33話 崩壊の足音【勇者視点】★
「依頼が未達成だと……?」
「は、はい――ラインハルト様。ビッグファングの討伐は成らず、討伐パーティー四名のうち、自分は幸いにして軽傷で済みましたが、他二人が重症、そしてもう一人は手当の甲斐もなく……」
ラインハルト、マーガレット、リリアンの三人の幹部を前にして、戦士風の男が
「キサマらのケガの話などどうでもいい!」
問題は――
「……ビッグファングはBランクの魔族だ。これまでだって僕たち幹部が出向かずとも十分に対処できていたはず。その程度の魔族になぜやられてしまったんだ。何か
彼は隠しきれない苛立ちを、声色に乗せる。
ここのところ、以前に比べて、明らかに依頼の未達成が増えてきているのだ。
当然、メンバーの能力にばらつきがあるし、メンバーの入れ替えもあることから、常に経験豊富なベテランばかりではない。
(それにしたって最近の失敗頻度は異常だ! クズ共め!)
「撤退の理由をはっきりと報告しろ!」
「は、はい……今回の失敗の原因は、回復手段が足りなかったことかと――」
「なんだと? メンバーの中に
「いえ、
「それなら
それが未達成が続いたとなると、パーティの、ひいては彼自身の信用問題になってしまう。
ラインハルトは、無能な連中に自分の輝かしい経歴を傷つけられることが、なによりも我慢ならなかった。
「もちろん使いました! だけど、あまりに効果が低く、すぐに使い果たしてしまい――」
「何を言っている。この
無能なくせに自身に反抗的な態度をとった
奴が錬成した
今回の討伐依頼には、それらの
「申し訳ありません……ただ、他のアイテムに関しても同じ状況です。これまで我々が使用していたアイテムと比較すると著しく性能が劣ります。もし、今使用しているアイテムの品質に問題がないとすれば、以前のものの品質がはるかに優れていたということに――」
「黙れッ!」
ラインハルトは思わずテーブルを拳で叩きつけた。バンッと激しい音が部屋の中に響き渡る。男はびくりと身体を硬直させた。
「もういい、お前たちの無能さはよくわかった。ビッグファングの討伐依頼は僕が引き継ぐ。クビだ。荷物をまとめて、ここから出て行け」
「そ、そんなっ、まだ仲間たちは重症で――」
「聞こえなかったのか? 僕の視界から消えろといっているんだ」
「――ッ、わかりました……」
男はそれ以上の反論なく、
「クソがッ――」
「ラインハルト様……」
苛立つラインハルトにマーガレットが心配そうな視線を寄せる。
「大丈夫、大丈夫だ。ビッグファングの討伐依頼はまだ期日まで余裕がある。僕たちが直接討伐すれば何も問題ない――」
そう言って気を取り直すように笑顔を作った。
「ラインハルト様。今の話、仮に本当だとしたら……ニコ・フラメルを呼び戻すという方法もあると思いますが……」
彼女は不安げな表情のまま提案してきた。
「私の
(はあ? そんなのまるでこの僕が雑用係の手助けを必要としているみたいじゃないかッ!)
思わず声を荒げて反論しそうになるのをグッと堪える。
「マーガレット……その必要はない。たかが支援職の作る
(たかが雑用係が一人いなくなった程度でゆらぐほど、僕の
「そうですよね……ごめんなさい。私、つまらないことをいってしまいました」
マーガレットは瞳を伏した。
「ラインハルト、次の議題に移ってもいい?」
「ああ、リリアン。よろしく頼む」
「えっとね、久しぶりに
「本当か? 依頼の詳細を教えてくれるかい?」
「場所はエルミアから南にいった
「ふむ、それで報酬は?」
「一○万エルク。前払いだけで三万だって。かなりでかいよ」
ラインハルトはリリアンの言葉を聞き、思わず笑みを浮かべた。
巨額の報酬もさることながら、任務失敗が続いている今、
「わかった、その依頼請け負おう」
「討伐メンバーはどーする?」
「相手は
「わかりました」
「任せて!」
ラインハルトは二人の返事を聞いてから、鞘にしまっている
鞘越しに聖剣が放つマナの鼓動を感じる。
ラインハルトの脳裏に一ヶ月前――
(あんなのはレアケースだ。ボスの能力との相性があまりに悪すぎただけだ。今度の相手はドラゴン。いかに強力だとしても、攻撃さえ当たれば僕の勝利は揺るがない)
「必ず成功させるぞ」
ラインハルトは自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。
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