96話 勇者と再会する
食堂を出て、女性陣と別れた後。
俺は王都の大通りをにぎやかすことにした。
色々と行き先を考えてみたのだが、特段行きたい場所も思いつかない。だけど、このまま宿に戻るのも流石に味気なさすぎるので、とりあえず当て所なくぶらぶらすることにしたのだ。
この大通りは、街の中央に位置するエルミア城の城門へと続いている。
通りには実に多くの人の姿で溢れていて、両脇に立ち並ぶ
青果店や雑貨屋、薬屋など日用品を売る店の他に、武器種ごとの店や、魔術師向けの
その中に
一歩店内に入ると、
狭く薄暗い空間の中には、大小さまざまな錬成具や錬金術の素材と思しき品々が、所狭しと陳列されていた。
俺にとって馴染み深い錬成釜や錬成符などの他に、ビンに入った謎の発光液体や黒焼きになったイモリといった怪しげな素材など、そのラインナップは実に幅広い。
「あ、そうだ――」
俺は店内を見回し、とある錬成具の取扱いがあるかを確認する。
程なくして目的の品を見つけ、それを手に取った。
それは一冊の本だった。
高級そうな装丁が施された本の表紙には、互いが互いを喰らい合う二頭の
俺が中身を開くと――しかし中身は白紙で、何も書かれていない。
そう、これは
所有者は
もちろん、俺の持つ
この間、
(師匠としては、何かお祝いをしてあげないとな)
俺は
***
その後もしばらく大通りに沿って歩く。
そして、俺はとある建物の前で足を止めた。
俺は、その建物を見上げる。
「ここから出て行ってから、まだ数ヶ月しか経ってないのに……随分と久しぶりな気がするな」
俺は思わず独りごちた。
この建物は、
俺がパーティメンバーとして三年間過ごし、そして追放された場所だった。
冒険者ギルドで、
この場所で誰かに会おうだとか、何かをしようというつもりはまったく無かったのだが、半分無意識のうちに、俺の足はここに向いていた。
(いや、今更ここに来てどうするんだ。俺はもうパーティメンバーじゃないんだし。帰ろう)
そう思い直し、立ち去ろうとしたとき――
「あれ? ニコさん! ニコさんじゃないですか!」
突然背後から声をかけられた。
振り向くとそこには、
「やっぱりニコさんだ! うわぁ久しぶりだなぁ。いつ戻ってきたんですか?」
ハインツは笑顔を浮かべて俺の元に駆け寄ってくる。
「やぁ、久しぶりだねハインツ。元気だった?」
「はい! 僕は相変わらずです」
ハインツは半年ほど前に
ラインハルト達から軽視されているという立場も一緒で、たまにお酒を片手に、パーティでの互いの境遇についてグチを吐き合ったりした。
「どうしてここに? パーティーを抜けたと聞いていたけど、もしかして戻ってきてくれたんですか?」
「いや、違うよ。俺は今色々あってルーンウォルズで暮らしてるんだ。王都へはちょっとした野暮用でね。ここもたまたま通りかかっただけだよ」
俺が事情を説明すると、ハインツは少し寂しそうな顔をした。
「そうですよね……でも、それで正解ですよ。ニコさんが抜けた後、パーティはガタガタになっちゃいましたから……」
「それって、どういうこと?」
俺は思わずハインツに聞き返す。
俺がパーティから抜けた後、
「えっと、実はですね――」
そう言ってハインツは
少し前から依頼の達成率が著しく低下していたこと。
パーティの評判が下がっているのに、ラインハルトら幹部たちの尊大な態度は相変わらずで、パーティの悪評に拍車がかかってしまっていること。
そんなパーティに嫌気がさして、メンバーも次々と脱退していて、メンバー数は今や俺がいた頃の三分の一程度まで減ってしまったこと。
冒険者ギルドから与えられたSランクの階位も降格される可能性もまことしやかに
「――最近は、ラインハルトさんの頼みの
「
「あくまでウワサですけどね。でも、それが本当だとしたら、ユニークスキルに鼻をかけて、あれだけ偉そうにしてたんだから、いいザマです」
ハインツは意地の悪そうな表情でそう言った後、気を取り直した様子で言葉を続けた。
「実は、僕もつい先日、退団手続きをとったところなんです。
「そうなんだ。次のパーティの当てはあるの?」
「はい! Bランクの冒険者パーティなんですけど、リーダーがちゃんと、僕たち
そう言ってハインツは恥ずかしそうに笑った。
「うん、その気持ちは俺もわかるよ。自分の役割が、価値が――仲間たちに受け入れられるって、こんなにも嬉しいものなんだなって……」
俺がしみじみ呟くのを聞いて、ハインツも笑顔になった。
「よかったです。その様子だと、ニコさんも新しいところでうまくやっているみたいですね。その、心配してたんです。突然いなくなっちゃったから……」
「うん、楽しくやってるよ」
その後、俺はハインツとしばらく互いの近況報告を交わしてから、再会を約束して別れた。
***
俺は、ハインツと別れた後もしばらく一人で建物のそばに
やはり
となると、ヴォルカヌスの討伐依頼を偽装したという推測も、あながち的外れなものではなくなってくる。
(いや、もう俺には関係ないことだ……)
俺は無理やりそう思い込む。
「宿に戻ろう……」
そう言って、来た道を戻ろうと
そのとき。
「待て――」
俺を呼び止める声が聞こえた。
ハインツのものではない。
それは、ある意味、この街では一番聞き慣れた声だった。
心臓の奥が冷えるような、そんな感覚があった。
俺はおずおずと、声の方に振り返る。
「久しぶりだな」
そして、俺は彼の顔を見た。
「ラインハルト――」
そこには、
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