脅迫

「よっー」

「何で光希くんがいるの...?」

「そりゃこんだけ大騒ぎになってたら嫌でも目につくよ」

あれから俺は大勢の生徒の注目の先、よると井上の所に来ていた。

「よる、このペン持ってて」

「...え?うん。分かった」

俺はお気に入り(意味深)のペンをよるに渡し井上に目を向けた。

「...ふっ」

あら、失礼。うっかり嘲笑ってしまいましたわ。おほほほ。

「喧嘩売ってるの?お前?」

「事業を起こすの校則違反なんだから喧嘩なんて売れるわけないだろ。いやっ?待てよ。喧嘩って在庫ないしコスパ良くね?」

ナイス起業アイデア!井上はどうやらプレーンの才能があるらしい。

「陰キャがでしゃばんなよ!痛いんだよ」

井上が大きい瞳を強く細めながら顔を近づけてきた。

「うわっ、臭!?ぺっ!ぺっ!かっーかっーうぇヴ」

口の中からシュールストレーミングのような臭いがしてきた。

全く口内で塩漬けしないでほしい。

「...お前ふざけるなよ!」

井上が物凄い力で襟を掴んできた。

「忠告だ。その手を離せ。今なら許す」

「はっ?何言ってんの?お前みたいなクズ普通にボコすけど?」

井上はケラケラと笑みを浮かべながら、俺の頬に強烈な右ストレートをしてきた。

「お兄ちゃん!井上やめて!」

よるの叫び声と共に鈍い音が教室内に響き渡る。

「なぁなぁ?どうした?さっきまで女の前だからって散々イキってくれてよお!」

歪な笑みを浮かべる井上に賛同するようにあちこちから笑い声が聞こえる。

「なぁ?ほら、やり返せよ?なあ!おい!」

井上の前蹴りがもろに入って俺は床にうずくまった。

「だっさぁ!ほら、起き上がれよクズ!ほらほらほら!」

追い討ちで何度も顔を蹴りつけられる。

「ほらぁ!温いんだよ!さっきまで威勢はどうした?おい?なあ?なあ?」

中には注意しようとする者もいたがそれ以上に周りの男子達がさらに盛り上がりを見せ写真を撮る者やヤジを入れる者まで現れた。

「やめええ!!」

よるが井上に突っ込んで行ったがそれを何とか立ち上がり俺が止めた。

「...いいから」

「で、でも!」

「...お前がいても邪魔」

これくらい言っておけば近寄っては来ないだろう。

よるは唇を噛んでいた。

それから俺は井上に腹パンされ再び床にうずくまった。

それでかやっと教師が教室に来た。

教師は井上の一方的な暴力に唖然とした様子で立ち竦んでいる。

その間にも一発また一発と俺はいたぶり蹴られていた。

「おい!井上やめろ!」

教師の声により一瞬井上の攻撃が止まった。

「目撃者よしっと」


その刹那俺は起き上がり井上の股間に膝蹴りをした。

「ゴヴェ!!」

周囲の人間、教室、よる、そして井上本人が一番困惑していた。

というか事態を理解出来ていなかったのだろう。

「体が痛いなーこのままだと殺されちゃうー正当防衛だー」

俺は恨みを晴らすように何度も何度も腹に膝蹴りを繰り返した。

ちなみに恨みなどない。

というかそんな感情、はるか昔に消え去った。

「お前、マジでゆるざいぃ!」

構わず次は何度も何度も頬を殴り続けた。

「やめろ!」

教師が大声で怒鳴り付けてきたがそれも構わず次は井上のズボンとパンツをおろした。

すっぽんぽんである。

それから俺は自分のスマホを取り出しカメラを起動した。

「お、おい!待て!」

「あー、一方的に殴られそれから身を守る為に戦ってたから思わずズボン下ろしちゃったー!やばい!またミスっちゃって写真撮っちゃったー」

俺は写真を間違えて撮り、それからまた自己防衛の為に腹パンし続けた。

その度に井上が血反吐のような物を吐いた。

きったねぇと思ったが自分もさっき吐いたので人の事はあまり言えない。

「もう、やめろ!」

と教師が駆け寄ってくる。

「あっ!先生助けてください!こいつに一方的に殴られていたんです」

「お前...だからってこれはやりすぎだろ!!!」

「だよな」「ってか普通に犯罪だし」と他の生徒も教師に賛同してきた。

「ひどい!?俺は被害者なのに...あーあ。そんな態度取るなら殴られる前から隠し撮っていた映像警察と教育委員会に提出しようかなー」

ちなみによるに渡したペンに小型カメラが備え付けてある。

位置的に撮れていたと思うし撮れていなかったとしても音声は残っているのでバッチグーだ。

「まて!今回の件についてはどっちもどっちだ。それにそんな事をしたらお前の経歴にも傷がつくぞ」

「ああ、はい。俺の人生なんて既に終わってるんで。終わるのはお二人の人生かもですね」

「...」

教師は黙り込んだ。

そもそも学校内でこんな事あってはならない。

それに教師はこの場にいたにも関わらず、ただ見ているだけだった。

いわば傍観者である。

そんな事が世間に知られてはもうまともな人生は送れない。

「井上くんはいいよね?」

井上は強がりからか傷だらけの顔を無理に笑顔にし呟いた。

「別に少年法で守られてるからな」

「あーやばいやばい。間違えてTwitterでさっきの写真載せちゃいそう」

そうな事をされたら彼はデジタルタトゥーがついてしまう。

そうなれば進学、就職、結婚などにも悪影響が出てくるだろう。

「...」

「正当防衛で反撃した被害者が言うのも何だけどあんまり横暴な事しないほうがいいよ?うっかりTwitter起動しちゃうからさ」

これで井上も暴君っぷりもましになるだろうなんて思いながら俺はその場で倒れたのだった。

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