妹のクラスにて

 あれから寄り道せず帰路についた俺は自室で勉強をしていた。

 ちなみに途中で鈴木に会い飯に誘われたが、野球に詳しくないので断っておいた。

 黙々と英文を読み進め問いに答えていく。

 昔から読み書きが好きだった為、言語学習は大好物である。

 ちなみにエレン・ベーカー先生は生涯俺の嫁なのでそこら辺は理解してもらいたい。

 ...異論は認めん。

 数学や物理も色気ムンムンなお姉さんが居るならやる気が出るのだが。

 文部科学省には日本人の学力向上の為にも検討して頂きたいものである。

「...光希くん夕食だってー!」

 嫁といちゃこらしていると義妹よるがドア越しにそう伝えてきた。

「ありがとうー」

 よるもこんなしょうもない男に気を遣わなければいけないなんて気の毒なものである。



「...所でよる、光希、新しい高校生活はどう?」

 夕食中、沈黙に耐えられなかったのか義母がそう尋ねてきた。

「もう大体の人とはお話ししたよー」

 よるはさも当たり前かのような顔をしている。

 血の繋がりはないとはいえコミュ力高過ぎないか...

「光希は?」

 そう言う義母の瞳は小6から変わっていない。

「そこそこかな~」

「あら、そう...問題がないようでよかったわ」

『そこそこ』『普通』『大体』は何か言っているようで何も言っていない三種の神器である。

 そもそも人間不信系陰キャに何かあるわけがない。

 まあ、嫁とは何かあるのだが。

「...そういえば特進クラスって事は水野さんもいるの?」

 よるは丁寧に机に箸を置きこちらを向いた。

「ああ。学級委員代表になってたよ」

「...ふーん、そうなんだ」

 よるはまた箸を持ち丁寧に鯖の味噌煮を食べだした。

 そういえばカツアゲされなくて本当に良かった。

 水野達のバブルが崩壊するのを願うばかりである。

「...光希くん紹介してって友達に言われてさ明日の昼休み私のクラスに来てくれない?」

「エイプリルフールはとっくに終わってるぞ」

 全くよるもお茶目さんなものである。

 俺に興味があるやつなんているわけがないだろう。

「オニイハケッコウカッコイイノニ...それくらい知ってるし!とーにーかく!絶対に来ること!」

「ごめん、最初の方聞こえなかったからもう一回言ってくれない?」

 思わず難聴系主人公ムーヴをかましてしまったが本当にボソボソ喋り過ぎて聞こえなかったのだ。

「何でもないし!」

 まあ、難聴は置いておいて、今の時代虫好き系女子なる者がいると聞いたことがあるしその類いだろう。

 西上 光希好き系女子。

 なんか地雷っぽいな。まあ、俺が一番の地雷なのだが。

 こうして俺のよるのクラス訪問?が決まったのだった。




 高校生活2日目の昼休み。

 俺はよるのクラスに来ていた。

「光希くんこっちこっちー!」

 よるが座っている窓側の一番後ろの席を中心として友達らしき女子が座っていた。

 ...というか顔面偏差値高くね?

 俺は全人類の中で顔面偏差値48と自称しているのだが、ここだと相対的に低くなるので顔面偏差値14になっていそうだ。

 律儀にも俺の席を用意してくれていたので座ることにした。

 第一印象は顔よし性格よしのただのハイスペ女子達だ。

 なに?神に全物を与えられ過ぎると性癖が歪むの?

 なんて考えながら俺は軽く会釈し、よるから渡されたお弁当を開いた。

 まずサラダを食べそれから肉類に手を出した。

 食事をする時は野菜から食べた方が太りにくくなるらしい。

 ほへー。

「ってかぁ、中学から聞いてはいたけどホントにリアルに義兄なんているんだねー!!」

 ピアスを耳に開け髪も黄金に染めている少女中村さんがよるに抱きつきながらそう言った。

 中村さんはこの中で唯一同じ中学出身でよるの中学時代からの親友らしい。

「お弁当まで律儀に作っちゃてぇー」

「...べ、別に一人分作るのと対して変わらないし」

「えぇーさっきまであんなに西上くんのことぉー自慢してきたのに」

「...ばか」

 ...自慢?まあ、たぶん不幸自慢ってやつだろう。

 なんて雑談(コミュ障の為俺はほとんど喋ってない)しているとぞろぞろと食堂から生徒が戻ってきた。

 身長が高く体つきが良いハーフだろうか?

 目鼻立ちが整っているThe陽キャ男子に睨まれた。

 熱烈な視線を受けてしまったのでウィンクして返しておいた。

 全くモテる男は辛いぜ...

「あーやっぱり井上は光希くんに悪さしちゃうのかー...」

「よるの彼氏か?」

 中村さんはこちらの方を向いてため息を一つ。

「昨日から、よるにつきまとってるんですよねぇ」

 よるは身内贔屓を抜きにしても可愛いのでそういった異性間のトラブルにも巻き込まれやすいのだろう。

「だからぁ光希くんがぁ助けてぇあげてくださいね」

 何も守れなくて全てを失った俺に何が出来るんだよって話だが今度こそはという意味も籠めて頷いておいた。

「こ、光希くん...ありがど」

 よるが頬を赤く染めそう言った所でチャイムがけたたましく鳴り響いた。

「それじゃ、またね」

 5限があと少しで始まってしまうので小走りで教室後にした。

 ただドアの前で「でしゃばるなよ、陰キャ」と呟いた井上の顔つきが何やらおかしかったので警戒が必要だろう。

 あれは何もかもどうでも良くなっているヤツの顔だ。

 今の俺と全く同じなのでわかる。

 何はともあれこうして俺のよるのクラス訪問は終わりを迎えたのだった。

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