43話 新しいスキルを覚えよう


 オークとの戦いから数日経ったある日のこと。


「ついに届いたか……」

「届きましたね」


 俺とミステルはアトリエのリビングテーブルに向かい合わせに座り、テーブルの上に置かれた袋を見つめていた。

 この中にはオーク討伐の戦果ドロップが入ってる。

 中に入っているのはハイオークの魔石が一個、そしてオークの魔石が百二十個と、かなり大量だ。

 これだけ大量の魔石を、ルークとアベルの好意で、俺とミステルがまるっと貰い受けることになったのだから、とても嬉しい。


 魔石はエルクお金にも変えられるし、装備の原料にもなる。

 なにより、冒険者にとっての一番重要な使い道として、魔石を使ってスキルを強化したり、新しいスキルを覚えることができるのだ。


 基本的にスキルは、人の技術や知識が研鑽の果てに、その者の魂に刻まれたときに顕現けんげんする。

 しかし、魔石を使用することで、強制的にスキルを解放することができるのだ。

 ちなみに、なぜ魔族だけが持つ魔石を用いて、人族がスキルを解放できるのか、その原理は解明されていない。

 

 一応この世界では青い月ルメリア赤い月アナトリアの関係性にちなみ、魔石が持つ混沌ケイオスのエネルギーに、秩序ロウの法則性が与えられた結果、スキル解放に至る、というような考えが採用されているが、本当のところは誰にもわからない。


 

「さて……どうしようか」

「そうですね、やっぱりスキルのために使うのがいいかと思います」

「やっぱりそうだよねー!」


 ハイオークの魔石はとりあえず置いておいて、オークの魔石をミステルと二人で山分けしたとして、使える魔石は一人で六十個。これだけあれば複数のスキルを覚えることだってできる。俺たちの大幅レベルアップが見込めるのだ。

 

 青の一党ブラウ・ファミリアにいた頃は魔石の管理はすべてラインハルトが行っていた。だから、こんなに大量の魔石を自由に使うことが許されるなんて、俺にとって初めての経験だった。当然、ワクワクして浮かれてしまう。


(うーん、どうしよう。錬金術のスキルでもいいし、新しい【知識】を増やしてもいいかな)


 俺がうんうんと頭を悩ませていると、ミステルが俺の顔をにやにやしながら見つめていた。


「な、なに?」

「いえ、ニコがあんまりに楽しそうなので、こっちもなんだか楽しくなってしまいました」

「え、そんなに浮かれてるように見えた? えへへ……」


 子供っぽい振る舞いをしてしまったことに、俺は照れ臭くなって頭をかいた。


「ところで、ミステルはどのスキルを強化するか、もう決めたの?」

「はい。わたしは……、今後の魔族との戦いのために【広域射撃】と【気配遮断】を習得しようと思います」


 そう言うとミステルは自分のスキルボードを展開した。

 ちなみにスキルボードでは自分がまだ覚えていないスキルも確認することができる。


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シューター

【広域射撃】 一度に複数の敵を射撃する


スカウト

【気配遮断】気配を消して、敵に気取られることなく行動できる

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 なるほど、彼女は自分のスタイルにあった戦闘スキルを選ぶつもりのようだ。

 今でも充分頼りになるけれど、もっと強くなるんだろうな。


「ニコはどうするつもりですか?」


 今度はミステルが聞いてきた。


「うん、いろいろ候補はあるんだけどね……」


 俺も自分のスキルボードを展開する。


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アルケミスト

高速錬成ルベド・アルス・マグナ】 錬成の速度を早める


スカラー

【植物学】 植物学の知識を得る

【農学】  農学の知識を得る

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「【高速錬成ルベド・アルス・マグナ】は、少しでも戦いの場で錬金術を使いやすくしようと思って。俺には今のところ魔族と戦う術が、【錬金術】と【基礎魔法】しかないからね」


 残念ながら俺はセージの適性が低いため、【基礎魔法】以上の、強力な魔法スキルを覚えることができない。


「【植物学】と【農学】というのは?」

「えっとね……、せっかく、アトリエに畑がついているから、薬草や香草ハーブを育ててみるのもいいかな、って思ってさ」

「いいですね。わたしもお手伝いしますね」

「ありがとう、そのときはよろしく頼むよ」


 お互いの情報共有が終わったところで、さっそく魔石を使ってスキルを覚えよう。


 俺はスキルを覚えるために必要な分の魔石を袋から取り出し、前に並べた。

 魔石に手を触れて、精神を集中させ、習得したいスキルを頭に描く。

 すると魔石は赤い輝きを放ちだし、その光は広がり俺の全身を包む。やがて光がおさまると魔石は消えて、体にほのかな暖かさを感じる。

 そして頭の中に新しい「知識」と「技術」がスキルとして加わった感覚があった。


「どうでしたか?」

「うん、ちゃんと覚えたみたいだよ」

「それは良かったです。わたしも無事にスキルを獲得できました」


 俺とミステルは顔を見合わせて笑う。


「魔石も半分くらいは残ったし、これは今後のためにとっておこうか」

「そうですね」


 ハイオークの魔石は大きいし、使い道も多いので、これも今は使わずにしばらく置いておくことにした。

 

 こうして、俺とミステルは新たな力を手に入れたのだった。



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ニコのスキルボード

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アルケミスト

分解ニグレド】 錬金術の第一工程。物質を分解する

再結晶キトリニタス】 錬金術の第二工程。物質を抽出し再構築する

大いなる業アルス・マグナ】 錬金術の第三工程。分解・再結晶を経た物質を、完全な物質として固定化する

【遠隔錬成】 行使者と地続きの部分に座標地点アンカーポイントを設定し、その場所に錬金術を発動する

高速錬成ルベド・アルス・マグナ】 錬成の速度を早める NEW


スカラー

【分析】 品物の価値や用途、効果を調べる。特定の知識を持つ場合、より精緻な分析が可能

【薬学】 薬学の知識を得る

【工学】 工学の知識を得る

【初級医学】初級医学の知識を得る

【植物学】 植物学の知識を得る NEW

【農学】 農学の知識を得る NEW


ウィザード

【基礎魔法】 四大属性(火・水・土・風)の基礎魔法を使える

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ミステルのスキルボード

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シューター

【精密射撃】 精密な射撃の技術を習得している

【狙撃】 遠距離からの射撃の技術を習得している

【鷹の目】 後方や隠れた敵を発見する

【エーテルアロー】 魔力を消費して魔法の矢を放つ

【広域射撃】 一度に複数の敵を射撃する NEW


レンジャー

【魔族の知識】 魔族の生態等に詳しい

生存術サバイバル】 サバイバルに熟知

【トレジャーハント】 ダンジョンに隠れた宝物を見つけやすくなる


スカウト

【トラップスキル】 設置された罠を察知し解除することができる

【ファストアクション】 敵に気づかれずに先制攻撃を取りやすくなる

【気配遮断】気配を消して、敵に気取られることなく行動できる NEW


プリテンダー

【幻術】 対象の外見を変化させることができる

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