95話 虚偽報告?
俺たちがガリア火山で倒したヴォルカヌスは、三か月前に既に別のパーティの手によって討伐されていた。
冒険者ギルドの職員であるリーアさんから、そんな予想外の返答を受けて、俺は思わず仲間たちの方を振り返る。
ミステルもトゥーリアも一様に困惑したような表情を浮かべていた。
「そんなはずはないよ! だって三か月前って、ヴォルカヌスがガリア火山にやってきた時期じゃないか。その頃にはもう討伐されていたなんて……」
トゥーリアがリーアさんに詰め寄る。
「じゃあ、散々ドラフガルドを苦しめたアイツは、ボクたちが苦労して倒したアイツは、お化けだったとでもいうの?」
「トゥーリア……落ち着いて……」
そんなトゥーリアを、ソフィーがなだめた。
「あ、ご、ごめん……」
リーアさんはもう一度
「ええと、冒険者ギルドが受けている報告では、ヴォルカヌスの出現地点は『飛竜峠』なんです。記録によると、被害を受けている近隣の街から出された依頼を受けた――
「
俺は思わず聞き返してしまった。
まさか、ここでその名前が出てくるとは思わなかった。
一体どういうことだ?
俺たちがガリア火山で倒したヴォルカヌス。
そして、ラインハルトたちが飛竜峠で倒したというヴォルカヌス。
同じ種類の魔族が、たまたま二体出現したということなんだろうか。
「ミステル、まったくの同種の
俺は彼女の持つ【魔族の知識】を頼る。
「絶対にない、とまでは言い切れませんが……あまり例がないケースですね。しかし、今回の件に関しては――」
ミステルはアゴに手を当てて、しばらく考え込んだ後、口を開いた。
「最初から――不自然だと思っていたんです。基本的に
「それは……」
「もしかしたらヴォルカヌスは元々の縄張り、つまり『飛竜峠』から、なんらかの事情で追い立てられたのかもしれません」
「追い立てられた?」
「はい。元々飛竜峠にいたヴォルカヌスは、討伐依頼を受けた
ミステルは淡々と自身の仮説を述べていく。
「時系列的には、この考えに立つと矛盾がなくなります。
「まさか……」
「はい。この場合、
依頼の虚偽報告。
それは冒険者として、一番のタブー。
パーティ自身の信用を失墜させることはもちろんのこと、同時に依頼を仲介した冒険者ギルドの信用にも泥を塗ることになる。
冒険者の資格を剥奪されても文句は言えない重大な違反行為だ。
しかも
そんないつかは絶対にバレるような嘘をつくことは……
はっきり言ってバカのすることだ。
ラインハルト……
君は……
一体何をやっているんだ?
「この場合……依頼報告って……どうすればいいの?」
ソフィーが落ち着いた様子でリーアさんに尋ねる。
ソフィーはヴォルカヌス討伐に直接関わってはいないので、ある意味俺たちの中で一番冷静になって、客観的にこの状況を整理しようとしていた。
「そうですね……通常であれば、討伐証明をお預かりして、懸賞金をお支払いすることになるのですが」
リーアさんはしばらく考え込むように顔を伏せた後、言葉を発した。
「とりあえず、この逆鱗は一度お預かりして、こちらで詳細鑑定をさせていただいてもよいでしょうか。その、ニコさん達を疑うわけではないのですが、一応真偽の判定をする必要がありまして……」
「あ、はい。お願いします」
俺はそのままヴォルカヌスの逆鱗をリーアさんに預けた。
(鑑定はむしろ望むところだ。俺たちが嘘をついていないことは、俺たち自身がよく知っている)
「鑑定には、一日ほどお時間をいただきます。お手数ですが、明日以降もう一度ギルドにお越しいただけますか?」
「わかりました」
リーアさんにそう告げられて、俺たちは冒険者ギルドを後にした。
***
建物の外に出てから、手元の懐中時計で時間を確認すると、ちょうど昼過ぎといったところだった。
俺たちはとりあえず昼食を取ることにした。
「さてと……とりあえず、エルミアに来た目的は果たしたことだし、午後はどうしようか」
冒険者ギルドそばのレストランで昼食を終えた俺は、食後のコーヒーを片手に仲間たちへ問いかけた。
冒険者ギルドへの討伐報告は思わぬ事態になってしまったが、昼食を食べていたら、混乱していた頭もちょっとは落ち着いてきた。
とりあえずギルドの鑑定結果を待つしか、今の俺たちにできることはない。
ということで、とりあえず討伐報告の件は一旦忘れて、この後の予定を相談することにした。
(このまま宿に戻ってもいいけれど、せっかくだからエルミアの街を色々と見て回ってもいい。四人であちこち観光してもいいし、各自で自由行動するのもいいな)
そんなことをあれこれ考えていると、トゥーリアがとある提案をしてきた。
「えっとね……女子三人はちょっと用事があるから、午後は別行動でいい?」
「あ、そうなの?」
「まあね、とーっても大切な用事なんだ。ニコが一人になっちゃうのは、ほんとにゴメンだけど」
そう言って、手を合わせて申し訳なさそうな表情をするトゥーリア。
「いや、別に構わないよ。だけど……」
ミステルとトゥーリアとソフィーが三人そろっての用事とは、一体何なんだろう。気にならないと言ったら嘘になる。
まあ、女性特有の用事なのかもしれないし、あまり深くはツッコむのは野暮だろう。
「それじゃあ午後は自由行動にしようか。夕方までには宿に戻るということで」
俺の言葉にみんなが頷いた。
さて、俺はこの後どうしようか。
コーヒーをもう一口すすり、俺は午後の予定に頭を巡らせた。
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