49話 ドラゴンスレイヤー(笑)【勇者視点】
ラインハルト、マーガレット、リリアンの三人は、今回の依頼の討伐対象である
巨大な漆黒の翼を持つ赤き
なるほど凄い威圧感だ。
並みの冒険者であれば、この
だがしかし。
彼はゆっくりと
「【
詠唱と同時に、
それは
「マーガレット、リリアン。援護は任せたよ」
「はい、ラインハルト様!」
「任せて!」
ラインハルトはそう言うなり、単身で前へと駆け出した。
「うおおおお!」
そして勢いそのままに、目の前にいる
その攻撃に対し、敵も黙ってやられる気はないらしい。振り下ろされた
ガキンッ!
甲高い金属音が鳴り響き、
どうやら
けれど、彼の心のうちに焦りはひとつもなかった。
「無駄だッ! いかに強力な外殻を持っていようとも、僕の
彼はさらに自分の魔力を注ぎ込んだ。
「
彼は再び
今度は横薙ぎの一閃を放つために。
そして敵の胴体目掛けて、
すると、凄まじい衝撃とともに、
「はははは、これが勇者の力だッ!」
「さすがラインハルト様ですわ!」
「すっごーい! ラインハルトー!」
仲間たちの声援を背中に受け、ラインハルトは勝利を確信した。さらに
「次の一撃が貴様の最期だ」
そう言って彼は
「
彼自らが名付けた、唯一無二の
そして、その致命の一撃を、今まさに放とうとした瞬間だった。
「あれぇっ!?」
突然、
「な、なんだよ! ど、どういうことだ!?」
ラインハルトは慌ててもう一度自分の魔力を注ぎ込む。
しかし、
かわりに頭を締め付けるような頭痛が彼を襲い、全身から冷や汗が噴き出る。
「ば、バカな! 魔力切れだとッ?」
原因は単純だった。
確かに彼が振るう
もちろん、そのことはラインハルトも理解していたつもりだった。
だけど、ここまで早く、魔力切れを起こしてしまうのは初めてのことだった。
(僕の常人とは比較にならない魔力量をもってすれば、魔力切れなんて――!)
その証拠に今までは、いくら
「な、なんでだ。僕の声に応えてくれ、エクスカリバー!」
彼の必死の問いかけも虚しく、
戦いは待ってはくれない。オロオロするラインハルトに向けて
「ひえええー!」
「
リリアンが
「ラインハルト様、下がってください!」
マーガレットの声にハッとなったラインハルトは、慌てて仲間たちの元に戻る。
「ラインハルト、どうしたの!?」
「すまない、魔力切れを起こしたみたいだ――」
「はぁ、魔力切れ?」
「
「ご、ゴメン。まさかラインハルトに限ってそんなこと起こらないと思ってたから、ここに来るまでの間に全部使っちゃったよ……」
「なんだと、クソッ――」
ラインハルトは舌打ちする。
(まあいい、敵は手負いだ。あとはマーガレットたちに任せればいい)
「マーガレット。君の魔法でトドメをさせるかい」
「お任せください、ラインハルト様」
マーガレットは杖を構え、詠唱を始めた。
彼女は長い詠唱を必要とする大魔法を発動するつもりだった。
「――大気に満ちる
彼女は呪文を唱えた後、静かに目を閉じる。
そして――
「――
彼女の杖の先端から、巨大なつららが出現した。それは高速で回転しながら、
しかし――
「ど、どういうことだ……!?」
「もしかしたら、【魔力無効】の
「なんだと? 魔法が効かないっていうのか!」
「うちの奇跡も効かないよ……! どうしよう……!」
(ふざけるな。役立たず共め! それじゃあ――それじゃあまるで、僕たちに勝ち目がないみたいじゃないか。)
ラインハルトの胸中を満たしたのは恐怖ではなく、怒りだった。
なぜ勇者である自分がこれほどの苦戦を強いられるのか。その理不尽に対して、彼は幼稚な怒りを向けていた。
彼は知る由もなかった。
確かにラインハルトの魔力は常人に比べて多い。それでも
彼は知る由もなかった。
その少ない魔力で、なぜ彼は今まで
それは、つい一か月前。
彼が役立たずと断じて追放した
彼が二流品とバカにしたその
ガタガタガタガタ……
ラインハルトの手足が震え出す。
それが何を意味するのか。
さすがのラインハルトでも理解できた。
(全滅――?)
奥歯がガチガチと震え出した。
(ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな! Sランクパーティ
大気がビリビリビリと震える。
「おい! なんとかならないのか!? マーガレット! 【
「申し訳ありません……今の魔法で、ワタクシの魔力も尽きてしまいました……」
「リリアン!? なにか奇跡で……⁉︎」
「ゴメン……」
ラインハルトは仲間にすがるも、二人とも力なくうなだれるばかりだ。
(イヤだ死にたくない死にたくない死にたくない!)
ジョロジョロジョロ――
久しく忘れていたら死の恐怖に、ラインハルトは失禁してしまった。
そんなラインハルトを前にして、
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