第三章 竜破
50話 到着、ドワーフの集落
翌朝。野営拠点を撤収して、ドワーフの集落を目指して再び出発した俺たち。
今日の天気は曇り。太陽の日差しがない分、昨日よりもぐっと涼しさを感じた。
昨日に引き続いて、俺の後ろで馬にまたがるルーク。その顔色は朝からずっと良くない。きっと昨晩のお酒が残っているんだろう。自分の本心を伝えるために、お酒の力を借りてしまった代償といったところか。
「大丈夫、ルーク?」
「はい……朝に比べればずっと楽になりました。ニコさんが錬成してくれた二日酔いの薬が効いたんだと思います」
ルークの言葉どおり、俺は彼に二日酔いの薬を作ってあげた。
「【即効性】の
「はい」
かっぽ、かっぽと俺たちは馬を進める。
やがて斜面はどんどん急になっていき、辺りに転がる石の形や大きさも、岩といって差し支えないくらいにゴツゴツと大きなものになっていった。
いよいよ本格的に山岳地帯に入っていったということだろう。
俺たちの馬に先導する形で、ミステルの乗った馬が山道を進んでいく。
しばらくすると、山道の両脇に
「ここから一キロほど先に自然洞窟があります。その入口に門が設置されて、二人ほど門番が立っているようです」
ミステルが馬上から俺たちに声をかけた。
「いよいよ、ですね……」
背中から緊張した声色のルークのつぶやきが聞こえた。
かつてルーンウォルズを追い出されたドワーフ達の集落。関係改善の交渉はどういう展開になるだろうか。すんなりとうまくいけばいいのだけれど。
***
更に道を進むと、ミステルが言ったとおり、天然の洞窟の前に、丸太を加工して作られた無骨な門が設置されているのが見えてきた。
門には二人の男が立っている。
小柄だが筋骨隆々の体躯、無骨な鎧を身にまとい、顔にはモジャモジャのヒゲ。
間違いない。彼らはドワーフだ。
「馬を止めよ、旅の方。何用で我らが里まで来られた」
そのうちの一人が声をかけてきた。その手には槍が握りしめられている。
俺たちは馬から降りて、一歩前に歩み出た。
「こんにちは、私たちは王都エルミアから参りました。冒険者のニコ・フラメルと申します。こちらは同じく冒険者のミステル・ヴィントミューレです」
ミステルが俺の紹介を受けて、ペコリと頭を下げる。
「ほう、王都の冒険者とは珍しいことだ。商いかね?」
「いえ、我々はこの方の従者として……」
俺はそう言って、ルークの方へ振り向き、小声で「俺が説明しようか?」とつぶやいた。
しかし、ルークは真っ直ぐな瞳を俺に返し、静かに首を横に振る。
「んん?」
ドワーフが、俺たちの後ろに立つルークに視線を移す。
ルークは少しだけ間を置いた後、俺たちの前に歩み出て深呼吸を一つしてから、きっぱりとした口調で告げた。
「僕はルーンウォルズの領主。ルーク・フォン・カリオストロと申します。ドワーフの衛士達よ。僕たちは領主の名のもとに、あるお願いをしたく参りました。どうか、貴方達の
いつもの気弱なルークとは思えないくらい見事な口上だ。二日酔いも微塵も感じさせない。さすが領主様!
ルークの言葉に門番のドワーフは目を大きく見開いた。
「これは驚いた……! まさかルーンウォルズから使者とは! それも領主殿が直々にと……!?」
(お、これは意外と歓迎モードだったりするのか……?)
「ふざけるな! 俺たちを勝手な理由で追放しておいて、今更なにしにきた? しかも族長に会わせろだと!? よくもヌケヌケと……」
俺の淡い期待を打ち砕くように、もう一人の若いドワーフが怒りの声を上げる。
(うん。そうだよね。そんなに甘くないよな)
「お前は黙っていろ」
「しかし……!」
「我らの仕事は不審者の侵入を防ぐこと。彼らは我らの問いに対し、『族長に会うため』という来訪の目的を告げた。ならばこの門を開くか否かを決めるのは我々ではなく、族長だ」
「……わかりました」
年長のドワーフは、もう一人の門番をいさめてから、俺たちに向き直った。
「お前たちの用件は間違いなく族長に伝えよう。しばらくここで待つがいい」
「ありがとうございます」
ルークはぺこりと頭を下げて、素直に感謝の意を伝えた。
俺は出発前にソフィーに言われた言葉を思い出していた。
性格はガンコで豪快で一本気。同族をとても大切にする一方で、他種族とも交流は持っているから、人間にも比較的友好的。
なるほど、彼らから感じる印象は、確かにそんな感じだな。
俺たちはドワーフの言葉に従い、しばらくその場で待機することにした。
***
それから半刻ほど経った後。
先程の年長ドワーフが戻ってきた。
「待たせたな、ルーンウォルズの領主よ。族長がお会いになるとのことだ。ついてくるがよい」
「あ、ありがとうございます!」
よし! これで第一関門は突破だ!
族長がどんな人となりかは分からないが、直接面会さえできれば交渉の余地はいくらでもあるはずだ。
閉じられていた門がゆっくりと開かれる。
俺たちは馬を馬止めに繋ぎ、ドワーフの先導に続いて、洞窟の中へと入っていくのであった。
「ようこそ、ルーンウォルズの使者たちよ。我らが同胞の家。ドラフガルドへ――」
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