第32話 四つの神器と一つの神器

 クコが大声で警戒を促すと、僕は瞬時に奴との距離を開け身構える。


 奴の四つの腕は、僕の右腕の能力と同じ様に黒い渦の中に入る。そして、少しの間を過ぎると、その中から同時に腕を引き抜いた。


 まず、奴の右腕の手には、ガラスの様な透き通った色をしている刀が握られている。


 そして、背中から生えてある右腕の手には、緑色の光沢を発している盾が握られている。


 逆の左腕の手には、銀色の金属で出来た指先まで包まれている籠手がはめられている。


 最後に、背中から生えている左腕の手には、四つの小さな手裏剣の様な物が握られている。


 これは僕の右腕の能力と一緒だ。いや、僕の能力が奴の物と一緒と言うべきか。この僕の右腕は、元々は奴の物なのだから。


 この強力な武器を召喚できる右腕には、今までどれだけ助けられたことか。


 だからこそ分かる。その力がこちらに向けられる厄介さを。しかも四つも――。


 だが、ここでそんな事を嘆いても意味がない。僕は、今日この日の為に、訓練し準備してきたことをするだけだ。


 いつも通り僕は、この眼で奴の情報を得る。最初は奴の武器に視線をやった。


 前の右腕の手に握られている刀の名は「露斬つゆぎり」。その能力は、持ち主の狙う所に時差ゼロで切り付けることが出来る。簡単に言えば、先日戦った早虎の持っていた波連斬の上位互換だ。しかし、その斬撃は持ち主が振る同じ角度、同じ方面からくるので、絶対に避けられないものではない。


 後ろの右腕に握られている盾の名は「神龍しんりゅううろこ」。この盾は六つに分解され、それぞれ自動に動き、相手の攻撃を察知して防ぐものだ。様々な物理攻撃を弾き返す。


 前の左腕の手にはめられてある籠手の名は「世掴よづかみ」。その籠手は空間を操る。空間を握り潰せば、相手は瞬時に奴の元へ手繰り寄せられ、逆に空間を弾き飛ばせば、相手は瞬時に奴との距離を開けられてしまう。


 後ろの左腕の手に握られてある手裏剣の名は「流星砕りゅうせいくだき」。その手裏剣は一度投げられると数百に分裂し、標的に突き刺さると内部から爆発し破壊する。


 くそっ。どれもこれも厄介すぎる。攻守において隙が見つからない。近距離で戦おうが、遠距離で戦おうが、全てが奴の間合いだ。しかも、その選択権も奴が握っている。


 次に、奴自身の能力を見る。元々知ってはいるが、名は「大嶽丸」。


 奴自体の身体能力は……。


「はあ、溜息が出るな」


 奴の体の丈夫さは、以前戦った金丈よりも数段上で、素早さは早虎よりも数段上。しかも、猪熊以上の妖術使いか……。


 あいつらを三位一体にした上位交換で、その上で僕が一つしか持てない武器を四つ所持しているとか……もう、存在自体がただのチートじゃん。


 昔の人、あんな奴をどうやって封印したんだよ。


 僕は、心の中で少し愚痴を言いながら右腕を横に伸ばして、いつものように創り出した渦の中に手を突っ込んだ。そして、引き抜いた僕の手には黄金に輝く弦も矢もない弓があった。


 この弓の名は「黄金おうごんつばさ」。光の矢を無限に自生させることができ、また創る矢の大きさなどを自由自在に操作出来る。


 しかも、この弓には弦も無いので、創った矢を指で軽く弾くだけで強烈な威力の矢を射る事が出来る。その上、弓の大きさに留まる本数なら何本でも同時に発射させる事が出来るので、数多くの矢を同時に連続で射る事が出来るのだ。


 かなり使う者によって、用途の幅が広がる武器だ。なかなか良い武器だが、相手の個数の前ではどう考えても劣勢だ。


 しかし、僕にはこの武器以外にこの眼、耳、左腕、両足がある。これは奴には無い能力だ。このすべての武器を効率よく的確に行使すれば、必ずしも負ける戦いではない。


 全ては自分次第だ――。


 僕はそう思い、今までで確実に一番厳しい戦いに挑んだ。

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