さよなら

僕が来た道を振り返れば

右左あっちこっち

お世辞にも綺麗とは言えない道があって

その汚さこそが僕自身を物語る


「誰かに好かれたい」と思ってたっけな

でも見てみろよ、僕の傍には誰も居ない

あんなに見て欲しいと思ってた創作だって

もう誰の心も繋ぎ止めやしない


僕の作品なんて

他の誰かの傑作の隙間を縫うだけの存在で

その癖誰かの「好き」を繋ぎ止める程じゃなくて

宛ら道端の売れない音楽家の在り来りな恋愛歌


それを「寂しい」と嘆いたのはいつだったか

それが堪らなくて喚いたのはいつだったか

その数だけの曲がり道

その数だけの傷心


いつかは誰かの心を刺すような作品もあったな

自分を顕すような作品もあったっけ

その数だけの短い直線

その数だけの美しき思い出


もうさよならだ

僕には元からそういう力なんてなかった

それを受け止められない事もあったな

「事もあったな」と受け止められる自分が悲しい


僕がいつか「さよなら」を言ったとしても

本当の意味での「さよなら」をしたところで

もう誰も「貴方の作品が好きでした」なんて

もう言っちゃくれないんだろうな


だから僕はまだここでぼーっとしてる

さよならを言う必要なんかもうないから

いつ消えたところで誰も気付かないから

それなら今消える必要だってない


「それじゃ、さよなら」

そう言って旅立った事もあった

創作なんかやめてしまいたかった

そんな旅立ち何度もあった


けど今日もここにいるんだ、笑えるだろ

誰かは言ってた

「さよならを言うやつほど帰ってくる」

本当そうだった


だからもう「さよなら」なんか言いたくない

出来るなら人知れずに消え失せたい

それはきっと今なら出来るだろうけど

それでも消えたくないって思ってしまうんだ


これはそんな僕の昔話さ

聴いてくれてどうもありがとう

と言っても、今いるのは君だけか

またどこかで見掛けたらよろしく頼む

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