68話 ドラゴンスレイヤー
「逃すかッ!」
トゥーリアが、飛び立とうとするヴォルカヌスに向かって跳躍した。
彼女の手には
ヴォルカヌスは身体を大きく左右に
しかしトゥーリアは振り落とされんと片手で強引にしがみつき、もう一方の手を高く掲げた。
「
虚空から顕れし
「あっはっはっはっ! 散々やってくれたな、このクソトカゲ野郎ォッ!」
トゥーリアは
ヴォルカヌスが悲鳴のような鳴き声をあげた。
翼は切断こそされなかったものの、傷口からは血が吹き出る。ヴォルカヌスは空中での制御を失い、地面へと叩き落とされた。
「相変わらず硬いッ――なぁッ!」
地面に激突した衝撃で辺りに土埃が舞う中、トゥーリアは目にも止まらない速さでヴォルカヌスの口元に駆け寄る。
「外殻が硬いなら――ダイちゃんを食べさせてあげるよ!」
トゥーリアは
その刹那――
ガキィィンッ!
金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響いた。
彼女の刃がヴォルカヌスの口内に滑り込むより一瞬早く、その口を閉じてしまったのだ。
結果、
渾身の一撃を拒まれ、彼女の振るった
当然、ヴォルカヌスはその機を逃さない。
散々自身を苦しめた、忌々しい
それら一連の光景が――まるで不出来な人形劇でもみているかのように、ゆっくりと俺の視界に流れていって。
「トゥーリアッ!」
俺は思わず、彼女の名前を叫んでいた。
瞬間。
一陣の
疾風は一直線にヴォルカヌスの元まで疾り。
その真紅の瞳に、深々と突き刺さる。
――グオオオオオッ!
突然の激痛に咆哮するヴォルカヌス。
それは
彼女は表情を変えず、まっすぐヴォルカヌスを見据えたまま弓を構え、そして立て続けに二本目の矢を放つ。
二本目の矢も、ヴォルカヌスの残りの目玉を的確に貫いた。
ヴォルカヌスは天を仰ぎ、両の瞳を失った激痛に、落雷のような絶叫をあげた。
死地から脱出しようと翼を大きくはためかせるが、しかし片翼が傷ついたせいでうまく飛び上がることができない。
そして――
「ミステル! サイッコーのアシストだッ!」
体勢を立て直したトゥーリアが、再びヴォルカヌスの口元に目掛けて跳躍した。
「これで終わりだあああああああッ!!」
彼女は
肉を貫く鈍い音が響く。
大量の鮮血がヴォルカヌスの口元から噴き出した。
「まだまだああああああッ!」
トゥーリアは更に奥まで捩じ込むように、渾身の力を込めて
ブチブチバチンッと何かが引きちぎれるような音と共に、トゥーリアの身体ごと、
断末魔の叫びをあげ、激しく体を
やがて、その巨体は力なく地面に倒れ伏し、動かなくなった。
「やった……?」
俺は絞り出すようにして声を出す。
ヴォルカヌスの身体はピクリとも動かない。
どうやら完全に絶命したようにみえる。
(トゥーリアは――?)
最悪の想像が頭をよぎる。
俺はよろめきながらもなんとか立ち上がり、ミステルに支えられながら、ヴォルカヌスの亡骸へ近づいた。
「トゥーリア……? 大丈夫か? 無事なら返事を――」
俺は横たわるヴォルカヌスの巨大な死骸に向かって声をかけた。
すると――
「うひゃーっ」
間抜けな声とともに、血で真っ赤に染まったトゥーリアが、ヴォルカヌスの口から頭だけ外に出してきた。
「うえぇ……ぺっぺっ。めっちゃベタベタするし、熱いしクサいし……最悪だよぉ」
「……ぷふッ!」
あまりにも場違いなトゥーリアの感想に、思わず俺は吹き出してしまった。
よかった。トゥーリアも無事だった。
「ちょっと!? 人がこんな状態なのに笑うとかひどいよー!」
「あははははっ」
「もう。笑ってないで錬金術でキレイにしてよー」
トゥーリアは口を尖らせる。
「ごめんごめん、でも、ちょっと今は……錬金術は無理かな……魔力はすっからかんだ」
戦いが終わり、全身が安堵感に包まれる。
緊張の糸が完全に切れて、俺はその場にべったりと尻餅をつき、そのまま地面に大の字に寝転んだ。
そのとき。
ゴゴゴゴゴゴッ――
大きな地響きと共に、ガリア火山の火口から一筋の大きな光が上がった。その光は、空を焦がす炎のように雷雲の中へ天高く伸びていった。
「な、なんだ!? 噴火?」
「いえ……心配ありません。おそらく
「マナの解放――」
俺は
ガリア火山に
光の柱はそのまましばらく立ち昇り続け、やがて、上空で大きく弾け飛び、霧散した。
それと同時に、空を覆っていた雷雲は打ち払われ、太陽の光が降り注ぐ。
その眩しさに思わず目を細める。
視界に映ったのは、一面に広がる青空だった。
「終わり……ましたね」
「うん」
「お疲れ様でした、ニコ」
そう言ってミステルは俺に手を差し出す。
「ありがとう、ミステル」
俺は彼女の手をとって体を起こすと、ミステルに笑顔を向けた。
「ちょっとまったー! 二人の世界に入らないで! ヴォルカヌスの牙が引っかかって出れないんだよ〜! 助けてぇ」
トゥーリアが情けない声をあげて、俺たちに助けを求めてきた。
俺とミステルは顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。
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