちょっと動かしてみる。体が浮いているからか、移動は滑らかだ。ゆっくりスライドするように動く。
「えっ、気持ち悪っ!」
ま、まぁ、進めるなら進もうか。そうやって進もうとした時、見えない何かに阻まれた。
「あれ...進めないんだが。」
そして動けないんだが。
すると、目の前の霧が少しずつ晴れていく。
そして、霧が晴れた時、そこに見えたのは........
瞬間、俺の体は宙に放り出された。突然の浮遊感に悲鳴を上げることすら出来ない。許されない。そして浮遊が終わったのか、今度は体が落ちる、と言うより引き寄せられる感覚を覚えた。訳も分からず混乱していると─俺の腕が取れた。
...........え?
真っ白の霧の中、鮮血溢れる腕が空中を舞っていた。筋肉の繊維、脂肪、骨が荒い断面となっていた。
まるで砕かれたように。
そして、見た。
自分の身体が喰われているのを。
骨を砕き肉を噛み千切る生々しい音を辺りに響かせながら淡々と咀嚼されているのを。
牙が目前まで迫る。足から先の感覚は当然ないが、痛みも不思議と感じない。ただその巨大な白い牙が俺の赤い血色に染まりながら動いている。
胴体が喰われていく。牙との、何かの口との距離が近くなっていくにつれ、より鮮明に見えるようになった。その口に俺の骨が、肉が所々に引っ掛かっていた。胴の下部分に生物の息遣いか、それとも俺の血かの生暖かさを感じる。
もう、他の場所を見る力がないし、首も動かせない。ずっと喰われるのを見るだけ。そしてついに、俺の首が喰われ、重りの無くなった頭だけがまた宙を舞った。
くるくると回転しているはずだが視点は一つも動かない。俺が最後に見たのは金色の瞳を持つ何かの姿で、そして視界は真っ赤に─
─ソノチニクヲクワセロ
「うわぁぁぁぁ!?」
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
なんだったんだ!?ってあれ?
俺はここで気がついた。今まで見ていたものが、全て夢だったことに。
「はぁぁ、ふぅぅぅ............」
喰われるって、あんな感じなんだ。助けを呼べない、ただ喰われていくのを見るだけ。............ 生物の生存競争においてこれは日常茶飯事のことだ。動物、主にライオンとか虎とかね、虫だったらカマキリとか、それらに捕食される側はこういうのを体験するのだろう。
俺は初めて喰われる恐怖を知った。
二度と味わいたくないな、自分の肉を眺め続けなきゃならない事態なんざ。
「さて、そろそろ歩き始めますか。」
ここに止まってからおよそ1時間経ったであろう。足の震えは止まっていた。実際は夢だったが、正直泣いてもいいぐらいにはリアルで怖かったから仕方ないだろう。
だが、俺は再び歩き始めようと決心する。いつまでもここにいるのはいい判断ではない。とりあえず食料、飯が欲しいんだ。なにも食ってないからマジで空腹で死にそう。
そして、長時間ここに居たくない。トラウマの場所だから、ではない。決して。
と、そんなこんな歩き始めたのだが、
「まただよ、わかんないよ、どこいきゃいいんだよ。」
外に戻ってきたからと言って、目的地があるわけじゃない。辺りは相変わらず木ばかりで、飛ばされる前となんら変わりの無い風景だった。
もう今日中にどこか人の居るところに着けるとは思えないし、どこかにキャンプ..........したくない。虫怖い。だがやるしかない。
まぁ何にせよ取り敢えず食料が必要。人間飲まず喰わずでも1日程度なら過ごせるらしいが、毎日毎日親に飯を作ってもらいたらふく食べてる微肥満型の俺に1日どころか一食分食えないなんていうことに耐えられる気がしない。腹が減りすぎてもうすぐ動けなくなるくらいだ。
こんだけ木が生えてるんだったら木の実ひとつぐらいあっても良くないか?だが、どれだけ木を見上げようと、食べられる実が見当たらない。
どうしよう。マジで死ぬ。
あれから数十分しか経ってないのにもう後悔し始めてる。こんなんだったら家で晩飯つまんでおけばよかったと思っていたら、ポトっと何かが落ちてきた。
こ、これは............ !?
「リ.....リンゴだ!」
リンゴが上から落ちてきた!
え、マジか超ラッキーじゃん!いや、ほんと嬉しい。たった一個、されど一個。飯のありがたみがわかる。
では早速一口...........
「う............ うまい!」
とてつもなく甘い。疲れたからだにリンゴの果汁が染み渡る。日本で食ったことのない甘さだ。糖度18ぐらいあるんじゃないか?...........実際はどうなのか知らないし、そんな知識ないんだけども。
でも、そんなことはおいておいて、やはりうまい。ずっと食べていたい。でも、ものは必ずなくなる。リンゴも同じである。
「........あ。」
俺はいつの間にか食べきっていた。
足りない。圧倒的に、量が足りない。
小腹に少しものを入れたらさらに腹が減ってしまう。人間の欲は、恐ろしいものだ。
「また、探さないとな。」
そう思った、次の瞬間だった。
「Gya?」
「あ?」
俺は、出会ってしまったんだ............ 一番会いたくなかった、そいつに。
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