Ⅵ. 大願成就代筆幸福編
【堕天】
正しくあることが
真面目でいることが
善であり続けることが
まさか 間違っているなんて
誰かが悪さをしても
貴方だけは正しくありなさい
きっといつか報われるから
幸せになりなさいと
そう言った優しい叔母は
飲酒運転の未成年に轢かれて死んだ
皆が青春をしている間
僕は一人 進路のために資格を取っていた
皆がサボる方法ばかり探している間
僕は一人 親孝行で家事ばかりしていた
皆が夜遊びやセックスに溺れている間
僕は一人 教科書と夜を共にしていた
正しきに徹し
道を踏み外さぬよう法を学んだ
悪の心理を研究し
犯罪を抑止する立場となった
しかし 悪の動向を追うためには
悪の思想をひとつひとつ紐解き
その実態と構造を把握し
欲を理解する必要があった
そうして 僕は夜を知った
叔母の約束を破り
甘露の味を知ってしまった
悪行の放つ強烈な芳香が
僕の人生をねじ曲げた
これまで積み上げてきた社会性を盾に
ぶつかるものは全て傷つける
そんな剥き出しの刃物みたいな心で
僕は今宵も 夜を歩む
強い光ほど暗転の闇は深い
いつか僕の闇を許し
この束縛だらけの毎日から解放してくれる
そんなきっかけを待っている
誰かが背中を押してくれれば
谷底まで落ちることができるのに
思い切って狂うことができれば
僕はどれだけ楽で居られるのだろう
正しさが生むのは損益だけ
悪ばかりが得を得る
ずるをしてでも
幸せになった者が勝ちなんだよ
およそ正しくはなかったとしても
幸せだけは 僕が独り占めじてやるんだ
食べたいものを横取りして
欲しいものを奪って
ウザいものを殴って
殺したい奴は好き勝手自由に殺す
叔母は優しいけど 間違ってたな
僕は馬鹿を見たくはない
理性はその邪魔にしかならない
大切なのは自然であること
秩序に傷をつけて
世界に混沌を孕ませる
僕の好都合のためだけに
僕は幸せになりますよ
たった一人でね
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