73話 混浴ってマジですか?

 小屋の中に入ると、内部も丸太がむきだしになっていて、ログハウスのような内装になっていた。

 木の良い香りが全体に漂っている。

 

 ここはいわゆる公衆浴場のようで、入り口すぐには下足入れとカウンター、それにちょっとした休憩スペースがあり、その奥に、麻の暖簾のれんがかけられた脱衣所につながるであろう出入口が見えた。


「オヤジー! 三人ね」


 トゥーリアは手慣れた様子でカウンターに座っているドワーフに声をかけ、タオルやら手桶やらを受け取った。


「はい、お待たせ。ニコはあっちから入ってね。じゃあ中で落ちあおう」

「あ、うん」


 俺はトゥーリアからタオルなどを受け取った。


 ほ、ほんとうに混浴なの……?

 え、いいの?

 いろいろ見えちゃうけど、本当にいいの?


 俺が悶々もんもんとしていると、トゥーリアはミステルと一緒に、そそくさと脱衣所の中に入ってしまった。

 俺はぽつんと取り残される。


「……本当にいいんだよね?」


 俺は意を決して脱衣所に入った。


(父さん、母さん。今夜、一つ大人の階段を登ることになるかもしれません――)


 ***


「ああ、そういうことね――」


 俺は脱衣所内でトゥーリアから受け取ったお風呂セットをあらためてから、納得してつぶやいた。


 タオルや手桶の他に、湯浴み着が入っていた。

 これを着て入浴するから、混浴でもオッケーということだ。

 まんまとトゥーリアにからかわれてしまった格好だ。


「はは、いやまぁ、そうだよな」


 俺はホッとした気持ち半分、残念な気持ち半分で、苦笑いしながら手早く湯浴み着を身につける。

 男性用の湯浴み着は薄い青色で、ゆったりとした半ズボンのような形状になっていた。


 脱いだ洋服やタオルを、ラタンで編まれたバスケットの中に突っ込んでから、俺は浴場への扉を開いた。


 浴場はそれほど広くなく、十人も中に入れば一杯になってしまうくらいの大きさだった。

 浴場の内装も天井から壁、床に至るまで、すべてが木材で造られている。湿気をはらむ分、いっそう木の匂いが強く感じられる。

 

 中には俺の他に誰もいない。ミステルとトゥーリアはまだ着替えている最中だから、三人貸切ということになる。


「あれ……?」

 

 俺は辺りを見回して、ある違和感を覚えた。

 体の洗い場はあるのだが、肝心の湯船がないのだ。


 俺は首をかしげながら、とりあえず洗い場で体を流す。しばらくすると、脱衣場の入り口からガラガラと扉が開かれる音がした。


「おまたせ〜! ほらミステルもはやくこっち来なよ」


 トゥーリアの声と共に脱衣場のほうから二人が姿を現した。

 

 トゥーリアはミステルの手を引いて、こちらに歩いてくる。

 ミステルは恥ずかしそうにうつむきながら、トゥーリアに手を引かれてよろよろと近づいてきた。


「へっへーん! 混浴って聞いたから期待してただろ。残念、お風呂用の洋服を着るのでした〜」


 トゥーリアはそう言ってイタズラっぽくけらけらと笑った。


(いや、まあ、着てるんだけどさあ……)

 

 俺は二人の姿にクギづけになっていた。


 まず、二人ともお風呂のために、普段は下ろしている長い髪を後ろで結ってまとめているため、普段よりも大人っぽい印象だった。これだけでなんだか妙に色っぽくてドキッとする。


 それに加えて二人の格好だ。


 二人とも薄いピンク色の湯浴み着を着ていた。ワンピースタイプで当然身体の大事な部分は隠されている……のだが。

 湯浴み着の生地が薄く丈が短いためか、二人のボディーラインがクッキリと浮かび上がっている。

 それに胸元や肩まわりが、わりとしっかり露出していて、なんとも色っぽい雰囲気だ。


 ミステルは恥ずかしさに耐えられないのか、両手で胸元をおおっている。

 そんなミステルとは対照的に、トゥーリアは自分の体を見せつけるように、両手を広げてくるりとその場で一回転して見せた。

 

「どう? 似合ってる?  可愛い?」


 トゥーリアはそう言って無邪気な笑顔を俺に向ける。


 トゥーリアは小柄なのだが、種族的な特徴なのか、出るところがものすごーく出ている。

 こうして薄着でくるくると動かれると、その度に大きな胸元が……


 たゆんたゆんたゆん――


 幼気いたいけな俺の劣情をあおるように揺れ動くのだ!

 

(いかんいかんいかん! この膨らみを見つめ続けると大変なことになってしまう)

 

 俺は慌てて視線を後ろに控えるミステルに移した。

 

 ミステルはトゥーリアとは対照的に、スレンダーだ。

 細身なんだけど女性らしい起伏に富んだスタイルをしており、特に腰回りのくびれなんかはかなり目を引くものが……

 

(ああ、なにじっくり見て分析してるんだ!)


 周囲の観察、分析は錬金術師アルケミストさが――ウソです。下心以外のなにものでもありません。


「……あ、あんまり見つめないで……ください」


 俺の視線に気づいたミステルがさらに頬を赤らめて言う。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 俺は謝りながら、自分の顔を手で覆い隠……しつつも、指と指の間から二人の姿をばっちりと見つめていた。

 

 ミステルとトゥーリア。

 それぞれタイプの違う二人の美少女の艶姿えんしを目の前にして、目を逸すというのはとても難しいことだった。

 

(というか、明日死んだとしても見る!)


「ほらほら、二人ともいつまでも見つめ合って恥ずかしがってないで、はやくお風呂に入ろうよ」

「そ、そういえばトゥーリア。浴場の中に、肝心な湯船がないみたいだけど……」


 俺はトゥーリアにさっき感じた違和感を伝えた。


「ふふん、そうだよ。ここはサウナ風呂だから湯船はないんだ」

「え? それじゃあどうやって湯に浸かるの?」

「はいはい、すぐ案内するから! ボクたちも身体を流してくるからちょっとだけ待ってて!」


 そう言って女性陣は洗い場のほうにそそくさと向かい、手早く身体を洗う。そしてすぐこちらに戻ってきた。


「はい、おまたせ。それじゃあ二人ともボクについてきて。こっちの扉だよ」


 そう言ってトゥーリアは、奥にある木でできた引き戸に手をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る