第6話 火は霞を晴らし黒雲は天に至る
「なぜここにいる!ここで何をしていた!」
朝の習慣を終え自身の部屋のドアを開けると、優し気な笑みを浮かべた青年騎士がそこにいた。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「なぜここにいると聞いているんだ!」
この部屋には、壁に沿ってびっしりと粘土板のスケッチがきれいに積みあがっている。
目の前の男はその一つを手に取って
その光景が、どうしようもないほどのおれの怒りに風を送り込む。
それはおれの今まで重ねた冒険、そこはおれの今までを重ねた場所、お前なんかが。
粘土板を読み返すことは今まで太陽が沈んだ数だけ重ねたことだ。
冒険から帰った夜、食堂の給仕の合間に小さな明りで読み返す。
いつものように冒険から帰って鍵をかけ、昨日は、それで終わった。
鍵はかけたのだ、鍵をかけたのははっきり覚えている。
部屋には、少しのお金だって冒険の装備だってあるのだから、勝手に入られたら怒りが燃え上がる。
しかし、激しく燃え上がると同時に、身を焦がすようなその怒りが体を離れていくように感じる。
風を求める怒りに置いて行かれた頭から熱が冷めていく。
ただ部屋に入られただけ、これが宿に泊まるほかの冒険者なら、拳を互いの頬にぶつけるだけで終わる。
今のように肌身離さず持ち歩く短剣に手をかけることはない。
怒りは激しく燃えている。
昨日からおれを悩ませる存在が、おれの冒険に勝手に触れた。
後をつけようとしたおれの先手を突くように、おれの領域に踏み込んできた。
おれより一回り大きな青年の行動が驚愕を誘い、浮かべた優し気な笑みがそれを恐怖へと押し上げ、おれの怒りに力を与える。
「興味本位でした。二階の部屋はほとんど我ら騎士の使う部屋なのに、この部屋だけは違います。そして、一夜を通して誰の出入りもなかったようなので、気になって夜も眠れませんでした。」
その言葉が風のように怒りを揺らしている。
「この街がなんて呼ばれているのか忘れたか?」
「これは失礼しました。しかし冒険者なら、高まった好奇心が抑えられないことはご理解いただけますね。」
「チッ、、」
「ですが私は騎士ですので、礼は尽くしましょう。こちらで治めていただけないですか?」
そう言って青年が差し出したのは貴族紋の刻まれた鉄の短剣だった。
ここは冒険者の街、支配階級を目の敵にする冒険者が集まる街だ。
その街で貴族の関係者であること示すものを身に着けるなど、獣の前に血を垂らすようなものだ。
それはあいつが昨日一日で十分理解しているはずだ、善意であるはずがない。
「受け取ってもらえませんか?この剣はいいものですよ。」
「喧嘩なら買うぞ。謝る気がないならこの部屋からさっさと出ていけ。」
「申し訳ありません。私はただ、この部屋を見て感動したのですよ。」
おれはこの男の言葉を静かに聞く。
「私があなたと初めて会った時、あなたは怒っていた。他の冒険者とは違う、火を灯す瞳を見たとき、私は震えたのですよ。」
「、、、」
「街を歩く冒険者は遺跡に入って資源を持ち帰るだけの鉱夫、冒険者の名が泣いている。あなたはそんな現状に静かに怒っていた。」
「、、」
「違いますか?」
「だったらなんだ?」
「ふふ、提案です。私たちと共に西の大遺跡に向かってくれませんか?」
そう言って男は手を差し伸べる。
おれはその手を無視して視線を合わせる。
おれの心に、少しずつ靄がかかっていったことは、こいつらに会う前から、感じていた。
遺跡の未知を求めて集まった冒険者は、今や魔核や素材に目がくらんだ。
遺跡自体に一切目を向けない奴らにおれの瞳に影が差した。
支配を嫌うこの街を好む冒険者が、ピカピカの金属鎧を見て疎む光景を見た。
おれは彼らを見て心に靄がかかった。
こいつに言われずともわかっていた。
こいつに言われずとも、おれがしたいことはすでにわかっている。
「そこを、どいてくれないか。」
「遺跡に行ってくれないと?」
「行くよ。太陽が西から昇るくらい当たり前のことだ。」
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どうも赤城灯火です。今日の小話です。皆さん火が何かと子どもに聞かれたら答えられますでしょうか?答えましょう。火とは原子がイオン化、プラズマ化して高エネルギー状態になって光や熱を発している物質です。それが拡散して気体になればゆらゆら立ち昇ります。反対に炭のようにただ赤くなるものもって子供はもう寝てる?仕方ないとっておきです。アニメによくある黒炎は再現できるでしょうか!答えはできる!炎と同じ色の光を当てると光が吸収され、炎は黒色に見えます。実際にやって天照!と叫ぶのもいいでしょう。
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