第9話 乙姫の告白

 後日、日曜の昼間。


 最近、浪費癖のあるわがまま娘のせいで金欠になっている僕は、小遣い稼ぎの為に境内の掃除をしていた。境内にある藤の木が咲かせる花は綺麗だが、その房から落ちた花びらを掃除するのは中々骨が折れる。


 せっかくの休日だ。出来れば午前中に終わらせて、午後からはまったりとした時間を過ごしたいものだ。


「休日の朝早くから感心ね。星月君ってそんなに優等生だったかしら? 確か、時々クラスの仕事サボってたりしてたみたいだけど」


 声がした方に振り向くと、そこには白いワンピースに身を包んだ、普段見たことが無い私服姿の天川がいた。


 どうやら、僕の思惑通りにはいかず、先日の事はしっかりと覚えていたみたいだ。

ここ数日続けて学校を休んでいたが、顔色は先日と比べてだいぶ良くなっている。とりあえず、後遺症みたいなものは無さそうで良かった。


「別にサボってたわけじゃないよ。用事があるから、代わってもらってただけだ。それより、そっちこそこんな朝早くどうしたんだ?」


 僕の軽い問いに、天川は少し不満げな顔をした。

「星月君。あなた、この前の夜に何が起ったのか説明してくれるって言ってたわよね? それからこの数日音沙汰なしって、女性を焦らすのが趣味なの?」


「いや、別にそんな趣味はない」

「そう。でも、私はあなたの趣味に付き合ってられないわ。だから、こうして自分から確かめに来たの」 

「いや、人の話聞いてる? 僕にそんな趣味はない。ただ、天川もすぐに体調は戻らないだろうし、僕はただ万全の時期を待ってただけだ」

「あら、紳士なのね。感心だわ」


 天川は、少しいたずらな笑みを見せた。

 この時初めて、僕が知っていた転校する前の天川と再会した気がした。


 境内にある、街を一望できる場所にあるベンチに、少し距離を取って天川と座った。


「単刀直入に言うと、君が最近体調を崩したのは妖怪の仕業だ。君も実際にその目で見ただろ?」

「……ええ。普段ならこんなこと信じられないけど、あんなものを目にしたらね」

「あれは、人の恐怖心や弱い心を好み、その人間に取り憑く。そして、その人間の心や身を蝕んでいくんだ」

「そう。なら、あれは私が呼び寄せたと言っても過言じゃないのね」

「いや、そんな心は誰もが持っているものだよ。天川、君が取り憑かれたのは運が悪かったんだよ。君のせいじゃない」

「でも、私の心は他の人より濃かったから、標的にされたんじゃない?」

「まあ、そう言う事もあるかもしれない。でも、僕はそこまで込み入った話は聞くきはないよ。でも、安心していい。奴はもういないし、君には奴らが怖がる臭いがもう付いている。ある程度の者なら、もう君には近づかないよ」


 僕の説明を聞いている間、彼女は特に感情の起伏も無く、僕たちの住む街をただ眺めていた。そして、ゆっくりと口を開く。


「私……いじめられてたの」

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