SS『伊神人人はやり直す』
「神無月君、資料はもう提出したか」
「資料……? 資料って、何の?」
センターパートにインテリ眼鏡。
副クラス長、
「そうだった……、また間違えてしまった。 この癖は抜けないな。 呼称を改めよう、資料ではなくレジュメだ。 昨日の朝に配布されたろう? バッファがあるから悩むのは自由だが、提出は早いにこしたことはない」
「れ、レジュメ……? 昨日の朝っていうと、選択科目の希望調査書のことか?」
「それだ。 もしまだ提出していないなら私がまとめて提出するから渡してくれ」
「そういうことだったのか。 助かるぜ、ありがとうな。 てか、資料とかレジュなんとかじゃなくて、プリントって言ってくれれば一発で分かったのに」
「そうだ、プリント! どうしてそんな単純なワードが出てこなかったんだ……」
わかりやすく
言葉が出てこなくて詰まることはたまにあるが……、普通そこまでショック受ける程か……?
「確かに受け取った。 今日中に代理で提出しておこう」
「副クラス長って忙しいんだな、プリントの提出管理とかもやってんのか」
「いいや、これは
「えっ? てことは、そのプリント集めって……、先生にやっとけって言われたわけでもなく、独りでに……?」
「そうだとも。 霧山先生は面倒臭がりだからな、こういった地道なお節介が、微小ながらも確実に成績に作用していくものなのだ。 ああっ、教えたからって真似しないでくれよ? マイノリティは、マイノリティであるからして注目され、評価されるのだからね」
「いやそんな面倒なことしねえよ、普通……」
その面倒事が未来の自分を救うんだよ、と急に上から講釈を垂れ始める。
「高等学校における好成績は、大学進学先の選択肢拡張に直結する。 それはつまり、未来の仕事、未来の自分像の実現率に直結しているんだ! 今のうちに勉学と成績取りに固執しなければ、後から泣くことになるのも自分なんだ! 学生の頃にもっと勉強しておけばなんて思うようになった頃にはもう、背中にはビハインドだらけで首も回らない手遅れになっているんだ!」
「痛え痛えよ耳が頭が! 多感な学生が集まる教室の真ん中で話していいことじゃねえ!! 事実陳列罪で
「モラトリアム期だからと
「まるで説教するおっさんみたいな言い方するんじゃねえよ、まるで十数も年上みてえじゃねえか」
「そうか、君にはまだ話していなかった。 この僕、伊神人人は前世を憶えている誠に珍しい人間なのだ」
「……えっと? 前世が何だって……?」
お、ピトピトの転生話ーっ? と横から顔を入れてきたのはシャンプーだった。
この子、伊神のことピトピトって呼んでんのかよ……、確かに
「ピトピトね、なんかひとつ前の公務員さん?だった頃のこと憶えてんだって! 本人曰く! すごくない?? 皆ほとんど信じてないけど😊」
「なにっ!? し、信用されていないのかぁ僕はあ!! クラスのために働き続け、教師と生徒の中間管理、面倒事を処理する頼り甲斐のある男! それが僕ではないのか!?」
「いや……、自信すご😳」
伊神はこのクラスでもダントツの常識人だと思っていたんだが……、今のやりとりで、その信頼が崩壊した。
実際、伊神はクラスのために東奔西走して、よく動いてくれている。
その目的が先程のプリント集めのような成績稼ぎのためとはいえ、オレ達へのサポートとなっていることも確かだ。
「前世ってのはよく分かんねえけど、クラスのために色々やってくれてるのは助かるよ。 ありがとうな」
「六道さん、キラ君を見習いたまえ!! まずは自分から人を信じる心を持たねば、相互の信頼関係構築は難色を極めてしまうのだぞ!」
「なんか難しくてよくわかんなーい🥲」
レジュなんとかだの、相互の信頼関係だのと難しい言葉使いをしているのはそれが理由だったのか。
確かに伊神は気が回るし、学年の中でも特段に大人っぽい雰囲気を感じる奴だ。
「てか、前世を憶えてるってことは、前の人生で一度死んだことがあるってことだよな……? 死なないと次の人生? 今の人生? どう表現すりゃいいのか分かんねえけど、二代目の伊神人人はスタートできねえわけだし」
「よく分かっているじゃないか。 そうだ、僕は死んだ。 駅のホームから電車に飛び込んだ奴に引っ張られて……、巻き添えを食らった。 毎日毎日時間に追われ、上昇することに徹した仕事人間の、真面目に生き続けた結果の、つまらない最後だ。 でも、不謹慎なのかもしれないが今では感謝しているよ。 僕はこうしてセカンドライフを楽しめてる。 僕はね、決めたんだよ、このセカンドライフを、絶対に遊び尽くしてやるとね! 金! 酒! 女性! 欲望を全て解放し、前世とは真逆の生き方をしてやるとね!!」
……真逆?
話を聞くに、伊神の性格は前世のそれと似たり寄ったりみたいに思えるが……?
「ピトピト
「なるほどそれで大学に行くための成績稼ぎか。 なんか、そんな息巻いてんのに結局今世でもやってっこと同じって……、人間は死んでも簡単には変われないってことか……」
「キラ君! 前世を信じてくれたのは嬉しいが、その言い方はコンフリクトを生みかねないぞ! 訂正して貰えるか!」
伊神の訴えは迫真に迫っている。
その様子からは到底、冗談や妄想話を口から出任せにしているとは思えない。
しかし、だからこそ変なのだ。
前世の記憶を持っているという、その一点さえ除けば真面目で方正な学生なのに……!
常識人ポジだと思っていたのに……!!
「このクラスに普通の奴なんていねぇんだな……」
「おいキラ君、まさかそれ、僕を含めているんじゃないだろうね!?」
「しかも地獄耳なのかよ……」
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