88話 水着だ!

 しばらくしてテント設営も完了した。

 魔族避けの香水も使用したので、魔族対策もバッチリ。

 

 ちなみに普通の宿泊用のテントの他に、トゥーリアがもう一つ、変わった形のテントを設営していた。

 サイズは宿泊用のそれと比較してちょっと小さく、天幕てんまくからニョキッと煙突のようなものが突き出している。


「これは何?」

「よくぞ聞いてくれました! これはね――テントサウナだよ!」

 

 トゥーリアそのままテントサウナの用途を教えてくれた。

 

 なんでも、中にストーブを入れることで、サウナのような環境を作ることができるテントなのだそうだ。

 この日のために普通のテントを改造して作ったトゥーリアのお手製だとのこと。


「ニコもミステルも、サウナを気に入ってくれたみたいだからさ。みんなで入ろうと思って」

 

 つまり、今日はサウナにも入れるということだ。

 それは嬉しい。とても嬉しい。


 テント設営も終わったところで、まずは水浴びをしようということになり、水着に着替えることになった。

 ちなみに俺は水着の準備をしていなかったけれど、ばっちりミステルが準備をしてくれていた。うーむ。

 

 女性陣は、今しがた設営したテントの中で、水着に着替えている。

 俺はというとテントの外でパパッと着替えてしまい、みんなが外に出てくるのを待っていた。

 

 ちなみに視界の端では、御者のおじさんが馬車のかたわらに腰掛け、すでに一杯ひっかけているようだった。


「わっ……トゥーリア、大きい、ね……」

「え、そうかな?」

「ちょっと、触ってみていい……?」

「えっ、ちょっと、ソフィー、やんっ」


 テントの中からは、女性陣のそんなやりとりがダダ漏れだ。


「ミステルも……肌がキレイ、まっしろ……」

「そ、ソフィー……なんでいちいち触るんですか」

「女の子同士なんだから……大丈夫、ね……」

「きゃっ、ちょ、どこを触って……あっ……」

 

 一体テントの中ではどんなことが繰り広げられているのか。イヤでも想像してしまう。


(俺は覗かないぞ。絶対に覗かないぞ)


(でもちょっとだけなら――)


(いやいや! ダメダメダメ!)


 そんな自問自答を繰り返していると、やがてテントから女性陣が出てきた。


「おまたせ――って、なにやってんの?」


 先頭のトゥーリアが怪訝けげんそうな顔で俺を見つめた。

 俺は自分の中の欲望に耐えるために炎の短剣ファイアブランドの炎を解放し、その熱で精神統一をしていたのだ。


「あぁいや、気にしないで――」

 

 水魔法で炎の短剣ファイアブランドの炎を消火しながら、俺は三人へ視線を向けた。

 

 そして、男として当然、その視線は釘付けになった。


(ゴクリ……これは――スゴいぞ!)


 三人は三者三様の水着を身につけていた。


 まず先頭に立つトゥーリア。

 

 彼女の水着はオレンジ色のビキニタイプで、その上からシースルーのトップスを羽織っている。腰回りに付いた大きなリボンがアクセントになっており、とても可愛らしい。

 少し子供っぽいデザインだけど、トゥーリア自身が持つ明るい雰囲気によく似合っている……のだが。

 そんな子供っぽさとアンバランスな、彼女が持つ自己主張の激しすぎるバストのせいで、妙に扇状的せんじょうてきな魅力があった。


 次にソフィー。

 こちらは黒と白を基調にしたモノトーン調のワンピースタイプで、ソフィー自身の印象も相まって、大人っぽい雰囲気だ。

 普段めったに外出しないであろう彼女の肌は、眩しいほど白く、それがモノトーンワンピースとの対照コントラストとなってよく映えている。

 隣のトゥーリアと比較すると胸元こそ少々控えめだけど、すらりとしたスタイルの持ち主で、なかなか水着の着こなしもサマになっていた。


 俺は最後にミステル。


 ミステルは、トゥーリアとソフィーの後ろで恥ずかしそうに顔をうつむかせていた。

 彼女の装いはパステル調の水色ビキニで、下はミニスカートのようなフリルがあしらわれている。

 胸元に付けられた花びらをあしらったような飾りがかわいらしく、ミステルの可憐なイメージにぴったりだった。


「ど、どうですか?  変じゃないですか……」


 ミステルが上目遣いに聞いてくる。


(か、かわいい……可愛すぎる)


 どうすればいいんだこの可愛さ。

 

 ミステルは、いつものクールさからは想像できないくらいにほっぺたを紅潮させており、それだけでも彼女が内心相当緊張していることが伝わってきた。

 

「全然。すごく似合ってる!」

 

 俺は思わず声を大きくして言った。

 

「ほ、本当……ですか……?」

「うん、本当だよ」

「よかった……」

 

 ミステルは安心したように微笑んだ。


「はい……、水着が似合ってるから……つまり……?」

「え?」


 ソフィーがぬるりと詰め寄ってきた。


「だから……ミステルの水着が似合ってるから……それはどういう状況?」

「いや、その」

「ちゃんと……言葉に出して……」

「そんな、ムリに言葉にしなくても」

「言わなきゃわからない……」

 

 な、なんだこの空気……このプレッシャー……

 

「あの、その、つまりですね、水着がとても可愛いです」

「……水着が可愛い? それは水着のデザインが可愛いってこと……? じゃあミステルは可愛くないってこと……?」


 ソフィーの尋問が続く。

 

「え、いや、そんなことはなくて……」

「はい……正確にいってください……」

「あの……水着を着た、ミステルが可愛いです……」

「もっと気持ちを込めて……」

「水着を着た! ミステルが可愛いです!」

「はい……よく言えました……」


 そこまで言わされて、やっとソフィーは俺のことを解放した。彼女はミステルに向き直る。


「と、いうわけで……ニコくんは、水着を着たミステルが可愛いそうです……残念ながら私たち二人は、ミステルの引き立て役に過ぎませんヨ……」


 引き立て役って。

 だ、誰もそんな失礼なこと言ってないって。


 ソフィーの言葉を受けたミステルは、ますます顔を赤くして縮こまってしまった。


 な、なんなんだこの羞恥プレイは。

 くそ、でもやっぱり可愛いな……


「さすがソフィー、いい腕ですなぁ」

「うふふ……この二人チョロい……」


 トゥーリアとソフィーがそんな俺たちを見つめて、ニヤニヤ笑っていた。


「いやぁ、眼福だねぇ。おじさんも楽しくなっちゃうなぁ」


 そして、そんな俺たちを遠くから見つめて、御者のおじさんもニヤニヤ笑っていた。

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