よる (義妹)編

入学

 晴天の空。

 燦々とする太陽光が否応なしにカーテンを抜け差し込んでくる。

 入学式日和だな~なんて思いつつ西上光希は窓の外を見つめていた。

「よっ!俺、吉野一郎!光希よろしくな」

 隣の席のいかにもThe陽キャな男子が話し掛けてきた。

 がっしりとした輪郭にスポーツをしてか焼けている肌。

 家に帰るなり犬とひたすらじゃれている俺とは全く別のタイプだ。

 なあ、知ってるか?人は人を裏切るが犬は死ぬまで連れ添ってくれるんだぜ...

「鈴木一郎くんよろしくね!」

「鈴木じゃねーよ!そっちは伝説の野球選手の方な...俺はサッカーだから」

「あっそんなんだ。ふーん」

「いや急に素に戻るなよ!恥ずかしいだろ」

「まあ、俺に素なんてないんだけどね...」

「いきなりくれーよ!どうした?相談のるか?」

 どうやら鈴木一郎くんは意外と良い人らしい。

「ありがとう鈴木くん。でも俺の人生なんて悩みと後悔と苦悩しかないから全部話すと16年経っちゃうけど聞いてくれる?」

「鈴木じゃねーよ!それとお前が変なヤツと言うことだけは分かったわ」

 それから程なくして騒々しい教室内に苦言を呈するようにチャイムが鳴り響いた。






 それから入学式などを終え今日最後の時間。

 定番の自己紹介をする事となった。

 俺のように身体ばかりでかくなって心が成長していない中身の薄いヤツに自己などはない。

 自己紹介...難しくないか?

「水野怜奈です!このクラスの学級代表として全力を尽くしていきたいと思います!皆さんよろしくお願いします!」

 水野 怜奈。

 際程の委員係決めで学級委員に立候補した女子生徒で俺の幼馴染だった少女でもあったりする。

『だった』で御察しだが、もう関係は切れている。

 全て俺が悪いのだ。

 委員の自己紹介が終わったら次は俺に回ってきた。

 昔から委員の頭の文字が『な』で俺のが『に』だったので必ずこの順番だった。

「どうも西上です。この一年間よろしくお願いします。」

 無難of 無難。毒にも薬にもならないただただ無意味な時間。

 そんな時間を作り出すことも俺ことも上西光希に掛かれば児戯のようなものだ。

 というか俺の『光希』って名前、今の俺と真逆だよな。

 鈴木なんじゃか君とかの方が百倍くらい似合う気がする。

 希望の光り宿してそうだし。

 今の俺はどちらかと言うと『闇絶』だ。

 なんか中二病患者お得意の闇の魔術みたいな名前になったが決して俺は中二病ではない。

 なんてアホな事を考えているうちに全員の自己紹介が終わっていた。



 それからバックに今日渡されたプリントを積めていると水野とその取り巻きのような奴らがこちらへ近づいてきた。

 もしかしてカツアゲ!?

 大体、水野は俺の事を嫌っているはずだ。

 本人もそう明言していたのだから。

 それに先程、『今日ボーリングがカラオケ行かない~?しょうゆ顔の吉野君も来るってよ』みたいな感じで駄弁っていたのだ。

 しょうゆ顔とはバブル時代に作られた死語だ。

 コンプライアンスや人権云々に厳しい昨今の日本社会。

 そんな風潮に抗うか如く死語を使うと言うことは彼女らが望む世界もとい彼女らにとって今はバブル真っ只中なのかもしれない。

 つまり今、この瞬間は現代の規則や風俗が罷り通らないいわば魔界だ。

 1980年代バブル全盛期の日本のレディーは財布要員やアッシーなどと従えていたと聞いたことがある。

 もしかしてその要領で大人しそうで弱そうな俺から金をむしり取ろうとしているのではないか!?

「...これどうぞ....」

「えっ?光希...何でデビットカード渡してくるの!?」

「50万円あるからそれで許してください!」

「私はお金じゃなくて光希にも来て欲しいかな...私のせいで疎遠になっちゃってたし」

どうやらカツアゲではなかったようだ。

まあ、俺も少しふざけていただけなので当たり前だろう。

だが、水野が俺と一緒にカラオケに行きたい?

なぜ、そんな嘘をつくのだろう。

まあ水野は大和撫子っぽくなったし本音と建前と言うヤツか。

確証はないが『一緒にカラオケいこ~(お前来るなよ)』って所だろう。

「そう思ってくれるだけありがたいよ。委員長、ありがとう」

そう言い俺はバックを持ち教室を去った。

居るだけで空気が悪くなることで有名な俺だが、空気くらいは読める。

ついでにあとがきを読むくらいには読める。

こうして俺の高校一日目は幕を閉じたのだった。




~作者から

新作→『失恋したらバイト先の美人な先輩に慰められて修羅場になるラブコメ』

【恋人にフラれ女性恐怖症になった主人公。

そんな時、同じ委員会の美人な先輩に声を掛けられて!?

先輩と一緒に失恋から立ち直るシリアスあり修羅場あり、でも甘いラブコメ!】

長期連載予定の新作出ましたので是非とも読んでくださるとうれしいです! 

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330647965671917/episodes/16817330647965862396

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