第4話 日常ここにあらず

周囲に5つの遺跡を有するこの冒険者の街は少し特殊な立ち位置に存在する。


大陸に覇を轟かせる三大国の国境のちょうど交わる場所に位置し、どこの国にも所属はしておらず独立もしていない。


それゆえ、街を治める領主も貴族も、それに仕える騎士も存在しないのだ。


この街が誰の侵攻も受けない理由はいくつかある。


一つは魔核の収集する安い労働力が勝手に集まること。

二つ目は侵攻という隙を見せれば、瞬時に他二国に侵略され、貴重な魔核を得るための前線基地を失うからだ。

そして最後の理由は、冒険者が軍隊を寄せ付けないほど強いからだ。


以上から、今おれの前で微笑ほほえむ騎士は非日常の象徴であり、支配を嫌う冒険者は周囲で遺跡の中にいるかのように殺気を騎士に向けている。


「ありがとう、、ございます。騎士、、さま・?」

「うん、お礼は受け取ったよ。早速なんだけど、この街で一番離れにある宿屋はどこかな?あまり人目のない宿が望ましいんだけど。」


周囲に軽く意識を向けた青年騎士は、カンカンッと光り輝く鎧を叩きながら聞いてきた。


「それなら街はずれの”狼の根城ねじろ”くらいしかないよ。安宿だから大した冒険者はいなし力があればどうにでもなる。」


「ん~ん、出来れば騒ぎは起こしたくないんだけど」


「”力にはより大きな力で抗うべし”それがこの街の掟、騒ぎを起こさないなんて無理だよ。女将のカーミさんは銭ゲバだから金さえ払えば融通きくよ。」


「やっぱりそこか~。下調べで知ってたんだけどね、名前がどうも盗賊のアジトみたいでほかに良いところがないか探しに来たんだよ。教えてくれてありがとね。」


「、、うん」


「最後に、一ついいかい?この街で最も冒険を楽しんでいる人に心当たりがあったら教えてくれないかい?」


青年騎士は気さくな笑みを騎士の顔に変えて、別れ際に質問を投げかけてきた。


「この街に冒険者なんて一人もいないよ。まるで魔核を掘り出す鉱夫さ。」


少年は心の霧が晴れて、すぐに影が差した気がして騎士の青年をいて帰路きろを急ぐ。


残された青年騎士が笑みを浮かべていたことなど少年は知る由もなかった。


雲が空全体を覆い、いつもより暗い夕方に宿に着いた。


「ただいま!帰ったぞカーミさん。」

「遅いわさ!夕方になる前に帰るといったさね!ちゃっちゃと動きな!二階の部屋の掃除!窓ふき!湯沸かし!風呂の準備!それが出来なきゃ飯抜きだよ!」


一切言い訳を挟む余地がなく畳みかける仕事の嵐に目を回しながらもおれは的確に動き出す。


おれはこの宿に居候いそうろうしている。

そして、おれが差し出すのは賃金ちんぎんのいらない労働力だ。


朝晩の仕事がなければもっと冒険できるのにと思わなくもないが、冒険の成果に執着せずに生活が送れる現状におれは満足している。


カーミさんに言いつけられた仕事を急ピッチで終わらせたおれが外を見ると、すっかり暗くなっていた。


冒険終わりの基本的な宿屋の仕事は給仕きゅうじだ。

少し離れた街の中心から冒険者の騒ぎ声が聞こえてくる。

少ない明りを頼りに夜な夜な酒宴しゅえんを楽しむ冒険者はこの宿に泊まる者たちも例外ではない。


まだ駆け出しを抜け出したばかりの冒険者が多く泊まる街はずれのこの宿では、盗られる前に使えとばかりに稼ぎを惜しみなく酒に還元する。


しかし、今日は街の声が聞こえるほど静かだ。


おれが居候しているこの安宿の名前は『狼の根城』、おれが街を出る際に出会った青年騎士に勧めた宿と同じ名前だ。


拭き終わった窓の向こうに数体の騎馬と小さな窓から明かりを漏らす馬車が見えた。


宿屋の前に来て手綱を強く引かれた猛々しい馬のいななきが分厚い雲が月さえ隠す夜に残った。


それがあまりにも窮屈そうでおれの心が騒ぎ立つ。


街にないはずの騎士の姿が、静かな夜を嵐の前のなんとやらに感じさせる。


そして心は騒ぎ立つ。


ーーーーーー

どうも赤城灯火です。嵐の前の静けさは実際にあるのでしょうか?台風を押す進行方向に吹く風と台風が引き寄せる風が釣り合う、台風の目の中に入ったなど理由は様々あるようです。雪に慣れてるので台風は詳しくありませんが、どちらもないちょうどいい地域に住みたいですね〜




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