『歪んだ友達ごっこ』
権能――――、『分派』は
ディオのそれは直接相手に触れるか、何か物体を相手に渡した時、物体を介して相手に発動する『敗役を振るう
発動された相手は、ディオの宣言した役職を配役された後、その役職に沿った容姿に変貌し、行動を制限される。
観客なら、何も口を出さず椅子に座り観劇し続ける。裏方なら、舞台のサポートを徹底させられる。ゾンビなら人を噛んで仲間を増やそうとし、テロリストなら銃を持って辺りを襲う。
ディオにとっての劇とは、英雄劇。
学校を徘徊するテロリスト達のリーダーを打ち倒し、主役が英雄として讃えられることで、劇は終幕する。
つまり劇さえ終われば、死んだ者もゾンビ化した者もなにもかも、元通りになる。テロリストのリーダー、一人の命を引き換えに、だ。
しかし、その一人が著しく重い。
悪の指導者としてディオに配役されたのは、オレの数少ない恩深き友人である、相原勝人なのだから。
「…………相、原?」
「君も聞いた事あるんだろッ? 彼、この学校じゃ有名らしいじゃないか! 我の伝説をなぞっただけの不届き者の癖にだッ! だから重役を与えてやることにしたぞ! 英雄は、伝説は、主役は一人で充分だからなァーッ!」
「勝人が死ねば、全部助かるって……、そんなの……!」
「……諦めよう、煌」
下足場からフラフラとやってきた黒い野崎が、オレの肩に手を置いてそう諭す。
「諦めろって……、諦められるワケねぇだろ!? 勝人だぞ! 誰かが一人、必ず死ななくちゃならねえってんならオレが死ぬ。 ディオ、配役だ! オレをテロリストのリーダーに配役しろっ!!」
「無駄だよ煌……、君はディオにとって、悪役なんて大役を与えられる程の因縁も、理由もない。 ディオにとっては公演時間が伸びるだけの面倒な遅延行為に過ぎない。 そんなことをする訳がない……の…………、さ……」
「野崎っ!?」
前のめりに倒れる野崎を、床に叩きつけられる
「お前、どうした!?」
「……貧血だよ、今日は権能を使いすぎた」
「馬鹿野郎、職員室であんなに張り切るからそんなことになんだよ!」
「私に助けられたくせに、文句ばかりいいやがる。 仕方ないだろ、これが私の力の代償なんだからね……」
そうだ、野崎は言っていた。
"異能の力を行使するには、
引き換えに失うものが必要なんだ。
必要となる代償は、権能によって様々。
電化製品には電力消費が必要なように、
権能によって支払わなければならない対価は違う"
野崎の代償とは、苦悶の出血。
そいつが理由で野崎は貧血になってる。
仮面持ちが皆、権能のために代償を払わなければならないというのが真実なら、ディオにも何らかの、身体に危険を及ぼすような代償があるはずだ。
もし、その隙を突くことが出来れば、
「ハァーッハッハッハ! クマの深い君の考えていることを当てようッ! 我が
ディオは片方の手袋を外して、手の甲を見せてきた。
そこには、血管が浮いて
「我が
ディオが夏場だってのに、学ランにマフラーに手袋なんていう防寒装備をしている理由がわかった。老いた肌を隠していたのだ。
彼にとっての英雄像の現れなのかとも思っていたが、それだけではなかった。
老化の部分的加速……、そんなの、どうにも特攻の仕様がねえじゃねえか。
野崎の出血のように、即効のダメージが伴われるものであれば対策の考えようもあるが、遅効の代償となると難しい。
権能を使わせまくって全身年寄りにさせようにも、時間も機会も足りない。
オレなんかじゃ、本当に、どう仕様もないのか?
ディオを止められず、仁が殺されるのを黙って見てるしかねえってのかよ?
そんなのはあんまりだ、
まだ、何か、何か手があるはずだ。
考えろ、頭を回せ、思いつけ、発明しろ……!
こいつら仮面待ちの奴らが使う異能の力ってのは、よく聞けば条件やルールだらけだ。そのルールの裏を突いて、薄い希望に指をかけろ!
この現状を変えられる立場に立っているのは、オレしかいないんだ。まだディオに配役されておらず、一介の学生と仮面持ち共の界隈の狭間に立つ、オレしかいないんだ!
博物館の時のような、無謀な運否天賦に張るのはやめろ。ロジカルに組み立てたチャートでこいつを攻略しろッ!
たった一人の犠牲すら出させるな。
この手が届く範囲だけは、全部救う。
奴から英雄の座を奪ってやるんだ。
「英雄劇は遂に佳境に差し掛かる。 舞台が待っている。観客が待っているッ! そろそろ、我の出番だ。
手袋に指を通しなおし、ディオは舞台へと消えていく。 すぐに大声で、彼の
今すぐ行動を起こさねば、仁が危険だ。
「……煌、やめてよ。 君のことだ、友達のためにとか言って何かする気だろう……? 私は、君を監視しなくちゃあならない。 これを言うと、つけ上がられるのが嫌だから言わなかったけどね、私が組織から与えられた監視って役目は、実は、君の命に危険が迫った時に護る役目のことなんだよ。 仮面に関係した者は寿命が縮む。 危険に巻き込まれる頻度が恐ろしく跳ね上がるからだ。 その為の私だ。 君の為の私だ……。でも、私がこんな状態じゃあ、君を護れない。 だから嫌々だが、お願いするしかない。 聴いてくれ、自分を殺すな。 ゾンビだの友人だの、君はいつも他人のことを考えているみたいだが、自分を一番にしてくれよ。
腕の中で説得を続ける野崎。
ディオの権能にしてやられたのが相当堪えているのか、その目線は横を向いている。それでもその声音には、強い意志が宿っているのがよく分かった。
だが、その頼みは聞けない。
仁の頼みすら断ったオレが、今更保身になんて走れるワケがない。
勝人を助ける。
その為に……、命を使う。
「……煌、その顔だよ」
「え?」
野崎は腕から離れて、フラフラしながら壁に手をつけて立ち上がり、諦めたみたいに、
「博物館で私に楯突いた時と、同じ顔だ。 君を甘く見ていた私は、その反骨精神に負けたんだ。 悔しくて悔しくて仕方がないが、それは事実だ。 ……ディオは今、煌を軽視している。 銃の武装に人質。 あの時と同じシチュエーションだ。 君なんかに負けた私だからこそ期待できることもある。 君なら偶然を必然に変えられるかもしれない。 ……それに、どうせ止めても行くんだろ、行けよ。 だけどな、勝算なき反抗は許さない」
懐から出てきたのは、あの鉄仮面だ。
「こんな状態でも、まだ君を足止めできるくらいの余力はある。 博物館の時のような無謀なら止める。 何かディオを止められるロジックが用意できてるって言うなら、屈辱的だが協力してやるよ……。 私は、君の友達だからな」
「お前、そんな状態でも脅迫かよ……」
「そういう性分なんだよ。 それで、どうするつもりだよ? 何か策があるのか? 椅子でゾンビを押さえつけようってのよりは有用な作戦じゃあないと認めないからね」
そんなことは分かってる、分かってはいるが……、無力なオレに出来ることは限られている。
オレには野崎のような仮面の力はないし、勝人のような高い身体能力もない。
だからって適当に立ち向かって行っても、ディオにとってはオレを敵として認識するほどの理由がないので、相手にされない。
その証拠に、オレは役職も与えられず放置された。仮面を脅威と認められた野崎は裏方にされたが、オレには何の対処をせずとも問題ないと判断されたのだろう。
オレにも仮面の力があれば……
「……そうか、仮面か」
「何か思いついたか?」
「なあ野崎、お前の仮面を借してくれ」
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