29話 お嬢様と錬金術
俺は彼女を工房へと案内した。
「散らかっているから足元に気をつけて」
「お邪魔しまーす……わぁ、すごい。いろんな道具があるんだね」
アリシアは室内をキョロキョロと見回している。
「すごい……! あんなに大きな本棚なのに全部埋まってる。あれ全部錬金術の本なの?」
「そうだね。ほとんどが前住んでいた
「わぁ、この釜すごい大きいね。これも錬金術に使うの?」
「うん、それは錬成釜といって、材料を入れれば自動でアイテムを錬成してくれる道具だよ。実は今日はこの釜を使って
「え、そうなの? 見てみたい!」
「いいよ、じゃあまずは材料を入れようか」
俺は釜の中に、オイレの森で採集した大量の薬草を入れる。あとは精製水とハチミツを入れればいいだけだが――
せっかくだからアリシアに手伝ってもらおうかな。
「アリシア、そこの蛇口から水を汲んで、このビーカーに入れてくれないかい」
「え、わたしがやっていいの?」
「うん、よろしく頼むよ」
「ありがとう! この蛇口ね。……わぁ! なんか青白く輝いてる……!」
アリシアは錬成符が仕込まれた蛇口を捻って目を輝かせた。
「その蛇口には錬金術のちょっとした仕掛けがされてるんだ。いま出ている水はただの水道水じゃなくて、薬の材料になる精製水なんだよ」
「へぇ〜、すごいなぁ。面白いなぁ。不思議だなぁ」
アリシアの目の輝きはますます強くなるばかりだ。
「この水は全部入れちゃっていいの?」
「うん、お願い。今回は錬成釜で一度に沢山の薬を作るからね」
俺の指示に従ってアリシアは錬成釜の中に慎重に精製水を注ぎ込む。
「ありがとう、アリシア。最後にこれを入れれば準備完了だ」
俺は懐からハチミツを取り出した。
「それは、ハチミツ? でもすごい綺麗。黄金色にキラキラ輝いているみたい」
「ふふふ、これはただのハチミツじゃなくて、キラービーの巣から採取したロイヤルハニーなんだ。苦労したんだよ、これ手に入れるの」
「そうなんだ。頑張ったんだね!」
ふふん、と俺は胸を張る。
「
「正確には、薬草と精製水があれば作れるよ」
「え、そうなの? それじゃあハチミツはなんのために入れるの?」
「よくぞ聞いてくれました」
「あは、なんだかニコも楽しそうだね」
(そりゃ楽しいさ。自分の好きなこと、得意なことについてこうして興味を持ってもらえているんだから)
「錬金術で作るアイテムは、基本となる材料の他に、特定の素材を入れることで、
「
「そう。
「すごい、錬金術ってただアイテムを作るだけじゃなくて、そんなこともできるんだね」
アリシアは感心してうなずいた。
ただし、
その点、自慢じゃないけど俺の
これは長年の俺の研究成果だ。
「よし、ハチミツもいれて、これで準備完了だ」
「いよいよ錬成なんだね! ドキドキするなぁ」
俺は錬成釜を起動する。淡い光が錬成釜を満たし、その後白い煙が釜の中からもくもくと出てきた。
錬成釜の中では、薬草と精製水、それにハチミツが分解され、徐々に混ざり合っているはずだ。
この光が収まったこと、それが錬成の完了した合図となる。
「よし、もう大丈夫かな」
光が収まったことを確認してから、錬成釜の中を覗き込んだ。釜の中は黄金色に輝く液体で満たされていた。
「これで完成なの?」
アリシアは一緒に身を乗り出して釜の中を覗き込み、目を輝かせている。
「ちょっと待ってね。今ちゃんと錬成できたか確認するから」
俺は【分析】スキルを発動した。
――――――
――――――
【
効果/飲用することで傷や病の回復を促進すると共に、気力や活力を完全回復することができる。
品質/S+
――――――
――――――
「うん、バッチリだ!」
品質もS+と最高ランクだ。
あとはこれを小瓶に小分けすれば完成だ。
「アリシアお待たせ。これで完成だよ。これから薬瓶に小分けするから、手伝ってくれるかい」
「もちろん! 任せて」
「ありがとう。沢山あるから大変だけど。それが終わったらさっそく病院と衛士団に持っていこうね」
「うん! みんな喜んでくれるかな」
こうして俺たちは手分けをして、完成した
***
錬成の成果
――――――
――――――
【
効果/飲用することで傷や病の回復を促進すると共に、気力や活力を完全回復することができる。
品質/S+
――――――
――――――
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