第19話 予測をしよう

 母さんも父さんも寝静まった後、僕は自室でいつもの作務衣に着替え、物音を立てずに家を出た。


「いつも思うんじゃが。そんな、自分の家なのにコソコソして出んでもいいじゃろ?」

「しょうがないだろ。こんなことに、父さんや母さんを巻き込めないだろ?」

「そんなもんかの……」

「そういうものなの。こうなったのも僕の責任でもあるから、自分自身で解決しなくちゃいけないの」

「本当にそうなんじゃろうか……で、何処から探すのじゃ?」

「まあ、とりあえずはコリンの言ったとおり、河川敷付近かな」

「それが無難じゃな。それに、今回は見つけ出すのはそう難しい事ではないじゃろう」

「ああ、それは僕も同感だ。どうやら標的を探しているのは、相手も同じみたいだからな」


 昼間は強めに降っていた雨も、今は小雨になっていて身動きを取るのにさほど影響をもたらさない。一応、悪天候での戦闘もいくつか経験を積んでいるから問題はないが、これはこれでありがたい。


 夜道は天候のせいか、普段より人通りが少なく静かだ。雨で気温が低くなって涼しいからか、いつもより頭がクリアな気分だ。


 それじゃあいつものように、目的地に着くまである程度どんな相手か予測しておこう。


 天川の話によると、被害者は様々な方向から声が聞こえたと言う。相手は何かしらの幻惑術を使えるのかもしれない。そんな場合は、この眼を使って本物を見極め、この耳で相手の動きを逃さない。


 相手の武器は何だろう? 被害者の負った傷からだと、刃物が有力かな。


 刃物を使う接近戦が得意な相手には、出来るだけ距離を取って戦うべきだ。この右手は強力な武器を作り出せるが、何が出てくるのか分からない。しかし、経験からすると接近戦の物が多い。だとすると、今回は左手が戦いの鍵を握るだろう。


 この右足のスピードを生かして相手と距離を取って、左足で角度を付けて、左手で攻撃をする。もし、近づかれたら右手の武器で対処しよう。

 

 いつも通り、慌てずに落ち着いて対処していけば大丈夫だろう。

 油断はしないが、無駄に自分は追い込まない。冷静を失うこと、それが一番避けなくてはいけない事だ。

 

 そうこう考えている内に、噂の河川敷に着いた。

 朝や昼間はランニングする大人や、野球やサッカーなどする子供で賑わう場所だが、今は人っ子一人いない。


 河川敷の横を通る河は雨のせいで少し波は高いが、そこまで気にする必要もない。


「クコ。相手を誘き出す。いつも消している僕のにおいを出してくれ」


 僕のにおいというと何だか嫌だが、今の僕の体には人間とは違う様々なものがまとわりついてある。このにおいに奴らは敏感に反応するらしく、普段は気配を悟られないようにクコに結界で消してもらっている。だが、今日は僕の存在を分からせる為に、その結界を解いた。


 ちなみに、この事件の噂を聞いてからは、天川が巻き込まれない為にも、彼女に付けたクコのにおいは結界で遮断してもらっている。


「…………」


 少し時間が経ったが、河の波が揺れる音が耳に入るだけで特に変わった事は起きない。どうやら、ここにはもういないみたいだ。


 探す場所を変えようと思った時――。

「来たか……」


 一足先に、僕はこの耳で奴の気配を捉えた。


「やっと見つけたぞ。我が主の体を奪いし者よ」

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