『夢に集う罪人達』
白と黒のモノクローム。
地平線なき不安定な夢の世界。
無骨な白長机の端に、あの男は座っている。
その隣には見知らぬ、長い銀髪のくたびれた黒衣の男。
「…………、」
声が出せない。
なんとか声帯を動かそうと試行していると、長机の中腹に位置する真っ白な椅子の上に、ブラックホールのような黒い球体が出現して火花を散らし始めた。
『――――オールド・ワン。
古の邪神の如き、暗がりに蠢く手腕。
宿すは創作の仮面、絶する否定の権能。
其の変革の心に突き動かされ――――、
遂に、"彼"は接続に至る』
漆黒の中から人型が現れる。
そして球体の縮小と共に、その姿が明らかとなった。
その手には、一本の万年筆。
猫背に黒くレトロな
『――――接続した。
希死念慮に囚われた死なれずの綴り手。
「……
男はそう言うと、オレの方へ同情するみたいな目を向けた。
「君が新たな
「何を言って……っ」
突然、声が出た。
先程まで喉が凍結しているみたいにカチカチに固まっていて動かなかったのに。
『
彼の接続により本来あるべき力を取り戻し、
『
行動制約が解放されたのだ』
「……あんたら、ホント何なんだよ。 てかさっきまでオレ……、野崎たちと……」
『我々は、
神によって運命を仕組まれた、
名もなき大罪人の集合である。
そして貴様が振るったあの力は、
多くを喪失した我々に残った、
たった一握りの神殺しの権能である』
白黒の男は淡々と語る。
『貴様には二つの力が与えられている。
其の壱に、王の力――――。
『
接触物を任意で破壊する、
その強大な反動から連鎖した更なる強欲に、
それが……、破壊の権能。
オレがあんまり理解もせず、勢いに乗せて扱ってきたものの詳細。
ほとんどはなんとなく把握していたが、気になるのは反動がどうとかって部分だ。
これまでオレは、破壊を使う度に正体不明の情欲に駆られてきた。
あれが……、夢の男の言う強欲だとすれば。
『
恐らく……、それが仮面持ち共の言う代償というやつだろう。
さっきまでオレは……、まだ信じられないが実感がある。オレは野崎と戦っていた。
しかも喧嘩やじゃれ合いなんてもんじゃない、あれは殺し合いだった。
勝手に動く身体が、使い方も分からない力を振るって友人を傷つけていた。
あれは、オレじゃない。オレであって、オレじゃあない。つまりあれが……、飲み込まれたってことなんだろう。
野崎が『オルナンの埋葬』とかいう奥義みてえなのを使ってくれたおかけで、なんとかなったみてえだが……。
あれ、オレ、死ななかったか?
全身から血が吹き出て……、それで……。
『其の弐に、
囚われた
運命収束を定められた呪いの力である。
接続に至った仮面に宿りし権能と、
そのオリジンとなった
その両方の執行が可能となる効力を持つ』
恐らく夢の男が言う接続ってのは……、ここに知らねえ奴らが集まることを指しているみたいだ。
その接続ってのを起こすためには、
オレの周りで起きてることは目の前にいる夢の中の男が関係しているのだと、なんとなくそう思っていた。
それ自体は的中していたワケだが、いざ説明されても……、なんにも分からない。分からないことばっかりだ。
『先刻、オールド・ワンの仮面に接触し
接続に至った太宰治の能力により、
貴様は死を回避した。
数千いる
彼を導くに成功するとは豪運であったな』
「なんか当然みたいに言ってっけど……、権能って、仮面って何なんだよ。 超能力とか、魔法とか、そういうオカルトの
『仮面とは、権能を含み宿す
権能とは、世界を掻き乱す
超力、魔術、奇跡、怪異、神託、天罰。
人の身で
「シナリオを書き換えるって……?」
確か、前にもこの男は代筆者がどうとか言っていた。
『我々
この世界に設定されし
神の遺作により
次なる『代筆者』の座を簒奪することで、
自由未来を解放せんとする
人類史における原罪の経脈。
全世紀からの大罪の偉人の集合である』
大罪の偉人……。
ガリ勉からは程遠いオレにだって、ジャック・ザ・リッパーや太宰治がネットや教科書で名前を見る機会のある有名人だってことは分かる。
そいつらを集めて……、代筆者の座を簒奪?
何か壮大そうなことばかり並べてはいるが、話が一向に見えてこない。
『
血脈のように次々と継承され、
そして現代にも、その末裔は存在する』
視界が、歪み始める。
眠気の限界にも似た急激な脱力と、白い霧みたいなスモークが視界の端から夢を包む。
『神無月、煌――――、
貴様こそが、その末裔。
最後の
そして、神によって定められた
貴様は現代の大罪人となるのだ』
「オレが、罪人……、に?」
『貴様の犯す大罪は、
間もなく貴様は――――、
己の願いのためだけに
この世の全てを破壊する。
大切にしていた友人すらも、
願いのために裏切り、その手に掛けるだろう。
暗き未来は変えられぬ。
――――しかし、やり直せる。
王の力を以て、未来を解放するのだ』
まだ聞きたいことは山ほどあるっていうのに。
オレは椅子ごと横にぶっ倒れて、そのまま目を閉じた。
目蓋の裏の奥で、意識を失った。
いや、正しくは――――、
目を、覚ました。
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