77話 パーティーの装備が強化された!


 バルバロッサとの打ち合わせから五日。

 

 ドラゴン素材を使った装備が完成したとの報告を受けて、俺とミステルはドラフガルドの工房へ向かった。


 工房はドラフガルドの中央広場の一画にある。半露店のようになっており、広場の中のかなり大きな区画を占めていた。

 

 奥には金床や炉が並んだ鍛冶場があり、その手前には大きな作業台が設置されている。

 壁際にずらりと並べられた作業棚の中には、ハンマーや火箸、様々な鉱石などが雑多に収められている。また、天井のアチコチには滑車が設置されていて、大きな革やら布やらが吊り下げられていた。

 

 中ではドワーフの職人たちが忙しそうに働いており、彼らがハンマーを金床に振り下ろす音が、カンカンカンと絶え間なく辺りに鳴り響いていた。


「あ、二人とも、こっちこっち! 装備はもう出来上がってるよ」


 作業台の横で待っていたトゥーリアが、俺たちに気がつくと、大きく手を振って呼びかけてきた。

 俺たちは工房の中に入り、トゥーリアの元まで歩いていった。


ドラゴンの装備が完成したと聞いたんだけど」


 俺の言葉に、トゥーリアは大きく胸を張る。


「ふっふーん。これだよ!」

 

 トゥーリアは大きな作業台の上に置かれた装備品を指差した。


「おお……!」

「ひとつずつ説明するね。まずこれがニコに作ったドラゴンのウロコで造った帷子かたびらだよ」


 そう言ってトゥーリアは深紅のウロコで造られた帷子かたびらを俺に手渡した。

 ドラゴンのウロコ一枚一枚が丁寧に加工され、まるで宝石のように艶やかに輝いている。胸部を覆う部分は、少し分厚くなっており、胴体に沿って緩やかなカーブを描いていた。

 手に持ってみると、見た目の重厚感とは裏腹に、驚くほど軽かった。


「どう? ドラゴンのウロコは鉄より硬いし、魔法にも強いよ。それにとっても軽いから。これならニコが着ても動きに支障はないと思うんだけど……」


 俺は上着を脱いで、試着してみる。

 確かに、鎧というよりも、体のラインに沿った服のような感覚だった。

 軽く動いてみても特に違和感はなく、全身に風が通るような感じがした。


「うん、動きやすくて、すごくいいよ」

「それはよかった! じゃあ次はミステルね。胸当てタイプの装備がいいって言ってたから、はいこれ」


 トゥーリアはミステルに装備を手渡した。俺がもらったドラゴンのウロコ帷子かたびらの胸当て版といったところだ。

 ミステルも試着をしてみて、着心地や動きやすさを確かめている。

 それからしばらく思案した後。

 

「素晴らしいです。ありがとうございます」

「気に入ってくれてよかったー! ちなみにボクのも同じ胸当てにしたよ。お揃いだからよろしくね」


 俺たち二人の反応を受けて、トゥーリアは笑顔になった。


「じゃあ次は武器だね。まずミステルから預かっていた弓をドラゴン素材で強化したよ」


 トゥーリアはそう言ってミステルの大弓を差し出した。

 外見はこれまで通りなので、外見からはどこが強化されたのかよくわからない。


「これは……弦の張力が段違いですね」

「うん、弦の部分をドラゴンの背筋で造った弦に交換したんだ。威力も飛距離もかなり強化されたはずだよ」

「なるほど……」


 ミステルは大弓を構えて、何度も矢を引き絞る動作を繰り返した。弓を弾いた感触に違和感がないか、一つ一つの所作を丁寧に確認しているようだった。


「うん、張力もさることながら、伸びもいいし、引きもずっと軽いです。ありがとうございます」


 相棒が強化されたことを受け、ミステルは満足そうに微笑んだ。

 今までだって、俺からしたらミステルの弓の腕前は超人的だった。武器が強化されたことで、より一層その腕前が引き立つことだろう。


 そして次は俺の番だ。

 どんな武器なんだろう。ワクワク。

 

「ニコにはこの短剣を渡すね」


 俺が受け取ったのは、刃渡三〇センチほどの諸刃の短剣だ。刀身には赤っぽい独特の波紋が浮かび上がっている。


ドラゴンの牙を研いで造った短剣だよ。切れ味は抜群だから、扱いにはちょっと気をつけてね。指なんか簡単に飛ばすから」

「う、うん」

「あと、ちょっと面白い仕掛けがあるんだ」

「面白い仕掛け?」


 トゥーリアはニヤリと笑った。

 

「ニコって魔法は使えるよね?」

「うん、基礎魔法レベルなら」

「それでオッケー。魔法を使う感覚で、試しに刀身に向けて魔力を流してみて」

 

 俺はトゥーリアの言うがままに、右手に持った短剣へ魔力を込めてみる。

 すると、刀身が輝き、徐々に熱を帯び始め、そして――


 ボワッ!


 その光は炎へと変わった。


「わっ!?  なにこれ……!」

「それがその短剣の能力だよ。魔力を流している間、炎属性が付与されるの」

「おお……!」

「名付けてファイアブランド! カッコいいでしょ」

「ファイアブランド――」


 俺は燃え盛る刀身をまじまじと見つめながら、短剣の銘を反芻はんすうした。

 

「魔力を流してる間はずっと燃えるから、取り扱いは要注意ね」


 たしかにどんどんつかの部分が熱くなってくる。

 とりあえず一旦炎を消そう。

 

 俺は魔力を流すのを中断する……が、炎は消えない。


「トゥーリア、これ、どうやって炎は消せばいいの?」

「え?」

「え、じゃなくて、魔力を止めても消えてくれないんだけど」

「マジ?」


 トゥーリアが予想外といった表情で俺を見つめる。


 メラメラメラメラ……


「あっつ!」


 とうとう握っていられなくなるくらい熱くなってしまい、俺は思わず手を離してしまった。

 炎の短剣ファイアブランドが床に転がり落ちる。

 

 当然刀身は炎に包まれたままで。


「わー! やばい火事になる! 誰か、水、水――」


***


 結局、直接水をかけることで、炎の短剣ファイアブランドの炎は消えた。


「いやぁ、参った参った。まさか一旦炎がついたら、物理的に消火しないといけないなんてねぇ」


 トゥーリアはノンキに笑いながら言ったが、俺としては全然笑えない。

 

「危うく火事になるところだったし、おかげでヤケド寸前だったんですけど……」

「ごめんごめん、でも次からは水魔法なりで上手いこと消火してやれば大丈夫だよ。うん、ニコならきっと使いこなせる!」


 まったく、一度発火したら自動では消えないのか。

 あと、素手だと火傷しちゃうから、防火手袋も必要になるな。

 なんてピーキーな性能なんだ。


 俺は改めて炎の短剣ファイアブランドを見つめる。


 とはいえ、強力な武器であることは間違いなかった。

 これを使いこなすことができれば、魔族との戦闘で、俺に出来る選択肢ことがもっと増える。


「トゥーリア。ありがとう」


 俺たちのために、沢山の装備を作ってくれたトゥーリアに対して、俺は心からのお礼を口にする。


「どういたしまして!」


 こうして俺たちの装備は、強力なドラゴン装備へ一新されたのだった。

 


 

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