47話 とっておきの野営食
ミステルが獲物の回収に向かっている間、いつもどおり俺は、テント設営を手早く終えた。
さて、次は焚き火の準備だ。俺はあたりを見回す。
いつもは地面に置いた薪に火をつけるだけの直火方式で焚き火をしているが、この辺りは石材が豊富に転がっていることから、少し凝った焚き火台を作ってみるのもいいかもしれない。
「ルーク、今日は食材はなにか持ってきている?」
「はい! 色々と持ってきましたよ。えーっと、パン生地に、チーズ、ミルク、野菜、干し肉……他にも色々です!」
「予想以上に持ってきたんだね……!」
「ふふ、いったじゃないですか。この旅のこと、僕は本当に楽しみにしていたんです」
ルークはいたずらっぽく笑った。
「それだけ色々食材が揃ってれば、なんでも作れるな」
俺は腕を組んで今日のメニューを考える。
パン生地があるということなので、それをメインに据えたメニューにしよう。チーズや野菜があって、ミステルが狩ったグレートディアの肉もあるから、ミートサンドイッチはどうだろうか。あ、でもサンドイッチはお昼に食べたな。
しばらく考えて、俺の中でひとつの料理が浮かぶ。
「よし、決めたぞ」
「何にするんですか?」
ルークは期待に満ちた視線をこちらに向けた。
俺は彼にニンマリと笑顔を返す。
「今日はピザにしようと思う」
「ピザ……ですか? 美味しそうですけど、さすがにオーブンは持ってきていませんよ」
ルークは少し戸惑っている様子だ。
「ふふふ、問題ないよ。これから作るからね」
「え!?」
「正確にはオーブンじゃなくて、
「すごいです! そんなものまで作れるなんて!」
ルークは目をキラキラさせて言った。
(うーん、この表情、アリシアにそっくりだ。やっぱり二人は兄妹なんだな)
「というわけで、早速準備しよう。まずは石集めだ。手伝ってくれるかい?」
「はい! もちろん」
俺とルークは手分けして準備を始めた。
***
「これくらいあれば大丈夫ですか?」
「うん、十分。さっそく石窯を錬成するよ」
俺は腕をまくり、積み上げた石に手をかざした。
「スキル展開。
スキルを使用すると、積み上げた石は瞬く間に青い光に包まれる。
俺は頭の中で石窯の構造、設計などを思い描く。
なるべく正確に、イメージを固めていく。
「
俺が錬金術の最後の工程のスキルを発動すると、青い光の輝きは強さを増した。そしてその光が次第に収まった頃、積み上げられたただの石は、立派な石窯に姿を変えていた。
「わぁ……!」
ルークが感嘆の声を上げた。
俺は完成した石窯のあちこちを触ったり叩いたりして、その出来栄えを確認する。ガタついたり、崩れそうになっているところはなさそうだ。
「うん、いい感じに仕上がった! これでピザが焼けるよ」
「すごい、すごい! 楽しみです!」
ちょうどその時、獲物を回収したミステルが帰ってきた。その手には、すでに解体されて枝肉となったグレートディアが握られている。
「お待たせしました……これは……?」
出来上がったばかりの石窯を見て、さすがのミステルも驚いたようだ。
「まさか、錬金術で作ったんですか? こんな立派な石窯を……?」
「へへへ、今日はこれでピザを焼こうと思ってね」
俺は得意げに胸を張る。
「本当にニコには驚かされることばかりですね」
ミステルはちょっと呆れたように、でも楽しげに微笑んだ。
さあ、準備は整った。おいしいピザを作ることにしよう。
***
手頃な木片から錬成したプレートの上で、パン生地をこねて薄く伸ばし、ピザ生地としての形を整えていく。
そのうえにまずは下地として、オリーブオイルと潰したトマトを混ぜて作ったソースを塗り、次に野菜と細切れにしたグレートディアの肉をトッピングした。
更に上からチーズをたっぷりと振りかける。
「よし、あとはこれを石窯の中に入れてと……」
石窯の火入はルークに任せていた……のだが。
「ごめんなさい……なかなか薪に火が移らなくて……」
ルークは申し訳なさそうに顔を伏せる。
そんなルークを見て、俺は笑って首を横に振った。
「大丈夫だよ。意外と薪の着火って難しいからね。初めてだったら上手くいかなくてもしょうがない」
俺は石窯の中を覗きこんで薪の様子を伺った。
種火はチラついているものの、本格的な火付けには至っていないといった感じだ。
「これなら……」
俺は石窯に向けて手をかざし、錬金術を発動した。
錬成の青い光が石窯の中を包む。その後、薪からは勢いよく炎が燃え上がった。
その様子を目の当たりにしたルークは驚きの声を上げた。
「す、すごい! 今のも錬金術ですか!?」
「うん、薪の周辺の酸素濃度を調整したんだ。」
「酸素濃度の調整って……そんなこともできるんですね……!」
「ふふふ、実際これはなかなかの高等技術だからね。形ないものを錬成するのが一番難しいんだ」
「さすがニコさん! 凄いです!」
ルークに褒められて俺はちょっとだけ得意になった。
***
火付けをしてから数十分。
石窯の内部は放射熱により十分に熱されたようだ。
俺は具材がこぼれないように慎重に、トングを使って石窯の中にピザを差し入れた。そして、一部が焦げないように少しずつピザを回していく。
しばらくすると、チーズが溶けてぐつぐつと沸騰しだすと共に、ピザのフチの生地がパンのようにふんわりと膨らんできた。全体に火が入った合図だ。
煙の匂いに混じって、食欲をそそる、焼けた小麦の香ばしい匂いが辺りに立ち込める。
「よーし! ピザが焼き上がったぞ!」
俺はトングを使ってプレートにピザを乗せ、ミステル達の元へ運ぶ。
「わぁ……! すごく美味しそうです!」
ピザの出来上がりを見てルークが目を輝かせた。
その隣ではミステルも、口では何も言わないが、早く食べたいのだろう、そわそわした様子で出来上がったピザを覗き込んでいる。
俺は短剣でピザを切り分けた。
「さあ、冷めない内に食べよう。あ、でもめちゃくちゃ熱いから、ヤケドには気をつけてね」
「いただきまーす!」
焼きたてのピザを頬張る。
「お、美味しい……!」
誰ともなく感嘆の言葉が漏れた。
一噛みすれば小麦の風味豊かな味わいと一緒に、トマトソースの程よい酸味が口の中いっぱいに広がる。
石窯で焼いたからこそ生まれる、絶妙な歯ごたえとパリッとした食感が素晴らしい。
もちろん生地やソースだけじゃない。具材として載せた、フレッシュな野菜と、ジューシーなグレートディアの肉が合わさって絶妙なハーモニーを生み出している。
そこにチーズの濃厚なコクと香りが加わり、まさに至福の味。
作った自分が言うのもなんだが、最高だ。ただその一言に尽きる。
そもそも、
ミステルとルークも夢中でピザを頬張る。二人とも実に幸せそうな表情を浮かべていた。
俺たちはあっという間に一枚目のピザを完食してしまった。
なーに、まだまだ材料は残っている。次々に焼いていこう。
***
「あ〜、美味しかった……」
結局、ピザを三枚焼き上げ、その全てを三人で平らげたところで、お腹は満たされた。
「とっても美味しかったです。こんな美味しいピザは生まれて初めて食べました!」
ルークは感極まった様子で微笑んだ。そんなに喜んでくれたなんて、頑張って料理した甲斐があった。
さてと、食後は……いつも通りミステルがコーヒーを淹れてくれるかな?
「あの……僕、こんなものを持ってきたのですが……」
ルークはおずおずとそう言うと、荷袋から
「もしよかったら食後はこれを飲みませんか?」
そ、それは領主邸の初夜に飲んだ
ただでさえ絶品だったお酒だ。
気の置けない仲間と焚き火を囲み、その火で炙ったチーズなんかを
俺はゴクリ、と喉を鳴らした。
「わたしは索敵を続けるので、お酒は控えておきますね。わたしに気にせず二人で飲んでください」
「大丈夫です! ミステルさんのためにノンアルコールのブドウジュースも用意しましたので」
(ナイスだ。ルーク!)
「ありがとうございます。ではそれをいただきますね」
ルークは各自のカップに
俺はカップに近づけて香りを嗅いだ。
(うーん、やっぱりいい香りだ)
そして、カップに口をつけてそっと一口。
芳しく甘い果実の風味が口いっぱいに広がる。
「ああ、美味しい……」
そして串に刺して火で炙ったチーズを一口……
ああ、最高だ。
さっきあれだけの量のピザを食べたのに、全然お腹に入る。まさに別腹。
ルークも、ミステルも、とても楽しそうだ。
俺たちは三人で焚き火を囲みながら、
***
錬成の成果
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【石窯】1台
効果/その辺の石を組んで作った単層式の石窯。ピザや、パンなどを焼ける
品質/B
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