45話 戦闘用アイテムを作ろう

 ドワーフの里出発まであと三日。


 今日は朝からアトリエの工房にこもっていた。今回の旅で携帯するアイテムを錬成するためだ。


 今回錬成するのは回復系のアイテムではない。

 俺は備忘録メモランダムページを開く。


――――――

――――――

【調合:しびれ薬】

材料/ベニハナタケ:1 シビレアゲハの鱗粉:1

効果/対象を状態異常【麻痺】にさせる。

備考/付加効果エンチャント 【即効性】【威力強化】


【調合:毒薬】

材料/コドクガエル:1 ナルキソスの花弁:1  コロリタケ/1

効果/対象を状態異常【毒】にさせる。

備考/付加効果エンチャント 【即効性】【威力強化】【無味無臭】


【調合:ねむり薬】

材料/レムの花の根:1 スリプの実:1 精製水:1

効果/対象を状態異常【睡眠】にさせる。

備考/付加効果エンチャント 【即効性】【威力強化】【無味無臭】


【調合:けむり玉】

材料/オガクルミ:1 ケムリクサ:1

効果/投げた一帯に一定期間煙幕をだす

備考/付加効果エンチャント 【範囲大】

――――――

――――――


 作るアイテムはこんなところだ。

 今回は、敵の動きを阻害するための【状態異常】を引き起こすアイテムを中心に錬成するつもりだ。

 

 俺はハイオークとの戦いの記憶を思い出す。

 あのとき、あらかじめ錬成しておいた閃光玉と痺れ薬が予想以上に活躍してくれた。

 戦う術が少ない俺でも戦闘用アイテムをうまく使用すれば強力な魔族相手でも互角以上に渡り合えたのだ。


 もちろんドワーフの里へは戦いのために行くわけじゃないけれど、道中どんな危険な目に会うかは分からない。備えあれば憂なしというヤツだ。


「よし、錬成はじめるか」


 錬成に必要な素材は、あらかじめオイレの森やその近辺で採集しておいた。

 俺は作業台の上に並べた素材を見回してから、腕まくりをして気合いを入れた。


 と、そのとき。


「師匠ー、いる?」


 工房の扉の向こうから、元気な声が聞こえてきた。


「ああ、アリシア? 開いてるから入っていいよ」

「お邪魔しまーす!」


 俺の言葉と同時に扉が勢いよく開かれて、アリシアが中に入ってきた。


「やぁ、アリシア。今日はどうしたの?」

「えっと……教本でわからないことがあったから、質問に来たんだけど……」


 アリシアは作業台に並べられた素材に目を移す。


「もしかして、これから何か錬成するの!?」


 みるみるうちにアリシアの目が好奇心でキラキラと輝き出す。


「うん、ルークと一緒にドワーフの集落に行くんだけど、そのときの旅に必要なアイテムを色々と作っておこうと思ってね」

「はい、師匠! 見学したいです!」


 アリシアは元気よく片手を上げた。


「いいよ。だけど今回は危険な素材も扱うから、触ったりしちゃだめだよ」

「やったー! ありがとう!」


 飛び跳ねながら喜ぶアリシアを見て、俺は思わず微笑んでしまう。この子は本当に表情豊かで見ていて飽きないな。


***


 俺は作業台の上に置かれた素材を手に取り、錬成を始めることにした。


 まずは、しびれ粉の錬成に取り掛かる。

 備忘録メモランダムのレシピの分量どおり、基本素材を木の器の中にいれて、更に付加効果エンチャントのために必要な素材も加える。これで準備は完了だ。


 さて、いつもなら【分解ニグレド】スキルから順に発動するけれど……

 俺は新しく覚えたスキルを試してみることにした。


「スキル展開――【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】!」


 詠唱と共に、器の中の素材は、まばゆい光に包まれた。そして、その光が収まった後には、灰色の粉にその姿を変えていた。

 俺は成果物に対して、さっそく【分析アナライズ】を行う。


――――――

――――――

 【しびれ薬】

 効果/対象を状態異常【麻痺】にさせる。

 品質/A

付加効果エンチャント/【即効性】【威力強化】

――――――

――――――


 よし! 錬成成功。品質にも問題なし。


「はいはーい、師匠! 質問、質問があります……!」


 アリシアが手を挙げながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「今のはなに? 錬金術のスキルは、三段階の工程に分けて発動するんじゃないの!?」

「よく勉強しているね。そのとおりだよ」

「じゃあなんで師匠は今、一瞬で錬成できたの?」

錬金術師アルケミストの上級スキルのひとつ、【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】を発動したんだ」


 俺は新スキルの効果を説明する。


 【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】は文字通り、錬金術の錬成速度を早めるためのスキルだ。

 

 アリシアがさっき言ったとおり、通常、錬金術の発動は【分解ニグレド】【再結晶キトリニタス】【大いなる業アルス・マグナ】と、三段階の工程を経る必要がある。

 しかし、この【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】スキルを取得していれば、その工程を一段階で済ませることができる。

 つまり、錬成にかける時間が、少なくとも三分の一以下になるということだ。


 ちなみに【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】の魔力消費量は通常の錬金術より大きいし、錬成できるものは、過去に自分が錬成したことがあるものに限られるという、発動条件もある。

 

 その制限を差し引いたとしても、かなり使い勝手がいいスキルだ。特に敵との戦いの手段として錬金術を行使する俺みたいなヤツにとっては。


 アリシアは、俺の説明を聞き終わると、興奮したように感嘆の声をあげた。


「はえーさすが師匠だねぇ。あーあ、わたしも早く錬金術を自由自在に使いこなせるようになりたいなぁ」


「教本はどのくらい進んだんだの?」

「えっとね……今は第三工程【大いなる業アルス・マグナ】の理論のところだから、あと少しで読み終わるところだよ」

「すごいな。学院アカデミーでは、一年をかけてあの一冊の内容を学ぶんだよ。教本を渡してからまだ一ヶ月しかたっていないのに……頑張ったんだね」

「えへへ、錬金術の勉強はとっても楽しいし……わからないところは師匠が教えてくれるからだよ」


 アリシアは照れ臭そうに笑う。

 もうそろそろ次の段階に進んでもいいかもしれない。


「アリシア、その教本を全部読み終えたら、次は実践に進んでいこうか。教本の内容をちゃんと理解していれば、もう簡単な錬成はできるはずだよ」

「ほんと!?」


 アリシアは飛び上がりそうな勢いで笑顔になった。


「うん、もちろん」

「やったー! よーし、あと少し頑張ろうっと」


 嬉しそうな彼女の様子を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。


 それにしても、錬金術が楽しい、か。


 錬金術に対するアリシアの姿勢は俺も見習わないといけないな。やる気に満ち溢れるアリシアを横目に、俺は次の錬成の準備を始めた。


 この錬成――俺も楽しんでいこう。


***


錬成の成果

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【しびれ薬】 10個

効果/対象を状態異常【麻痺】にさせる。

品質/A

備考/付加効果エンチャント/【即効性】【威力強化】


【調合:どく薬】 10個

品質/A

効果/対象を状態異常【毒】にさせる。

備考/付加効果エンチャント 【即効性】【威力強化】【無味無臭】


【調合:ねむり薬】 10個

効果/対象を状態異常【睡眠】にさせる。

品質/A+

備考/付加効果エンチャント 【即効性】【威力強化】【無味無臭】


【調合:けむり玉】 5個

効果/投げた一帯に一定期間煙幕をだす

品質/A

備考/付加効果エンチャント 【範囲大】

――――――

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