40話 戦果報告


 朝起きた後の朝食の間も、そして今、領主邸へ向かう道の途中も、俺はひたすらミステルに頭を下げた。


「ごめん! つい睡魔に勝てなくてミステルのベッドに倒れ込んじゃっただけなんだ! 変な気なんてこれっぽっちもなくて――」

「大丈夫ですよ、わたしは全然気にしてませんから。そんなに謝らないでください。というか、そんなに謝られるとショックです……わたしはむしろ……毎日一緒に寝ても構わないのに……ゴニョゴニョ」

「へ? なんか言った?」

「なんでもありません! そんなことより、昨日はわたしが眠ってしまった後は大丈夫でしたか?」

「あー、うん。ちょっとだけトラブルはあったけど、大丈夫だったよ」

「トラブル?」

「いやいや、ミステルは気にしなくて大丈夫」

「?」


 怪訝そうな顔で首を傾げるミステル。仕留め損ねたハイオークと戦ったなんていったら、いたずらに彼女を心配させるだけだから、俺は黙っておくことにした。


「さてと、領主邸についたら、昨日の戦いの報告を受けなきゃね」

「そうですね、街の被害は少ないといいのですが……」


 そんなことを話している間に領主邸へ到着した。

 扉を開けると、クロエさんが出迎えてくれた。


「二人とも、おはよう。体調は平気か?」

「はい、おかげさまで」

「それはなにより。執務室にみんな揃ってる。こっち」


 俺たちはクロエさんに従い、ルークの執務室に入室した。


「ニコさん、ミステルさん。おはようございます」


 中に入った俺たちを、執務机に座っていたルークが笑顔で出迎えた。

 昨日の別れ際はだいぶ参っていた様子だけど、とりあえず元気になったみたいだ。


 部屋の中にはすでにアベルも到着しており、応接用のソファに腰掛けていた。俺たちに向かって会釈をする。


「朝早くから来ていただいてありがとうございます。とりあえずソファーに座って下さい」


 ルークの促しに応じて、俺たちはソファーに座った。

 そのまま、ルークも座る。


「それでは我輩から昨日のオーク達との戦いの戦果報告をさせていただきます」


 関係者全員が揃ったところで、アベルが口を開いた。


「こちらをご覧ください」

 

 アベルは懐から一枚の巻物スクロールを取り出し、テーブルの上に広げた。

 そこに書かれていた内容に目を通す。


――――――――

【ハイオーク襲撃の結果報告】

・ハイオーク 1頭(Aランク)、オーク 120頭(D〜Cランク)、すべて討伐

・建物被害 なし

・人的被害 重傷者2人、軽傷者5人、死者0人

・戦果 ハイオークの魔石、オークの魔石、その他オークが身につけていた装備品多数

――――――――


「よかった……、誰も死ななかったんだ」


 思わず俺は声をあげた。


「はい、ハイオークに襲撃された者たちも、重傷を負いましたが、幸い命に別状はありません。今回の作戦、我々の完全勝利といって差し支えないでしょう。これもすべてニコ殿とミステル殿のおかげです。あなた方はこの街を守った英雄ですな」


 そういってアベルは深々と頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください……! 俺たちは自分ができることをやっただけです。この街を守れたのは、俺たちだけじゃなくて、アベルさんやルーク、それに衛士団の皆さん達……みんなの力があってこそですよ」


 俺は慌ててそう言った。感謝の念を向けられることに慣れていなくて、戸惑いの気持ちが大きかった。


「真の強者は皆、そのように自分の力をひけらかすことなく謙虚なものです。とにかく衛士団を代表して、我輩から御礼をいわせていただきます。それで……」


 アベルはそのまま話を続けた。


「この度の討伐にかかる魔石については、ルーク殿と相談をしまして、すべてニコ殿らにお渡ししようということになりました」

「え!?」


 俺は目を丸くして、聞き返した。


「そりゃ助かるけど……いいの?」


 俺の問いにルークが代わって答える。


「はい。この街に再び危機が訪れたとき、今回のように、お二人が中心となって対応してもらうことになると思います。そのためにはお二人の装備や技能スキルを強化しておかないといけませんから。遠慮なく受け取ってください」

「そういうことなら、ありがたく頂戴します」


 俺はルークにお礼を言う。


「それと……今日はこの後、昨夜の戦いを労うための、ささやかながら宴会の席を設けさせていただきます。もしよろしければお二人も参加していただければ……」

「おお! それは楽しみ! ぜひ――」


 参加を表明しかけて、いやまてよと思い直す。


 ミステルはそういう騒がしい席が苦手かもしれない。そう思ってミステルの方に視線を向けると、


「わかりました、参加します」


 ミステルは穏やかな表情でそう答えた。その答えを聞いて、ルークの表情がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます! 準備ができましたらお声がけしますので!」


 俺はミステルに小声で話しかけた。


(ミステル、大丈夫? 騒がしいの苦手じゃない?)

(苦手ですけど、時と場合と一緒に参加する相手によります)


 そういうものなのか。

 でもこれで心おきなく宴会に参加できるぞ。俺はワクワクしていた。



 

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