83話 女子会 前編

「あ、あの……どなた……?」


 突然店内に現れた赤髪の少女に、ソフィーは問いかけた。


「あ、そういえば、初めましてだったよね。ボクはトゥーリア。ちょっと前にドラフガルドからこの街に引っ越してきたんだ。よろしくね!」


 そう言ってトゥーリアはソフィーの元までつかつかと歩み寄り、握手を求める。

 

「あ、うん……よろしく。わたしは、ソフィー。えっと、この本屋の、店主で……」


 戸惑いながらも手を差し出すソフィー。

 完全にトゥーリアのペースに飲まれているようだ。

 

「あ……最近、ウワサになってる、ドワーフの女の子って……あなたのことね……」

「えー、どんなウワサ? 気になるなぁ」


 どうやらソフィーとトゥーリアは初対面だったようだ。

 まぁ、それはいい。そのことよりも……


「トゥーリア。あなた何故ここにいるんですか」


 わたしは当然の疑問を彼女に投げかける。


「いやー、必要な道具を買い出ししようと思って店の外に出たら、ちょうどミステルを見かけてさ。なんか思い詰めた顔で、この店の中に入っていったから、気になってこっそりついてきちゃった」

「そんな『てへっ』みたいな顔で言われても……」

 

 相変わらず、自由奔放というか、なんというか。

 

 しかし、わたしも全く彼女の気配に気づかなかった。

 街中でも、索敵とまでとは言わないけれど、周囲の気配には気を配っているつもりだったのに。


 狩人ハンターとして失格だ。

 やっぱり最近のわたしは地に足がついていない。


「まぁまぁ、細かいことは置いておいて。今はもっと大事なお話があるんでしょ? さっそく女子会しようよ!」

「女子会?」

「え、知らないのミステル。女の子同士で、お茶を飲みながらおしゃべりするんだよ! うーん、ドラフガルドでは同年代の女の子がいなかったから。ボクずーっと憧れてたんだよね」


 トゥーリアは目をキラキラさせている。


「トゥーリア、今はソフィーと大事な話をしていて……」

「うん、知ってるよ。ニコが好きで好きでしょうがないけど、どうやってアプローチすればいいか分からなくて、日々モンモンとしていてどうしよう、ってことでしょ?」

「な、ななななななな! どうして――」


 わたしは自分の顔が急激に熱を帯びるのを感じた。


「いやいや、あれだけ大きな声で『恋の仕方を教えてほしいんですッ!』なんて叫んでて、何言ってるの。外までハッキリ聞こえてきたよ」

「う、ウソ……」


 恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい気分だ。


「だから今日の女子会は、題して、『第一回ラブコメ応援団! チキチキ! ミステルの恋を応援しよう!』 ということで――」

「と、トゥーリア、あなた絶対に面白がって……わたしは真剣に……」


 わたしはなんとか抗議の声を絞り出すが、それをソフィーが制止した。


「まぁまぁ、ミステル……恥ずかしいのは分かるけど……正直、わたし一人じゃいいアドバイスはできそうにないし……彼女にも話を聞いてもらっても……いいんじゃない……?」

「ソフィーまで」

「彼女はミステルの友だちなんでしょ? 二人の様子見てたらなんとなく分かるよ……友だちだったら、きっと力になってくれるよ……ね?」


 ソフィーはそう言って、トゥーリアに視線を移す。


「もっちろん! 前にもいったろ? ボクは君の味方だって。それに一人より二人いたほうがアドバイスも捗るよ。三人揃えばなんとかの知恵ってね!」


 トゥーリアはそう言って笑顔を見せた。

 

 た、確かに。

 トゥーリアはこんなわたしを友だちと言ってくれた。彼女は、わたしにとって、生まれてはじめての友だちなのだから、困っているときは頼るべきなのかもしれない。


「わかりました……」


 わたしは意を決して、ひとつ深呼吸をした。

 さて、どこから話そうか。


「あ、ちょっと待って……ここじゃ何だから。奥の部屋に移動する……? トゥーリアにもお茶を用意するね……あと、お茶受けのお菓子も……」

「わーい、ありがとうソフィー!」

「あ、ありがとうございます」

 

「ふぅ、今日は、もう店じまい、だね……」


 ソフィーはそう言って、入り口まで移動すると、扉にかけられた看板を、そっと裏返した。


 

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