第28話 テスト前の復習
家に帰ると、僕は境内にある神楽殿に向かった。空は今にも雨が降り出しそうな雲に覆われている。
最近、ずっと天気が崩れる。これは、これから訪れる悪い事への前触れだろうか? 多分因果関係はないのだろうが、自然に悪い方向へ気持ちが行ってしまう。
そうこうしている内に、境内の端にある神楽殿に着いた。
うちにある神楽殿は古くからあり、それなりに伝統と神聖さが漂う所だ。
ここは家から少し離れた場所にあり、とても静かで昔から何か心を落ち着かせたい時などに籠っていた所である。
この時期、中に入ると肌寒いが、普段母さんがちゃんと掃除などをしているおかげで、新鮮で中から悪い気を吐き出してくれるような空気に満ちていた。
僕はその部屋の真ん中で正座をすると、目を閉じ、息を大きく吸ってからゆっくりとそれを吐き出した。次に自分の左手を前に突き出し、人差し指を先に何もない空間に向けて指さした。
「土、火、氷、水、雷、風」
そう唱えると、指さした空間に窓の隙間などから砂が入り込んで来て小さな土の塊を作り、次にその土に火が灯り燃やし尽くし、その残り火が凍り、氷の塊が水に変化し、その水の中を電気が走り、最後にその塊が風の渦によって弾け飛び、完全に消え去った。
これは僕にとっての準備運動みたいなもので、それをする事によって己の力の復習と精神統一が一緒に出来る。最近はあまりしなかったが、最初の頃は練習の為に毎日これを繰り返しやっていた。
なぜ今それをやっているのかというと、単純に自分がやり残したことはないかと不安に感じたからである。それはまるで、テスト前に教室で単語カードを繰り返し読むみたいなものだ。
「ふっ。そんな感じになるのは、お主がその体を手にした頃ぶりじゃな。可愛い所もあるもんじゃ」
肩車状態でクコが姿を現し、僕の頭に手を乗せ撫でてきた。
「茶化すなよ。これはクコの問題でもあるんだぞ? もし僕の身に何かが起これば、お前もただでは済まないんだ」
「長く生きておれば、くよくよ悩む事の馬鹿馬鹿しさがよく分かるんじゃ。思考を巡らせ準備する事は大事じゃが、結局のところなるようになるしかないんじゃ」
「そう簡単にいかないよ。それに色々回りくどく考えるのは人間の特権さ」
「ふっ、物は言いようじゃな。とりあえず奴『大嶽丸』は近いうちに姿を現すじゃろう。早ければ今日明日には。怖くとも逃げることは出来ん」
「ああ、覚悟は出来ている」
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