怒り

 公園のベンチに腰を下ろしたのとほぼ同時に織音からLINEが届いた。

「先輩の今まで感じた怒りや思いを全部ぶちまけちゃって下さい」

 そもそも怒りとは何だろう?

 確かに俺は委員長に対して様々な感情を抱いていた。

 恋と嫉妬と羨望に憤り。

 確かに胸の内にあった感情は遥か彼方へと飛ばされて行ってしまっている。

 あれこれ考えていると痺れを切らしたのか委員長が口を開いた。

「それでさ...何度も言うけど私なんかかといたらまた君が傷ついちゃうんだよ」

「大丈夫、もう傷つき過ぎてノーダメだから」

 今更、何かあった所で何も思わない。

「私、クズだからさ...もう君が酷い目にあってほしくないの...君の為じゃない...私は自分自身の為にもう関わってほしくないの!」

 何を言われても何も感じない。

 だが、少し心臓が波打つ力が強くなっている気がした。

 体も少し熱くなっている気がする。

 きっと脳の感情を失っているが心や体の感情は残っているのだろう。

 ...今なら何かが変わる気がする。

 昔の俺ならば今、何を感じ何を思うのだろう。

 感情が伴わなくても良い。

 俺は以前の俺が言うであろう悪態を数々をぶちまける事にした。

「本当に変わらないな」

 時に身を任せ、ただ以前の自分を忠実に再現する事だけを心掛ける。

「...え?」

 俺が言いか返すとは思わないかったのだろう。

 水野は顔をこわばらせた。

「お前は安全圏で綺麗事をほざく割に自分の身に危険が及びそうになったら平気で人を切り捨てる」

「...」

 言葉がスラスラと出てくる。

 手には自然と力が入り、視野も狭くなった気がする。

「それで悲劇のヒロインぶって自分を肯定するんだ。自分が多少傷つけば良心は痛まないもんな?」

「...ごめん」

 水野は声を震えさせて小さく呟いた。

「つまり俺や母さんとも思い出もお前からしたらただのゴミって事だ」

「それはない!あの日々は私にとって一番の宝物だよ...!」

 水野は弱々しく制服の俺の肩部分を摘まんできた。

「どうだかな。本人の前ではそう言ったって第三者にはああ言ってる訳だし」

 きっと俺は今、とても醜い顔をして水野に詰めよっているのだろう。

 その事実に吐き気がする。

「...違うの...!あれは本当に怖くて...!本当に違うの...」

「何が違うんだよ。結局はお前にとって俺は幼馴染でも何でもなく頭のおかしい関わりたくないヤツだろ?」

「違う...!」

 水野は手の力を少し強めてきた。

 だが、それでもそれは弱々しいものだった。

「自分が狂わせてしまったと言う罪悪感から構っていただけだ。それで少々面倒くさくなってきたから切ることにした。こんな所だろ?」

「違うよ!私は君が大好きなの!」

 水野は俺の首に腕を回し強く抱き締めてきた。

「...嫌なのよ...!あんなに酷い事したのに君に馴れ馴れしく接したいと思ってしまう自分が...!」

「君が他の女の子と親しげにしてるのに嫉妬する自分も嫌!」

「君なら許してくれるかもって心の中で少し期待してるのも!」

「こうやって少し下心を持って君に抱きつく自分も!」

「そして何より、また君を傷つけてしまいそうな自分が一番嫌...!」

 啜り泣いているせいか水野の声は少し枯れている。

「...なら、逃げるなよ!!!お前、そうやって残されたヤツの気持ち考えた事あるのか?」

「俺はお前と仲良くしたいの!!お前がそれでどう思おうが関係ない!お前が傷つこうがそれは自業自得だ!」

「ならさ、せめてケジメはつけろよ!!!!!!」

 俺も怒鳴ったからか声は枯れ喉がイガイガする。

「...本当に良いの?私、また君に迷惑かけちゃうかもよ?」

「構わない。俺はその倍、お前にやり返す」

 水野は俺の胸中で大粒の涙を手で拭きこちらを見つめてきた。

「なら、私にもう一度だけチャンスを下さい...もう、絶対に君を裏切らないから」

 こうして幼馴染との一件が解決?したのだった。





 作者から~

 投稿が長い間出来ず本当にすみませんでした。

 リアルが忙しい過ぎて執筆する暇がありませんでした💦

 ただ、今日からまた毎日投稿していきたいと思います。

 これからもまたよろしくお願いします!

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