第2話 険しい道を冒す者

深緑の外套を纏った少年の姿は遺跡にあった。


タッタッタッタッタッ!


まだ成熟しきっていない少年は赤色に鈍く光る石を首に下げ薄暗い通路を走る。


ドタドタドタドタ!


そして、その後を熊のような大きさの蜘蛛型の魔物が忙しなく八本の足を動かし後を追う。


落ち着き払った視線で通路の先を見つめる少年は、曲がり角を見つけるとすぐに壁を蹴るようにして通路を曲がる。


そして、魔物の視線から外れたタイミングで壁を蹴り上がるようにして天井に向かって跳び上がった。


身をひるがえして天井に着地した少年は、すぐさま短剣を抜き、角を曲がってきた魔物の頭に飛び掛かり深い十字傷を刻む。


「キャシャァァァ!」


狂ったように奇声を上げてのたうち回る魔物は、赤黒血走った八つの眼を少年に向け、前脚二本を振り上げ走り出す。


少年はここでも冷静な視線で先程つけた十字傷を見つめ、向かって来る魔物に走り出す。


魔物が振り下ろした二本の前脚を冷静に見遣り、直前で体勢を沈ませ急停止して避けた。


そして、蹴り上がるようにして体勢を浮き上がらせると、失った助走の勢いが息を吹き返し、十字傷のその中心に鋭い貫手となって突き刺さった。


助走と体重を乗せた鋭い貫手は、ズドンッと深く突き刺さり魔物はピタリと動きを止めた。


魔物から引き抜いたその手には鈍い黄いろの光を放つ魔核が握られていた。


核を抜かれた魔物は、火が消えた炭のように、体を灰に変えて崩していく。


深緑の外套を身につけた少年シュトロムは戦闘を終えたばかりとは思ぬほど淡々と、遺跡の壁面の苔や土を除去していく。


「おっ!みっけ!帰りが遅れてカーミさんに叱られずにすみそうだぜ。」


間隔を開けて壁を調べる動作を繰り返すと、シュトロムはそんな声を漏らした。


その壁には先ほどまでの単なる幾何学模様と異なり、複雑な文字のようなものが隠れていた。


迅速かつ丁寧にゴミを除去し終えると、何かを暗示する絵と複雑な文字の羅列が浮かび上がった。


鼻歌混じりに持ち込んだ粘土を取り出し、板状に伸ばして壁面のスケッチを行う。


スケッチを終え街に帰ろうと通路を戻る途中、奥からゴゴゴ!カキン!と言った戦闘音が聞こえてきた。


「ガーマン!そのまま注意を引きつけろ!ローマン!俺と一緒に奴の脚を落とす!しくじるなよ!」

「「おうよ!」」


通路先では3人の冒険者が、蜘蛛の魔物を相手に戦闘を行っていた。


その魔物はおれがあっさり倒した奴と同じだ。

3人がおれより弱いわけじゃない。


魔物の外骨格は武器の素材として高く売れる。


オレのように真っ先に魔核を潰してはその体は先程のように灰になって消える。


ゆえに、この街の冒険者は魔物の体を戦いながら解体して倒すのだ。


当然、攻撃を受けるリスクが上がるほか荷物を嵩むため、ソロのおれは行わない方法だ。


3人の冒険者が問題なく倒せそうなので、おれは気配隠して戦闘が終わるのを待つ。


彼らの戦闘をなんとなしに眺めていると、オレの中で形にならない疑問が湧いてくる気がした。

おれは、それに気づかないふりをして、勤めて周囲の警戒に意識を向けた。


ーーーーーー

冒険といえば迷宮のほうが響きがいいと思うんですが、そこは遺跡と拘らせて下さいまし。いい名前が思いついたらルビを振ると思いまする。



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