第5話 静寂は漂う霞のよう
「本日よりしばらくの間お世話に預からせていただきます。
「あと少しでできるから待ちなさんな。改めて言っとくがここは”冒険者の街”さね。余計な期待はするんじゃないよ。」
「もちろん承知していますよ。私たちは貴族に
カーミさんは言外にここで何が起ころうが知ったこっちゃないと告げたが、騎士の青年は何が起ころうと自分たちで対処すると告げた。
しかし、青年騎士は会話は終わらせなかった。
「私達がここに来たのはある冒険者を探してのことです。」
「カーミさん、この街で、一番、冒険者たる者、に何か心あたりはごさいますか?」
「この街でいちいち冒険者を区別してたら切りないわさ。」
青年が優しく微笑んだ口元をより深くして問うた聞き覚えのある質問は、カーミさんにバッサリ切りられた。
「いやはやそうですね。何に価値があるかを見極めるのは冒険者が
その話には興味がないとばかりにカーミさん騎士たちの料理をどんどんと机に並べ続け、冒険者と騎士が共に過ごす食堂での唯一の会話は完全に途切れた。
いつもは騒がしい冒険者も騎士たちを前に張り詰めた空気を隠さず、それに呼応するように青年の後ろに控えた騎士達も張りつめた空気を押し返す。
霧が立ち込め夜も
月が見えない静かな夜、地上に立ち込める霞が人々を眠りに導く。
鶏舎小屋の屋根の脇、藁のベッドに少年は横たわる。
目を閉じ寝ようとする少年は、固く目を閉じ、寝返りを打って目を開く。
突如街に来た騎士達、彼らが捜す冒険者、まだ見えぬ騎士達の主、殺気立つ冒険者、街の張り詰めた空気、彼らはこれから何をするのか。
次々と湧いてくる運命の
少年は屋根を見上げて目を開く。
「この街で、一番、”冒険”を楽しむ者って言ってたっけ、一番強い奴は探してないんだな。となると目的は遺跡ではない。いや、魔核や素材ではないのか。」
目が闇に慣れ、夜に漂う霞が空に昇っていく様が瞳に映る。
「たまには、遺跡探索の前に寄り道してもいいかもな。少し騎士達の後をつけてみるのも面白い。」
◇
「コーッ!コッコッコッコッコケー!」
おれは鶏舎脇の藁の山で目を覚ます。
清々しい朝の代名詞の声に起こされるので寝坊はしない。
かれこれ八歳の時から、遺跡を走り周り、スケッチしては小銭を稼いできた。
書いては重ね、読み返しては
今日は分厚く暗い雲が漂う今にも崩れそうな空模様だ。
昨日の街が夜までずいぶん騒がしかったのは、今日の冒険を控える者たちが飲み明かしたからだろう。
おれも冒険の代わりに面白そうな匂いがする騎士たちを調べるつもりだ。
今日ちょうど七年目になろうとしている冒険をしないというのに、心は意外に晴れていた。
冒険者であるために自分に科した習慣により、もっと喪失感に苛まれると思っていたがそうでもない。
嗅ぎ分けた匂いに大きな期待を寄せているのか、それとも、解放を求めているのか、それはおれにはわからない。
昨日から考え事が急激に増えた。
慣れないことに疲れていたのか、気付いたら物置もとい、おれの部屋の前にいた。
七年間かけて体に染みついた朝の習慣により、仕事と食事を終わらせた体が冒険の準備をしに来たようだ。
カーミさんに言われた冒険馬鹿という言葉が思い浮かび自分でも苦笑してしまう。
おれは出かける準備をするためにドアを開けた。
「この部屋はあなたの部屋ですか?」
そこにいたのは予想だにしない人物、まるで心を鷲掴みするような優しい声が鼓膜を叩く、心をざわつかせる。
「お前!なぜここにいる!」
そこにいたのは冒険者の街に似合わない鎧を身に着けた騎士の青年だった。
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どうも赤城灯火です。こうして今まで使っていた言葉を文章にする機会が増えました。日本語は漢字が使われますが、読みやすさのために敢えて漢字に変換しないものが多々あることに気付かされました。日本語は深すぎますねぇ~。
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