第18話 クエスト報告終了後
「……なんだったんだあいつら……」
ギルドロビーを出て開口一番そうつぶやいた。
なんかよく分からん三人組に絡まれたし。
あとギルドの受付嬢さんも、基本淡白な印象ながらどことなく雰囲気が怪しかったし。
「まあ、そういう方もいますよ」
「そうそう、さっさと忘れましょう。ほら、報酬だって予想以上にもらえた訳なんだし」
クロエの言う通り、俺の手にある皮袋には結構な額の硬貨が収まっている。
クエストの成功報酬はもちろん、想定以上に多量のブルースライムゼリー&高額で取引されるレッドスライムゼリーを持ち帰ったためである。
大変な目に遭ったが、おかげでふところ具合に余裕ができた。結果的オーライと受け止めておこう。
逃げた死のクリムゾンの動向も気になるが……そちらはギルドの情報部が調査をしてくれるそうだし、彼らにまかせておこう。
「それよりも」
クロエが俺達の前に立つ。
「アオイ。あなたさっき"魔王を倒す"って言ってたけど……本気なの?」
「ああ」
俺はうなずいた。
確かにその場の勢いで言った事ではあったが、ウソではない。
「俺達はそのつもりでリニアへやって来たんだ。冒険者として活動する中で実力を磨きつつ、いずれ行われるはずの討伐隊募集を待つつもりだ」
「そうだったの……」
クロエは言った。
「となると、私もいずれは魔王討伐に参加するって事になるのね。村を出た時はそこまで考えてなかったけど……うん、異論はないわ」
……ん?
「ちょっと待て。……つまり、クロエは今後も俺達とパーティーを組み続けるつもりがあるって事か?」
「あら、当然じゃない」
うなずき、クロエは怪しく輝く瞳を俺達――と言うよりナナへ向けた。
「だって、あなた達と一緒なら天国のような体験ができるのよ? るーちゃんに生命力吸われて苦しんでいるところに、染みるヒールをかけてもらえるんだから」
それは普通地獄と言うんだが。
「しかも魔王と戦うつもりですって? ……上等じゃない、壁は高ければ高いほど乗り越え甲斐があるってもんよ!」
ギラついた瞳を夕焼け空へ向け、クロエはひとり気炎を上げる。往来の真ん中で体育会系なノリを発揮されてもちょっと困るんだが。
「と言う訳で、私は今後ともずっとあなた達と行動をともにし続けるわ! いいでしょっ!? ねえっ!? ねえっ!? ねえっ!?」
「ちょっ、ちょ……っ!?」
「いっぺん落ち着けっ!!」
鼻息荒くナナへ迫るクロエを俺は押し止める。
「なによっ!! ダメならはっきり言えばいいじゃないっ!! そしたら陰湿につきまとう方向にシフトするからっ!!」
「俺らの気を遣う方向へシフトする気はないのかっ!!」
「じゃあ聞くけど、私とるーちゃんの実力になにか不満はあるかしらっ!?」
「いや、確かにないけどっ!!」
実際、死のクリムゾンと渡り合えたのは彼女と
「ただ……強いて言えば、定期的に回復をしなきゃいけないってのは少しネックになるんだよなぁ……」
一度深呼吸してからそう指摘する。
確かに吸われた生命力はヒールで回復すればいい。だが、その間は隙ができる。
それに高い戦闘能力を長時間維持する事ができない。今日の戦いのように、敵からの間断ない攻撃にさらされれば少々危ない事になる。
「例えばさ。普段の戦いでは普通の剣を使って、いざって時だけソウルイーターを使うってのはダメなのか?」
クロエほどの腕前なら、魔剣を使わなくとも相応の活躍ができるはずだ。
そう思ったが、彼女は首を横に振った。
「……それはダメ。できないわ」
「そうなのか。……やっぱり、ソウルイーターに関係が?」
「……ええ……」
クロエはソウルイーターへそっと手をやる。
どうやら、魔剣の呪いは想像以上に深刻らしい。まさか呪いの影響で他の武器を使用する事すらできないとは――
「……私が他の剣を使うと、るーちゃんが
「拗ねるのかその魔剣」
こいつに対する魔剣の好感度、意外と高いな。
「当たり前じゃない。るーちゃんにだって心はあるのよ? あなたはるーちゃんを一体なんだと思ってるのよ」
「むしろこっちが聞きたいわ」
なんかクロエの言葉にうなずくように、ソウルイーターの黄色い"瞳"が上下に動いてるし。なんなんだこの魔剣。
「……とにかく。私はるーちゃん以外の剣を使う気はさらさらないの。大丈夫よ、ずっと使い続けてきたんだから。うまくやってみせるわ」
「はあ……」
「ってな訳で。今後とも私を仲間に加えてくれないかしら? 絶対損はさせないから」
「……って言ってるけど?」
「……まあ、確かに頼もしい腕前ではありましたし……」
ナナに確認するとそう返ってきた。歯切れこそ悪いものの反対の意思はうかがえない。
まあ、弱点を差し引いても戦力として十分な事に変わりはない。
性格は……うん、この際だから目をつむろう。どうせ断っても陰湿につきまとわれるだけだし。
「……分かった。これからもよろしく」
「ええ! まかせてちょうだい!」
そう言ってクロエは胸を張った。
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