69話 英雄の帰還

 ヴォルカヌスとの戦いを終えた俺たちは、最低限の応急処置と手持ちの回復薬ポーションで体力回復をしてから、ガリア火山を下山することにした。

 

 ちなみにヴォルカヌスの骸は手をつけずにそのままだ。

 ドラゴンの巨体を解体するには、俺たち三人だけではムリなので、一度ドラフガルドに戻ってから、改めて人手を募り、解体・運搬を行うことにした。

 

 唯一の心配は、魔石を取り除かずに魔族の骸をそのままにすることで、不死アンデッド化する懸念だが、ミステルによると、迷宮ダンジョン機能が消失した今、その心配はないとのことだった。

 

 ガリア火山の光景は、往路とは一変していた。

 辺りに充満していた火山ガスや、地面のあちこちに亀裂を走らせ、その隙間から溢れ出していたマグマ溜まりはキレイさっぱり無くなっていた。

 

 迷宮ダンジョン化の影響で異常活発化していた火山活動は、迷宮ダンジョンの消失と共に、沈静化したということなのだろう。

 

 ワイバーンやリザードマンなどの魔族の姿もない。

 これはミステルが索敵のおかげで遭遇エンカウントしていないだけかもしれなかったが、マナの濃度が薄まった以上、強力な魔族もいずれ姿を消していくはずだ。


「うんうん、これがガリア火山の本来の姿なんだよ――」


 トゥーリアはご機嫌でそう呟いた。


 ***


 俺たちはドラフガルドに戻ってきた。

 正門を警備していたドワーフが、俺たちの姿を見るや否や駆け寄ってくる。


「トゥーリア様、ご無事でしたか! 先程ガリア火山の方角から凄まじいマナの反応がありましたので……一体何があったのかと皆で心配しておりました!」

「みんなただいま! 聞きたいことは色々あるだろうけど、一言で言うと万事オッケーって感じ! 細かいことはおじいちゃんに報告するからさ! 門を開けてよ」

「かしこまりました」


 トゥーリアの促しに応じ、ドワーフ達はすぐに門を開けた。

 俺たちは、そのまままっすぐ、族長の大屋敷へ向かった。



「皆さん! よかった! 無事だったんですね!」


 族長の大屋敷に着くと、ルークが真っ先に出迎えてくれた。

 ルークは俺たちの姿を見た途端、顔を真っ青にした。


「!? 皆さんボロボロじゃないですか……! 特にトゥーリアさんなんて全身が血で真っ赤ですよ! お、大怪我じゃないですか!? すぐに治療しないと……!」

 

 たしかに、装備はヴォルカヌスの炎でボロボロだし、ワイバーンの皮を上から纏っていたせいで体が血と脂でベトベトだ。トゥーリアに至っては、全身がヴォルカヌスの血で真っ赤に染まっている。はたから見たら満身創痍そのものだろう。


 俺は慌てふためくルークを制して、安心させるために明るい口調で言った。


「大丈夫だよ、ルーク。ほとんど返り血だし、応急処置もしているから見かけほどの怪我じゃない」

「そ、そうなんですか……?」

「今、バルバロッサはいるかい?」

「はい、奥の族長室に」

「よし、じゃあそっちで報告するよ。ルークもついてきてくれる」

「わかりました」


 俺たちはルークとの再会の挨拶もそこそこに、そのまま族長室へと向かった。


「おじいちゃん! ただいまー!」

「おお、トゥーリア! よくぞ戻ってきた。そしてルーンウォルズの使者よ。そなた達も無事でなによりじゃ」


 玉座に腰掛けたまま俺たちを出迎えたバルバロッサは、その口元に笑みを浮かべた。


「ボロボロになった姿……一方で晴れやかな表情。そして先程のガリア火山でのマナの反応。それらを見れば結果は聞かずともわかる――成し遂げてくれたようじゃな」

「もっちろん! ヴォルカヌスはボクたちがやっつけたよ!」


 トゥーリアは胸を張って答えた。

 

「ヴォルカヌスを排除したことで、ガリア火山は迷宮ダンジョンとしての機能を喪失しました。じきに魔族も姿を消すと思われます。これで再びドワーフ達も安全に採掘ができるはずです」


 ミステルが補足説明をする。


「ヴォルカヌスの亡骸はそのままです。後ほど解体、運搬の人手について手配をいただければと思います」

「わかった、後始末は任されよ」


 俺たちから討伐報告を聞いたバルバロッサは、大きなため息をついた。

 そして目を細め、ポツリと呟く。


「……ようやくこの里も平穏を取り戻すというわけじゃな」


 バルバロッサはゆっくりと玉座から立ち上がると、俺たちの前に歩み寄った。


「よくぞ……よくぞ成し遂げてくれた。そなたらはこのドラフガルドの英雄じゃ。里を代表してワシから礼を言わせてほしい」


 そう言って、俺たちに向かって深々と頭を下げる。

 

「わぉ、おじいちゃんが誰かに頭下げるなんて、明日は槍でも降るんじゃないの」


 トゥーリアはわざとらしく驚きの声を上げると、ケラケラと笑った。

 一方で俺とミステルは、バルバロッサから向けられた深い敬意と感謝に、恐縮してしまう。

 もちろんドワーフ達を助けるという思いもあったが、あくまで彼らに手を貸したのはルーンウォルズの復興のため。自分たちの目的のためなのだ。


「バルバロッサ様。どうか頭を上げてください。俺たちは――」

「なに、みなまでいわずともよい。そなたらの街の復興――ドラフガルドの全面協力を、このワシが約束しよう」


 バルバロッサはそんな俺たちの気持ちを汲んで、ハッキリとした言葉で言い切った。

 その言葉を聞いて俺とミステル、そしてルークは顔を見合わせる。ドワーフの協力を取り付けることができた。これでこの旅の目的は、カンペキに達成された。

 

「さてと、里の危機を救った英雄たちをいつまでもそのようなボロボロの姿にしておく訳にはいかんな。すぐに湯浴みの準備をさせよう。それと新しい服も用意せねばな。しばし休息をとられよ」


  バルバロッサは上機嫌でそう言うと、さっそく配下のドワーフを呼びつけて、諸々の手配を始めた。


「今宵は宴じゃ。ドラフガルドが誇る至高の酒と料理で――英雄たちを盛大にもてなそうぞ!」

 

 こうして、ドワーフたちによる歓待の一夜が幕を開けた。

 


 

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