無罪の少女

 私は自分が憎くてしょうがない。

 私はたった一人の親友を裏切った。

 自分の境遇で甘んじ先輩の事を一切見ていなかった。

 双方向性のない一方的な愛を受け続けていた。



 あれは確か今からちょうど2年前の夏。

 その頃の一色織音はクラスで孤立していた。

 表向きの理由は友達が好きだった先輩を振ったから。

 でも、私は知っている。

 理由など何だって良いのだ。

 集団の中で一人をハブって結束をはかる。

 動物だってよくやっている事だ。

 それにずる賢くて醜くい人間は免罪符を付けたがる。

 ただそれだけの話。

 だから私はそれに反抗した。

 制服を着崩しメイクも覚えて髪も染めた。

 言葉も崩し周りを睨み嫌味を覚えれば周りも絡んで来なくなった。

 でもただ一人そんな私にしつこく話しかけてくるやつがいた。

 それが先輩西上光希だ。

 先輩は私の1個上の姉の彼氏だった。

 どうやら姉に頼まれて付きまとってきているようだ。

 私は殴りいたぶられるよりも罵詈雑言を浴びせられるよりもこの世の中で哀れまれる事が一番嫌いだ。

 だから私は今まで通り拒絶し続けた。

 それは晴れの日も。

「そのピアスあのアニメの限定モデルだよな?」

「...まあ、はい。すみません!予定あるんで」

 それは雨の日も。

「そのストラップ、最近デビューしたV tuberのやつだよね!?」

「...あ、そうですけど。忙しいので」

 それは清々しく気分が良い日にも。

「昨日発売した新冊買った?ってもうか読んだ?」

「...ラブコメは全部買いましたね。では」

 気分が悪い日にも。

「昨日投稿された3期決定&OVA決定PVはもうチェックしたか?」

 とにかくある日を境に先輩は毎日隙間時間が出来る度に話しかけてきた。

 今思えば自分と少し境遇が似ている私を放っておけないというのもあったのだろう。

 毎日、毎日話し掛け続けられた私は3ヶ月目だろうか。

 流石に折れてしまった。

「なあ、新作買った...」

「...ラブコメと大衆文学作品を買いましたね」

「...!!!」

 先輩は私が返事をしたことに驚いたのか涙目になっていた。

「...ど、どうしたんですか?」

「いや、そのもう半分諦めてたからさ。まあ俺の人生なんて諦めと苦悩で出来ているから苦ではなかったけど」

「何ですかそれ。愛と勇気で出来てるアンパンマンの下位互換じゃないですか~」

 私たちはお互い見つめ合い笑いあった。


 それからは早かった。

 学校でほぼ孤立している先輩と完全に孤立している私。

 おまけに趣味も合う。

 私たちはすぐにため口で喋るようになりお姉ちゃんとのデートがない日は一緒に遊びもした。

 本屋にアニメイトにメロンブック、TSUTAYAでアニメをレンタルし語り合う。

 友達がいなく一人で遊ぶ事が多かった私たちはそれを埋めるかのように遊び回った。

今思い出してもあの瞬間が一番幸せだったと思う。

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