錬金術師は孤独な少女を見捨てない ~S級パーティで孤立した少女をかばって辺境の街へ追放されましたが、追放先ではお砂糖成分多めのスローライフします~
24話 キャンプごはん〜オークがドロップした謎肉鍋〜
24話 キャンプごはん〜オークがドロップした謎肉鍋〜
「それじゃあわたしはオークの魔石を回収しますね」
「うん」
そういうとミステルは短剣を片手に、オークの亡骸を切り開き、魔石を摘出していく。その手つきはとても慣れたものだった。さすがは
彼女がさっき何気なく口にしたフレーズ――魔石。
そう、魔族には心臓の中に必ず核となる石がある。
その核のことを『魔石』といい、冒険者にとって魔石の使い道は色々だ。
装備品に埋め込んで威力をあげたり、アイテム加工の材料にしたり、ギルドに持ち込んで換金したり……
なにより、魔石から魔族の持っていた生命力を抽出することで、俺たち人族は新たなスキルを覚えることができるのだ。
だから、俺たち冒険者にとって、魔石はなによりも重要な
ミステルが魔石を回収している間、俺はオークが持っていた皮袋をあさる。
中には石を研いで造られた短剣や火打ち石などの雑多な道具の他、大きな肉塊と羊皮紙に包まれた香辛料が入っていた。
香辛料は貴重品だ。オークが栽培できるとも思えない。もしかしたら商人あたりからの略奪品の可能性もある。
ということは……
「この肉、まさか人肉じゃないよね……?」
恐る恐る謎の肉塊を眺めていると、魔石の回収を終えたミステルが横から覗き込んできた。
「いえ、これは多分……ワイルドボアの肉ですね。ほら、表面に毛皮が少し残っています」
「ってことは、イノシシの肉ってことか……ホッ」
ホッとしたのも束の間、イノシシ肉と分かるとまた別の考えが頭に浮かぶ。
(野営で食べたら美味しいんじゃないか?)
「もしかしたらこのオーク達は、群れから離れて狩りをしていたのかもしれませんね。だとしたらそう遠くない場所にオークの集団がいる可能性がありますが」
「注意が必要ってことだね」
結局俺たちは、魔石と香辛料、それにワイルドボアの肉を
***
オークとの遭遇というちょっとしたハプニングもあったが、一日目の採集は順調に終了した。
日も傾いてきたので、今日の探索はこの辺りで切り上げて俺たちは野営の設営をする。
それも完了し、お楽しみの夕食の時間になった。
野営食の担当は主にミステルだ。彼女の持つスキル【魔族の知識】をフルに活かして、素材を生かした最適な方法で調理をしてくれる。
ちなみにこのスキル、本来は魔族の習性や弱点を知るためのものなんだけどね。
「今日はオークから手に入れたワイルドボアの新鮮な肉を使って、採集した山菜やきのこと一緒に鍋にして食べましょうか」
「おお、ボタン鍋か。いいねぇ」
「ボタン鍋……?」
「あ、俺の故郷ではイノシシ肉を使った鍋のことをそう呼ぶんだよ」
「そうなんですね、初めて聞きました」
ミステルはナイフでワイルドボアの肉を捌くと、薄くスライスし、香辛料を振って下味をつけ、それを器に移した。
「すいません、鍋に水を張ってもらえますか」
「オッケーまかせて」
俺は水魔法を使って、鍋に水を張る。
(うーん、基礎魔法はやっぱり便利だ)
ミステルは山菜とキノコを切り分け、イノシシ肉と一緒に鍋に入れて火にかける。
しばらく経つと、グツグツと煮える音とともに、辺りには食欲を刺激する香りが立ち込めた。
「そろそろいいかな……」
ミステルは鍋の中の具材のようすを確認した後、塩で味を整えてから、木皿に取り分けてくれた。
「どうぞ、熱いうちに召し上がってください」
「いただきまーす!」
まずはメインのワイルドボアの肉を一口食べる。
「うぉぉ、うまい!!」
一口噛むと濃厚な脂がジュワッと溢れ出し、旨味が口いっぱいに広がった。
獣肉特有のクセや臭いが強いかと思いきや、オークがしっかり血抜きをしてくれたのか、はたまた香辛料で下味をつけたおかげなのか、エグさなどはまったく感じない。噛めば噛むほど肉の旨みが広がっていく。
続けて山菜を口に運ぶ。シャキシャキした歯ごたえのあと、ほどよい苦味が染み渡る。絶妙なバランスで肉の味と互いを引き立て合っている。キノコも肉厚でふわふわだ。
そしてスープ。これがまた格別だった。猪肉、野菜、キノコ、それら、すべての食材からたっぷりと出たダシが混ざり合ってよく効いている。味付けは塩だけと言われても信じられないくらいの深みがある濃厚なスープだ。
「いや〜ほんと美味しい! さすがミステルだなぁ」
「ふふっ、おかわりもありますから、沢山食べてくださいね」
ミステルは空いた木皿におかわりを注ぎながら、ぽつぽつと話す。
「その……これまで野営のときはいつも独りで食べることが多かったので、他人の口に合うか分からなかったのです。でも、ニコはいつも喜んで食べてくれて嬉しいです」
「ええ、こんな美味しい料理を独り占めなんて、ずるいなぁ」
「わたしが出会った冒険者は、魔族を食べると聞いただけで眉をひそめる人ばかりでした」
「うーん、味気のないパンや干し肉だけを食べるより、あったかくて栄養満点なご飯を食べられた方がよっぽどいいと思うけどね」
「ふふ、ニコは変わっているですよ。わたしと一緒です」
そういってミステルは微笑んだ。焚き火の炎に照らされて、銀髪がきらめいている。
先ほどまで凛とした姿でオークを屠った彼女とはまるで別人のような優しい表情をしている。
(そんなギャップが可愛いんだよなぁ)
「……? どうしたんですか」
「い、いや! なんでもないよ」
その優しい顔に思わず見入ってしまっていた。
慌てて俺は目を逸らした。
そんなこんなで、あっという間に鍋の中は空っぽになっていた。
「ふう……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。はい、食後のコーヒーです」
「ありがとう。うん、美味しいよ」
美味しいご飯の後には食後のコーヒーまである。至れり尽くせりとはまさにこのことだと思う。
ミステルと一緒なら野営すら楽しい。俺はすっかりキャンプ気分に浸っていた。
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